社会的インパクトFAQ

本FAQは、2021年1月23日(土)に行われた一般財団法人社会的インパクト・マネジメント・イニシアチブ主催「Social Impact Day2020」のプレセッション「社会的インパクト・マネジメント入門講座 ( https://simi.or.jp/info/6783 )」において行われた質疑応答を一部改変し掲載するものです。

マネジメントサイクルへのフィードバック

マネジメントサイクルに社会的インパクト評価を組み込もうとした際に、中長期で発生するアウトカム(もしくは発現するまでに数年かかるアウトカム)については、マネジメントに活用可能になるまで時間がかかります。中長期アウトカムが発現するまでの間にやるべきことはなんでしょうか。

中長期アウトカムに繋がる手前の「短期アウトカム」に着目し、中長期アウトカムが想定通りに発現するかを見極めましょう。
アウトカムは、比較的短期間(測定する事例の状況によって異なりますが、例えば半年~1年未満など)に発現する「短期アウトカム」と、中長期(例えば1年以上~)に発現する「中長期アウトカム」があります。ロジックモデル等を用いて、中長期アウトカムとそれに繋がる短期アウトカムを論理的に構成することで、「短期アウトカムが発現しているため、数年後には中長期アウトカムが発現するであろう」という予測を立てることが出来ます。よって中長期アウトカムが発現するまでの期間においては短期アウトカム指標に着目し、データを収集することでインパクト・マネジメント・サイクルを回すことが可能です。

団体にとって「正の変化(ポジティブな成果)」は取りこぼしの無いように評価しようとすると思いますが、「負の変化(ネガティブな成果)」や「思いがけない変化」については、どのように評価していくべきでしょうか。特に自己評価の場合は、「負の変化」や「思いがけない変化」を評価結果に反映させないと手前味噌な報告書になりかねないと感じています。

自分たちの事業によって「負の変化」や「思いがけない変化」が起こっているかもしれないということを意識した多面的なデータ収集を行うこと、またその分野の専門家の評価プロセスへの参加を得ることが有用です。
「負の変化」や「思いがけない変化」を捉えるためには、自己評価を行う団体スタッフが「自分たちの事業によって負の変化や思いがけない変化が起こっているかもしれない」ということを認識し、データ収集過程において意識的に考慮していくことが重要です。例えば、アンケート調査によりデータを収集する場合は「満足度」や「良かった点」を聞くだけではなく改善点やネガティブな意見を聞く欄を設けたり、ステークホルダー(受益者含む)へのインタビュー調査や、事業関係者との振り返りの場において「負の変化はあったか」や「思いがけない変化はあったか」を問いとして立ててみることも有用でしょう。
また、正の変化を評価する際にも同じことが言えますが「事業によって生み出された正の変化・負の変化の減少は本当に価値あるものだったか」という点について、評価プロセスに当該事業分野の研究者の参加を得ることも効果的です。研究者の学術的な見地からのコメントは評価への重要なフィードバックとなりえます。

定性的、定量的インパクトを可視化することで資金提供者への報告に活用されることについてはその意図や意義は良く理解できますが、それにより現場のNPOや団体にとって「評価し、良い結果を得ること」が目的化するリスクがあると思います。そうならないような対応策はありますか?

「何故、評価をするのか」という評価の目的をステークホルダー間で明らかにし、合意をした上で開始することが重要です。
「良い結果を得ること」が評価の目的になっては元も子もありません。事業運営により得られた事業の社会的な効果や価値に関する情報にもとづいた事業改善や意思決定を行い、社会的インパクトの向上を志向することが社会的インパクト・マネジメントの目的です。そのため、こうした目的についてステークホルダー間で十分に議論し、合意形成を行った上で開始することが重要です。
実際に社会的インパクト・マネジメントを実施する際には、「社会的インパクト評価の5+2原則」に基づき評価を実施することで、手段(評価)の目的化を防ぐことが出来ます。例えば、5原則のうちの一つ「重要性」という項目においては、「事業者(内部)、事業対象者・受益者、資金仲介者、資金提供者、その他のステークホルダー(外部)の意思決定をするための必要情報を優先させる。(SIMI HPより。https://simi.or.jp/social_impact/evaluation)」と規定されています。これは、「評価は事業運営を行う上で意思決定をするために重要な情報を優先して測定する」ことを指しています。例えば「資金提供者に良い結果のみを報告するための評価」を行おうとしても、この原則に基づくことで「事業改善のために何を測るべきか」という視点に立ち返ることができるはずです。

適切な指標設定の考え方

計画段階では負の成果も想定しておく必要があると思いますが、「負の成果」についても「正の成果」と同様に、どう測るかまで想定しておく必要があるのでしょうか。

事業計画段階で、「正」「負」どちらの成果も想定することができるのであれば、正の成果と同様に負の成果も測定できるよう計画しておくのがよいでしょう。
その場合、正の変化は「増大させること」、負の変化は「低減させること」を意図して事業設計を行う必要があります。そのように事業計画の中で「負の変化を低減させること」を意図した活動が設定されているのであれば、測定方法を事前に検討しておくことが必要です。

