ロジックモデル解説
利用方法
ここでは社会的インパクト・マネジメント・ガイドラインver2の「Step 4: 事業計画と評価計画の策定」において用いられる代表的な手法の一つであるロジックモデルについて解説するとともに、その分野別例を示します。
分野別例に掲載されているロジックモデルは事業者へのインタビューなどをもとに作成されており、あくまでも「例示」として捉えてください。社会的インパクト・マネジメントにおいては、事業者や関係するステークホルダーができるだけ学習や話し合いを通じて、ロジックモデルで表わされる因果関係を共有し、設定された成果に向かって事業運営を行うこと、そして合意された成果指標で成果の有無を評価することに納得感をもって取り組むことがなによりも大切になります。加えて、設定されたロジックモデルはあくまでも仮説ですから、それを検証する段階で、あるいは事業遂行の途中で、関係者との協議によって改変していくことも考えられます。いずれにせよ、個別事業のロジックモデルを事業者として作成することが目標の共有の観点から大事なことであり、分野別例に掲載のものは、そのための参考例として考えてください。そのため、これらは必ずしも学術的に因果関係が認定されているものではありませんし、またそれを意図するものでもありません。
また、分野別例を参照する場合の各分野ごとの留意点については、それぞれのページでご確認ください。
ロジックモデルの基本解説
ロジックモデルをつくる利点
- 事業活動の意義や目標、またその有効性について確認できます。
- 外部団体と協働した方が効果的な事業を明らかにすることができます。
- 事業の意義や社会的インパクトを示すための根拠材料にすることができます。
出所:Inspiring Impact (2014) “The JET Pack: A guide to measuring and improving your impact based on the Journey to EmploymenT (JET) Framework”
ロジックモデルとは
ロジックモデルとは、事業が成果を上げるために必要な要素を体系的に図示化したもので、事業の設計図[1]に例えられます。一般的なロジックモデルの図は事業の構成要素を矢印でつなげたツリー型で表現され(図表 2 :ロジックモデルの例(就労支援事業の場合)を参照)、図表1の下部に示したように「インプット」「活動」「アウトプット」「アウトカム」と4つの要素で図示されます。
図表 1:事業の流れ(就労支援事業の例)に沿ったロジック・モデルの構成要素
ロジックモデルを作成する前に、ロジックモデルの用語について確認をします。通常、事業や組織はヒト・モノ・カネといった資源を使って様々な活動を行い、モノ・サービスを生み出すことで、モノ・サービスの利用者やより広く社会の課題解決といった変化・効果を目的としています。こうした事業の流れは図表2のように図示することができます。
本解説では、事業や組織が生み出すことを目的としている変化・効果を「アウトカム」、その変化・効果を生み出すために提供するモノ・サービスを「アウトプット」、モノ・サービスを提供するために行う諸活動を「活動」、その諸活動を行うために使う資源を「インプット」と呼びます。なお、一般的に、「アウトカム」は「社会的インパクト」と呼ばれることもあります 。[2]
ロジックモデルの用語について
- インプット :事業活動(諸活動)等を行うために使う資源(ヒト・モノ・カネ)
- アウトプット :事業活動によって変化・効果を生み出すために提供するモノ・サービス
- 活動 :モノ・サービスを提供するために行う諸活動
- アウトカム :事業や組織が生み出すことを目的としている変化・効果
図表 2:ロジック・モデルの例(就労支援事業の場合)
出所:GSG国内諮問委員会(2016)「社会的インパクト評価ツールセット(就労支援) 」
ロジックモデルをつくる
ロジックモデルを作成します。ロジックモデルの作成は以下に示したように4つのステップを通して行います。
なお、「①事業の目標と受益者の特定」はロジックモデルを作成するために検討すべきものですが、ロジックモデルの図そのものには必ずしも記載する必要はありません。上述の通り、ロジックモデルは、「インプット」「活動」「アウトプット」「アウトカム」と4つの要素による構成が基本だからです。(下記タブをクリックで詳細が表示されます)
①事業の目標と受益者の特定
はじめに事業目標の設定を行います。事業を通して最終的に達成したい状況(=事業目標)を考えることがロジックモデルの作成には必要です。
例えば、「事業が目指す(期待している)社会課題が改善された状態は何だろうか」というように事業目標の検討を行っていきます。
その上で、最終的に達成したい状況を実現するためには何が必要か、という観点から逆算してロジックモデル作成の次のステップである②アウトカム、③アウトプットや活動、そのために必要なインプット(=資源)を検討します[3]。
