分野別例:地域・まちづくり
分野別例:地域・まちづくり
Ⅰ. はじめに
本評価ツールでは「地域・まちづくり」を分野として取り上げています。この分野には、都市の開発や地域の活性化、地域の人々のコミュニケーションの活性化をはじめとする幅広い活動があてはまると考えられ、考え方によっては、福祉や子育ての分野の活動も「地域・まちづくり」に含まれる可能性があることから、その活動範囲の定義がわかりにくい分野です。ただ、ここでは混乱を避けるため、街並みの保存活動や地域商店街の活性化、地域情報誌の発行といった、地域コミュニティの活性化や地域経済の活性化につながる活動を「地域・まちづくり」の分野として取扱います。
また、「地域・まちづくり」の分野では、多様な目的で多様なステークホルダーが多様な取り組みをしており、他の分野別例で示しているような「一般的なロジックモデル」が抽出しにくい分野といえます。
そこで、ここでは「一般型」のプロトタイプとして、「都市圏における住民主体のまちづくり」(これを「類型1」とします)、「持続可能な中山間地域づくり」(これを「類型2」とします)の2類型のロジックモデルを示します。
本評価ツールでは、地域・まちづくり活動の最終的な目標を、類型1では「地域の活性化が進む」、類型2では「地域の持続性が向上する」と設定しました。これは、そもそもの課題が、類型1では「住人はいるが地域内での交流や地域課題に関する話し合いの場がない」といったもので、類型2では「地域に経済基盤がなく、人口の流出が止まらず、少子高齢化、過疎化に悩まされている」といったものだという認識から出発しているからです。 これら2類型の初期アウトカムは、事業の性格や力点によって左右されますが、中間、最終のアウトカムについては、それぞれ図表1に示したような大きなロジックが抽出できます。
図表1:地域・まちづくりの2類型における大きなロジック
(類型1) 都市圏における住民主体のまちづくり | (類型2) 持続可能な中山間地域づく | |
---|---|---|
課題 | 住人はいるが地域内での交流や地域課題に関する話し合いの場がない | 地域に経済基盤がなく、人口の流出が 止まらず、少子高齢化、過疎化に 悩まされている |
中期 アウトカム | 地域のソーシャルキャピタルが 増大する | ・地域の担い手の増加 (ヒト) ・地域の経済発展 (カネ) |
長期 アウトカム | 地域の活性化が進む | 地域の持続性が向上する |
活動例 | ・幅広い世代の地域住民を対象とした コミュニティカフェの運営 ・まちづくりに関する様々なイベント や講座の開催 ・街の情報を発信するフリーペーペー の発行 | ・特産品加工推進事業、販売事業 ・生きがい文化事業(竹細工、陶芸 など) |
Ⅱ. ロジックモデルをつくる
Ⅱ.1. 事業の目標と受益者を特定する
まず、「事業の目標」と「受益者」を特定するため、「誰に対して、どのような変化をもたらす」ことを最終目標とするかを考えます。
この「誰に対して」の部分が「受益者」に当たります。「地域・まちづくり」の分野では、何かしらの地域の活性化等を目的としているため、「受益者」は主に地域住民になると考えられます。ただ、地域住民とひとえに言っても、年齢、性別、職業、経済的階層等さまざまです。事業の内容によっては、これらの人々の中から特定の層を抽出します。
「どのような変化をもたらす」かの部分が「事業の目標」に当たります。「地域・まちづくり」の分野では、主に、「地域コミュニティの活性化」、「住民の地域への愛着の向上」、「地域経済の活性化」、「文化の保存と継承」といったことが「事業の目標」になると考えられます。
たとえば、都市圏における住民主体のまちづくりを進めている類型1の「事業の目標」は、「地域の活性化」となります。そして、その「受益者」は、主に、地域に住む住民となります。
持続可能な中山間地域づくりを進めている類型2の「事業の目標」は、「持続可能な地域社会の構築」となります。そして、その「受益者」は、主に地域に住む住民となります。