指標は「○○が増える」や「○○の数」という設定の仕方をするという説明がありましたが、指標は可能な限り数値(定量的目標値)を設定することが望ましいということでしょうか。

指標に数値(定量的目標値)を設定するか否かは、その数値の活用の目的次第です。
例えば、「事業の実施前後での変化を知りたい」、「業界の平均値との比較をしたい」等の目的があるのであれば指標に数値(定量的目標値)を設定するのが良いでしょう。また、評価は「事実特定+価値判断」ですので、「○○が増える」という指標の設定だけではなく、「どの程度、増加すると良いのか」という基準についても合わせて設定する必要があります。
上記のような目的がある場合は数値を設定することが有効ですが、指標は必ずしも定量的なものでなければならないということはありません。質的なデータ等、定性的に価値判断を行うことが有効なものについては定性的な指標を設定し、「どのような状態になったら良いか」という基準を合わせて設定するのが良いでしょう。

社会的インパクト・マネジメント実施時の実施負担と効果のバランス

社会的インパクト・マネジメントは、ステークホルダーが多種多様な場合に共通言語として効果的に機能すると思いますが、少人数かつ共有値が高いチームにおいてはむしろ鈍重な仕組みになってしまうのではないでしょうか。(例えば、ロジックモデルの形式的な細部にこだわるあまりスピード感が落ちてしまう等)

「何故、この仕組みが必要なのか」「何のための評価なのか」という目的をチーム内で議論し、その目的のために社会的インパクト・マネジメントの仕組みが有効であると判断するならばぜひ取り組んでみていただきたいと思います。
少人数の組織においても、組織内の関係者が完全に同じゴールとそこに至る過程(ロジック)の共通理解を持っているということは非常に稀です。内部での共通理解を醸成するためにロジックモデルを構築することや、「価値判断」を行うための指標設定および基準作りを実施することは少人数のチームであっても有用です。
ただし、ご質問にあるとおり「細部にこだわるあまり、事業のスピード感が落ちる」などのネガティブな側面が発生することは可能な限り避けなければなりません。「社会的インパクト評価の5+2原則」においては、こうした事態を避けるために「比例性」という観点が設定されています。比例性とは「組織や事業に過度な負担をかけないように、評価を実施する組織の規模、組織や利用可能な資源や評価の目的に応じて評価方法や報告・情報開示の方法が選択されること。(SIMI HPより。https://simi.or.jp/social_impact/evaluation)」であり、組織や事業の現状に合わせて評価の方法について選択可能となっています。

社会的インパクト・マネジメントは非常にエネルギーと時間を要する取り組みであり、取り組むことで「やるべき事が出来ない」ということが起きる可能性もあると思います。取り組むことでかかる時間やコストに見合う取り組みにするにはどのようにすればよいでしょうか。

社会的インパクト・マネジメントは事業運営に役立てるために行います。社会的インパクト・マネジメントへの取組みによって「やるべき事が出来なくなる」と感じる評価計画は、目的に合わせて無理のない計画に見直していくのが良いでしょう。
社会的インパクト・マネジメントを実施した人たちからは「時間はかかるが行うべきものである」という反応が多いようです。例えばロジックモデル作成にはある程度の時間とエネルギーが必要ですが、作成のプロセスにおいて、目指す成果について関係者の目線が揃うこと、事業・活動が自分ごと化すること、アウトカムやアウトプットの明確化により進捗管理がスムーズになるなどの様々なメリットがあります。
ただし、社会的インパクト・マネジメントに取り組む事が組織、事業にとって過度な負担になることは避けなければなりません。「社会的インパクト評価の5+2原則」においては、こうした事態を避けるために「比例性」という観点が設定されています。比例性とは「組織や事業に過度な負担をかけないように、評価を実施する組織の規模、組織や利用可能な資源や評価の目的に応じて評価方法や報告・情報開示の方法が選択されること。(SIMI HPより。https://simi.or.jp/social_impact/evaluation)」であり、組織や事業の現状に合わせて評価の方法について選択可能となっています。

評価者・アドバイザーの探し方

社会的インパクト・マネジメントや社会的インパクト評価を実施するために、評価専門家やアドバイザーを探す仕組みはありますか?

SIMIの以下のページにおいて評価専門家・アドバイザーのリストを公開しています。 https://simi.or.jp/support/advisor_evaluator
また日本評価学会の認定評価士はリストが公開されていますので、そのようなリソースも活用すると良いでしょう。

SROI(社会的投資収益率)

社会的インパクト評価とは、SROIをやることなのでしょうか。

SROIは、費用便益分析の一種です。社会的インパクト評価=SROIという訳ではありません。SROIは、Social Return on Investment(社会的投資収益率)の略で、事業への投資価値を金銭的価値だけでなく、より広い価値の概念に基づき、評価や検証を行うためのフレームワークと説明されています(ソーシャルバリュージャパンのWEBサイトより)。SROIについては、当法人の業務執行理事である伊藤健が代表をつとめる特定非営利活動法人ソーシャルバリュージャパンのHPに詳細が記載されていますのでご参照ください。 https://socialvaluejp.org/aboutsroi/
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