分野別例:就労支援

分野別例:就労支援

. はじめに

 本評価ツールでは、「就労支援」を分野として取り上げています。本評価ツールが対象とする「就労支援」事業とは、様々な理由で無業状態または、それに近い状態の方が、様々な就労支援を受けて一般就労(正規・非正規雇用を含む)を目指す事業を想定しています。支援を受ける対象者(プログラム参加者)は、健常者だけでなく、何らかの障がいを有している方も含むことを想定しています。

 また、就労支援の内容については、キャリア・コンサルティング、履歴書の作成指導、ニーズに応じた職業紹介、個別求人開拓、面接対策、就労後のフォローアップなど、就労に向けた準備が一定程度整っている方を対象としたプログラムから、まだ、準備が整っていない方を対象とした、生活リズムの改善や仕事に向かうための様々なスキル形成を含む就労基礎訓練まで、幅広い事業を想定しています。

Ⅱ. ロジックモデルをつくる

Ⅱ.1. 事業の目標と受益者を特定する

 本評価ツールでは、対象事業となる就労支援等の最終的な目標を、支援対象である「プログラム参加者」が、様々なプログラムを通じて就労し、経済的な自立を果たすこととしました。したがって、事業の主な受益者を「プログラム参加者」としました。また、「プログラム参加者」が就労に至る過程で発生する波及的成果が、その「家族」や「行政」にも現れることが想定されることから、それらについても事業の受益者に設定しました。

Ⅱ.2. アウトカム(成果)のロジックを考える

 対象事業の成果を評価するために、事業の受益者である「プログラム参加者」「家族」「行政」について、事業を通じて達成したい目標とアウトカム(成果)、そして、それにいたる活動および変化の因果関係を「ロジックモデル」として整理します(図表1)。Ⅱ.2.1以降で、アウトカムについて具体的に説明します。

図表1:就労支援分野における一般的なロジックモデル

II.2.1. 直接アウトカム

 「プログラム参加者」が、様々な支援プログラムへ参加した成果として、まず一般就労に従事する準備としての基礎能力に変化が現れます。なぜならば、「プログラム参加者」の中には、単に就労に必要な実践的な知識・技能等が欠けているだけではなく、複合的な課題があり、生活リズムが崩れている、社会との関わりに不安を抱えている、就労意欲が低下しているなどの理由により直ちに就労することが困難な方もいると想定されます。したがって、就労支援の目標に一般就労に従事する準備としての基礎能力の向上も含めて設定し、それらを「直接アウトカム」としました。

 また、本評価ツールでは、「直接アウトカム」を「生活面」「社会面」「就労面」に分けて整理し[1]、さらにそれらを構成する詳細アウトカムを設定しました(図表2)。

  また、「家族」については、「プログラム参加者」が就労支援プログラムに参加するために定期的に外出するようになることで、時間の余裕が生まれ「自由時間の増加」が成果として現れる場合があります。また、「プログラム参加者」の一般就労に従事する基礎能力に変化が現れた結果、「家族」の精神的な負担等が軽減され、家庭内での会話が増えるなど「家族関係の改善」が成果として現れる場合があります。したがって、「家族」の直接アウトカムとして「自由時間の増加」と「家族関係の改善」を設定しました。「行政」に関しては、直接アウトカムは設定しません。

II.2.2. 中間アウトカム

 「プログラム参加者」が、様々な支援プログラムへ参加した成果として、一般就労に従事する準備としての基礎能力が向上した(直接アウトカム)結果、一般就労または中間的就労した成果を「中間アウトカム」とし、それぞれに詳細アウトカムを設定しました(図表2)。

 また、対象事業終了後、中間的就労を経て一般就労したケースが確認できた場合は、対象事業が間接的に生み出した成果として記録することも可能です。

 また、「家族」については、「直接アウトカム」において「自由時間が増加」した結果、その時間を使って「就労機会を獲得」する場合があるため、これを「中間アウトカム」として設定しました。 

 また、「直接アウトカム」同様、「家族関係の改善」も「中間アウトカム」として設定しました。

 最後に「行政」に関しては、「プログラム参加者」が一般就労することにより、「所得税納税額や社会保険料収入の増加」が見込まれます。また、「プログラム参加者」が生活保護等を受給している場合、所得の増加に伴い「生活保護費等の給付額の減少または廃止」になる場合もあり、それらを「中間アウトカム」に設定しました。

II.2.3. 最終アウトカム

 「プログラム参加者」が、一般就労した後も、就業状態が定着し、経済的自立を果たすことを就労支援事業の最終目標としています。したがって、本評価ツールでは、就業状態の定着および経済的自立を果たした成果を「最終アウトカム」としました。

また、「家族」については、「中間アウトカム」同様、「就労機会の獲得」「家族関係の改善」を「最終アウトカム」として設定しました。

 最後に「行政」については、「中間アウトカム」同様、「所得税納税額・社会保険料収入の増加」と「公的給付(生活保護等)の削減」を「最終アウトカム」に設定しました。

[1] アウトカムのグルーピングは、本ツールで便宜上行っているもので、ロジックモデルを作成する上で必須ではありません。

ロジックモデルの例 事業内容:ITスキル講習を組み合わせた就労支援

. アウトカムを測定する方法を決める

 「II. ロジックモデルをつくる」で挙げたアウトカムを測定するためには、一般的には下表に示すような指標が用いられます。

図表2:アウトカム指標の一覧

クレジット

※所属・肩書きは評価ツール開発当時

 本分野別例は2016年6月に公開されたG8社会的インパクト投資国内諮問委員会「社会的インパクト評価ツールセット 就労支援」の内容をもとにしています。

就労支援評価ツール作成チーム

鴨崎 貴泰 認定NPO法人日本ファンドレイジング協会

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