Ⅱ.2. アウトカム(成果)のロジックを考える
対象事業の成果を評価するために、まず、対象となる地域ならびにそこに住む人々にとっての、事業を通じて達成したい目標とアウトカム(成果)と、それを達成するまでの活動および変化の因果関係を「ロジックモデル」として整理します(図表2、図表3)。
図表2、図表3では、類型1、類型2のそれぞれについて、「なにがどうなったらどうなる」というアウトカムのロジックを描いています。
他分野でもある程度言えることですが、地域・まちづくり分野では特に、因果関係の入れ籠状態 (AがBにつながるのと同様にBがAにつながる)が起こります。例えば、類型2のロジックモデルの中期アウトカムとして「経済の地域循環が進む」を示しましたが、これは、最終アウトカムに示した「地域内の職業機会と働き手が増加する」の原因にもなり、結果にもなることです。このことに関しては、コラム「ロジックモデルのアウトカムの因果関係について」を参照してください。 Ⅱ.2.1.以降で、アウトカムについて具体的に説明します。
図表2:地域・まちづくりのロジックモデル(類型1 都市圏における住民主体のまちづくり)
図表3:地域・まちづくりのロジックモデル(類型2 持続可能な中山間地域づくり)
II.2.1. 直接アウトカム
直接アウトカムは、事業の結果として直接的に発生する変化のことを指します。
たとえば、類型1では、具体的な事業として、「地域拠点等を利用した場づくり」、「各種講座・教室」、「コミュニティビジネス等の事業化支援」、「情報発信活動」の4つを行っています。
まず、「地域拠点等を利用した場づくり」を実施することにより、「一定数の多様な人が集まる」と考えられます。これがアウトプットに当たります。そして、多様な人が集まることによって「地域内の知り合いが増える」、「組織や職業を超えた交流が生まれる」といったことが起こると考えられます。これが直接アウトカムに当たります。同様に、各事業の実施による直接アウトカムとして、「関心や問題意識の共有が進む」、「市民の発意が醸成される」、「チャレンジしてみる機会が増える」、「リーダーシップやコミットメントが育つ」、「企画力や運営力がつく」といったものが設定できます。
これらの直接アウトカムを類似したものごとにまとめて大きく分類すると、類型1では「人の集まる場ができる」、「共感づくりが進む」、「参加や活躍の機会が増える」の3つが直接アウトカムのカテゴリーとして設定できます。
これと同様に、類型2では、「人の集まる場ができる」、「地元のプライドが高まる」、「地域の収入が増える」の3つが直接アウトカムのカテゴリーとして設定できます。
II.2.2. 中間アウトカム
「直接アウトカム」が生じた結果(多くの場合、それが繰り返して生じた結果)、次の段階として地域に現れる成果が「中間アウトカム」です。
たとえば、類型1の「地域拠点等を利用した場づくり」事業では、直接アウトカムである「地域内の知り合いが増える」や「組織や職業を超えた交流が生まれる」といったことが起きることにより、「地域の人のネットワークが強くなる」といったことが起きると考えられます。これが中間アウトカムに当たります。同様に、各種活動の実施による中間アウトカムとして、「地域の中間支援機能(つなぐ力)が充実する」、「地域が人を育てる力をもつ」、「災害時の助け合いが活発になる」といったものが設定できます。
これらの中間アウトカムを類似したものごとにまとめて大きく分類すると、類型1では「地域のソーシャルキャピタルが増大する」が中間アウトカムのカテゴリーとして設定できます。
これと同様に、類型2では、「地域の担い手の増加」、「地域の経済発展」の2つが中間アウトカムのカテゴリーとして設定できます。
II.2.3. 最終アウトカム
事業の最終目標である「最終アウトカム」は、直接アウトカム及び中間アウトカムの最後に現れる成果です。