事業目標の設定と同時に「事業の受益者(以降、受益者)」を明らかにします。受益者の定義は以下の通りです。
事業の受益者
事業の受益者とは、事業・プロジェクトの対象者をはじめ、事業を実施した結果の正の便益(=利益)を直接・もしくは二次的に受ける対象者と定義しています。
この作業は上述の通り事業目標の確認と同時に行います。団体が提供する事業・プログラムの目標を検討する際、その事業は「誰(=受益者)」にどういった価値を提供するのかを考えていくためです。
事業目標と受益者の設定に関する具体的なプロセスについて、本マニュアルとセットになっている社会的インパクト評価ツールセット(就労支援事業)を例に解説をします。就労支援事業の場合、事業目標は「支援対象者が様々なプログラムを通じて一般就労し、就労状態が定着することで、経済的な自立を果たすこと」と設定されます(就労支援事業ツールセットの場合)。この事業目標から考えると、受益者は「プログラム参加者」となります。事業が及ぼす直接的な影響を受ける対象が「プログラムの参加者(=受益者)」となるからです。就労支援事業を例にした事業目標と受益者は以下のように整理できます。
就労支援事業の事業目標と受益者の例
事業目標:
支援対象者が様々なプログラムを通じて一般就労し、就労状態が定着することで、経済的な自立を果たすこと。
事業の受益者:
プログラム参加者(他に、プログラム参加者の家族や就労支援事業を行う行政も受益者となりえます)。
今回の例における受益者は上記の通り「プログラム参加者」を主な受益者として設定しましたが、受益者は複数でも問題はありません。就労支援事業の場合だと、他に受益者としてプログラム参加者の家族や就労支援事業を行う行政も受益者となり得ますが、事業目標の検討の際に、誰に最も事業の影響を与えたいか、与えているかによって主な受益者は変わってきます。
また、ロジックモデルを作成する途中段階で、後から事業の受益者が追加される場合もあります[4]。事業やプログラムの影響を受ける対象者は事業によっては多岐にわたることもあるため、事業の直接の影響を受ける受益者のみならず、事業の関係者(=ステークホルダー)を洗い出すことが重要です。ステークホルダーの考え方についてはコラム「ステークホルダー分析の重要性」をご覧ください。
事業の目標と受益者を明らかにしたら、その次のステップとしてアウトカムの設定を行います。次項では、事業目標の達成に向かうプロセスにおいて、受益者に対する事業の影響=アウトカム(成果)はどのようなものがあるのかを考えます。
②アウトカムの設定
事業の「アウトカム」を設定します。本ステップからロジック・モデルの図の作成に取り掛かります。アウトカムの定義は以下をご確認ください
アウトカム
アウトカムとは「事業・活動のアウトプット(直接の結果)がもたらす変化、便益、学びその他効果」と定義しています。なお、アウトカムは、直接、中間、最終、または短期、中期、長期と3段階で設定することが一般的です。
アウトカムは時間軸で直接→中間→最終と設定していきます。図示すると以下のようになります。
図表 3:ロジックモデルの例(就労支援事業の場合)~アウトカムの段階付けについて~
通常は上記のように3段階で設定しますが、事業活動によっては、直接アウトカムの設定のみが適切となる場合もあります。アウトカムの設定における段階付け・因果関係についてはコラム「アウトカムの因果関係」に詳しく書かかれておりますので、そちらをご覧ください。
アウトカムの設定に関する具体的なプロセスについて、「分野別例:就労支援」を例に解説します。まずは、最終アウトカムから設定します。先に設定した「事業目標」に到達するには「何を」達成しなければならないかを、事業目標から逆算して考えます。具体的には、事業目標達成の一つ手前の状態を考えます。例えば、就労支援事業の場合は以下となります。
事業目標が以下の場合
支援対象者が様々なプログラムを通じて一般就労し、就労状態が定着することで、経済的な自立を果たすこと。
最終アウトカム:就労状態の定着・経済的自立
上記の事業目標から考えると、事業目標の一つ手前の状態は「就労状態の定着・経済的自立」となり、これを最終アウトカムとして設定します。最終アウトカムが明確になったら、ロジックモデルに配置します。
図表 4:ロジック・モデルの例(就労支援事業の場合)~アウトカムの設定について~
上図のように長期アウトカムはアウトカムの一番右にマッピングをします。マッピングが完了した次に、直接、中間アウトカムを設定します。最終アウトカムに到達するためには、どのような直接、中間アウトカムが必要かを検討し、ロジックモデルに配置していきます。
なお、事業分野ごとの直接、中間、最終アウトカムの事例集(事業分野ごとにどういったアウトカムが想定できるのかをまとめたもの)を、分野別評価ツールに掲載しました。アウトカム設定の際の参考にご覧ください。
③アウトプット、活動、インプットの設定
アウトカムが固まってきたら、ロジック・モデルの残りの要素である「③アウトプット、活動、インプット」を設定します。
