コラム ロジックモデル
市民主体の地域に根ざした創造活動を支援する環境づくりを行う「としまアートステーション構想」
ソフト型コミュニティ事業の一例として、ここでは、東京都豊島区において実施された「としまアートステーション構想」(2011〜2016年度)を紹介します。この事業は、豊島区民をはじめとするさまざまな人々が、区内の魅力あふれる地域資源を活用し、アート活動を展開できる「環境システムの構築」と、それによる「コミュニティ形成の促進」を目指し、東京都、アーツカウンシル東京(公益財団法人東京都歴史文化財団)、豊島区、NPO法人アートネットワーク・ジャパン(2011〜2012年度)、一般社団法人オノコロ(2013〜2016年度)の共催により実施されました。
この事業の拠点であった「としまアートステーションZ(以下、Z)」は、公共施設の一角にある元食堂を活用したスペースです。来場者は、通りがかってふらっと立ち寄る人、お昼休憩をしに来る人、自分の活動を持ち込む人、おしゃべりをしに来る人など、さまざまです。Zでは、アートや地域に関心がある人はもちろんのこと、そうでない人でも気軽に立ち寄り、自由に過ごしたり、やりたいことを表現したり試したりできる場づくりを行いました。
招聘アーティストによるプロジェクトでは、アーティストが、豊島区の地域性や人々の暮らしに対する独自の視点や深い洞察をもとに、作品を制作します。その姿を区民に見せ、ときには区民を巻き込んでいくことで、日常では気付くことのなかった新たな価値観や、自分でもやってみたいという意欲を触発し、地域への創造的な関わりを促していきました。
また、地域でアート活動をはじめたい人たちを「オノコラー(おのずところがる=自発的に活動をはじめる人)」と名付けて募集しました。そして、地域に根ざしてアート活動をはじめるための各要素を、それぞれの興味関心に合わせて経験できる機会を提供しました。
アンケートによれば、来場者はアーティストの作品を通して、普段何気なく暮らしている地域を違った角度から見る体験をしていました。豊島区内の具体的な地域資源に対する発見もあれば、都心における空間や暮らしのありかたに対する発見やアート観の変容など、より抽象的な気づきもありました。イベントがきっかけとなり、その後も継続的にZに来場したり、オノコラーとして活動をはじめる人も見られました。
Zは、さまざまな世代・職業・所属の人たちの受け皿として、普段の生活では接点のない人とも出会える場となっていました。Zで仲間を見つけてはじまった活動や、他の来場者を巻き込んで行われた活動は、年間50〜70件ありました(開館日は年間約120日)。Zの常連であった区民のなかには、「自分とは価値観が違う人に戸惑うこともあるけれど、それも含めて社会だということを忘れないでいたい」という感想を持った人もいました。
オノコラーという市民参加の枠組みは、多様な人が交わる場づくり、アーティストの作品制作のサポート、自主企画の立案〜実施など、アートプロジェクトをつくる側の活動を体験する機会であり、活動の担い手としての意識とスキルを育てる場として機能しました。オノコラーたちが中心となって生みだした拠点や活動のなかには、事業終了後も、彼らが主体となって続けられているものもあります。また、アートNPOに転職した人、自分の制作活動をはじめた人など、アートの分野でそれぞれの興味を深めていく人や、子どもや若者、高齢者が集まる公民館のようなスペースなどで、地域に関わる活動を続けている人もいます。
ここに挙げた参加者の意識や行動の変化は、この事業の直接の受益者(来場者・参加者)からのアンケートやヒアリングでわかった直接アウトカム〜中間アウトカムの一部です。これが、直接の受益者の周辺にいる間接的な受益者や、地域全体にどのような効果をもたらしていくのかを検証するためには、より幅広い対象者への長期的なフォローアップ調査と、因果関係を推定するための分析が必要です。
参考:
としまアートステーション構想事務局(2013)「としまアートステーション構想コンセプトブック 2011-12年度」
としまアートステーション構想事務局(2016)「としまアートステーションZのつくりかた」
としまアートステーション構想事務局(2016)「としまアートステーションYのつくりかた」
としまアートステーション構想事務局(2017)「としまアートステーションXのつくりかた」
としまアートステーション構想ウェブサイト
http://toshima-as.wixsite.com/toshima(2020年4月1日閲覧)