これらの定義については以下をご確認ください
アウトプット
アウトプットは、事業を通じて提供するサービス等を指し、事業や活動の直接の結果と定義します。
活動
活動は、事業を通じて提供するサービス等生み出すための具体的な事業活動を指します。
インプット
インプットは事業実施するために必要な資金や人材等の資源を指します。
設定したアウトカムの実現に貢献する適切なアウトプット(=事業の結果)、活動(=具体的な事業内容)、インプット(=事業を実施するための資源)を検討し、ロジックモデルに配置します。
まず初めに「活動」を設定します。具体的には「誰に(=受益者)」、「どんなサービス(=活動)」を提供するのかを考えます。「サービス(=活動)」が決まれば、そのサービスを提供した結果(=アウトプット)を考えます。このようにして「活動」と「アウトプット」が決まってくれば、活動の実施に必要な資源(=インプット)を検討し、事業の予算も検討します。
図表6をご覧ください。就労支援事業の場合では、事業受益者がプログラム参加者の場合、活動は「事業活動(就労支援事業)」、アウトプットが「プログラム内容・回数」、インプットは「ヒト・モノ・カネ」となります。
なお、既に事業を実施している場合は、この過程でこれまで実施してきた事業が、上位の目的(アウトカム)と照らして適切かを検討します。もし、最終アウトカムから逆算して考えてきた事業と現在実施している事業にギャップがある場合は、事業内容の修正も検討しましょう。さらに、最終アウトカムから逆算して考えると、自団体の事業だけではその実現に十分でないこともあるかもしれません。その際は、自団体の事業を拡張するのも 1 つの選択肢かもしれませんが、行政や企業を含む、他組織との連携を検討することも重要です[3]。
図表 5:ロジックモデルの例(就労支援事業の場合)~インプット、活動、アウトプットの設定について~
ここまでの3つの過程で、ロジックモデルを完成させることができます。完成したら、最後の確認を行います。④最終確認をご覧ください。
④最終確認
ロジックモデルが出来上がったら最終確認をします。
以下のチェックポイントを参考に、完成に向けてロジックモデルを改良しましょう。
チェックポイント
- ロジックモデルの各要素に関係のない項目はありませんか。
- 重複している箇所はありませんか。
- 作成したロジックモデルは、現実的に実行可能なものですか。
- 設定したアウトカムを起点とした時、インプット、活動、アウトプットの各要素が論理的につながりますか。
出所:Inspiring Impact (2014) “The JET Pack: A guide to measuring and improving your impact based on the Journey to EmploymenT (JET) Framework”
ロジックモデルの作成には役立つ書籍や資料が多く存在します。
本マニュアルの他に以下の資料も参考に、ロジックモデルの作成や改善に役立ててください。
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脚注
- [1]三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社(2016)「社会的インパクト評価に関する調査研究最終報告書」p.35
- [2]日本財団「ロジックモデル作成ガイド」p.2http://www.nippon-foundation.or.jp/what/grant_application/programs/social_innovator/guide/2017_guide.pdf
- [3]日本財団「ロジックモデル作成ガイド」p.4http://www.nippon-foundation.or.jp/what/grant_application/programs/social_innovator/guide/2017_guide.pdf
- [4]事業の受益者のみならず、その他のステークホルダーを洗い出し、分析しておくことも重要です。
ステークホルダーの考え方についてはコラム「ステークホルダー分析の重要性」をご覧ください。
クレジット
ロジックモデル解説は2016年6月にVersion1.0、2017年6月にVersion2.0が公開されたGSG国内諮問委員会「社会的インパクト評価ツールセット 実践マニュアル」の「Step 2: ロジック・モデルをつくる」の内容をもとにしています。
「社会的インパクト評価ツールセット 実践マニュアル」及び「ロジックモデル解説」作成チーム(五十音順・敬称略)
- 藤田滋
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- 下田 聖実
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