たとえば、類型1では、中間アウトカムである「地域の人のネットワークが強くなる」、「地域の中間支援機能(つなぐ力)が充実する」、「地域が人を育てる力をもつ」、「災害時の助け合いが活発になる」といったことが起きることにより、「地域活動が活発になる」や「地域課題への取り組み力が増大する」といったことが起こると考えられます。これが最終アウトカムに当たります。
これらの最終アウトカムを類似したものごとにまとめて大きく分類すると、類型1では、「地域の活性化が進む」が最終アウトカムのカテゴリーとして設定できます。
これと同様に、類型2では、「地域の持続性が向上する」が最終アウトカムのカテゴリーとして設定できます。
Ⅲ. アウトカムを測定する方法を決める
「II. ロジックモデルをつくる」で挙げたアウトカムを測定するためには、図表7、図表8に示すような指標が有用です。
なお、以降で示す指標とデータベースで紹介する測定方法は、あくまで例を示したものであり、必ずこの指標や測定方法を用いて評価を行わなければならないわけではありません。評価を事業改善といった内部向けの目的で行う場合は、既存の指標や測定方法を用いるよりも、自団体が目指す具体的なアウトカムの内容に応じて、以降で例示されている指標や測定方法以外のものを用いるのはもちろんのこと、例示されている測定方法の質問項目を変えることが望ましい場合もあります。
以降で例示されている指標やデータベースで紹介されている測定方法は特定の価値判断を暗黙のうちに前提としている場合があります。評価を実施する目的を明確化した上で、指標や測定方法、具体的な質問項目を確認し、自団体が考える価値、アウトカムを測定する上で適切かどうかを判断してください。
また、最終アウトカムについては、その実現までに長期間を要するものも多く、指標を設定することが難しかったり、仮に指標を設定し測定することができてもその変化に事業が「貢献」したことを評価することが難しかったりする場合がほとんどです。ただし、そうだとしても事業の最終的な目的を明確化するためにも、最終アウトカムをロジックモデルとして明確化することは重要だと考えます。
図表7:アウトカム指標の一覧(類型1 都市圏における住民主体のまちづくり)
ステーク ホルダー | アウトカム の種類 | アウトカム のカテゴリ | 詳細アウトカム | 指標 |
---|---|---|---|---|
プログラム等への 参加者及び 地域住民 | 直接 アウトカム | 1. 人の集まる場 ができる | 1.1. 地域内の知り合いが増える | 地域内の友人・知人が増加した人の数、割合 |
プログラム等への 参加者及び 地域住民 | 直接 アウトカム | 1. 人の集まる場 ができる | 1.2. 組織や職業を超えた交流が生まれる | 組織や職業が異なる友人・知人が増加した人の数、割合 |
プログラム等への 参加者及び 地域住民 | 直接 アウトカム | 2. 共感づくりが進む | 2.1. 関心や問題意識の共有が進む | 地域課題に関心がある人の数、割合 |
プログラム等への 参加者及び 地域住民 | 直接 アウトカム | 2. 共感づくりが進む | 2.2. 市民の発意が醸成される | 地域活動の立ち上げ、もしくは参加を検討している人の数、割合 |
プログラム等への 参加者及び 地域住民 | 直接 アウトカム | 3. 参加や活躍の機会が増える | 3.1. チャレンジしてみる機会が増える | 地域づくりへの参加の機会が増えた人の数、割合 |
プログラム等への 参加者及び 地域住民 | 直接 アウトカム | 3. 参加や活躍の機会が増える | 3.2. リーダーシップやコミットメントが育つ | 新規市民プロジェクト・ボランティア活動発起数 |
プログラム等への 参加者及び 地域住民 | 直接 アウトカム | 3. 参加や活躍の機会が増える | 3.2. リーダーシップやコミットメントが育つ | 市民プロジェクト・ボランティア活動への新規参加者数 |
プログラム等への 参加者及び 地域住民 | 直接 アウトカム | 3. 参加や活躍の機会が増える | 3.3. 企画力や運営力がつく | 講座等で学んだ内容を現場で実践した人の数、割合 |
プログラム等への 参加者及び 地域住民 | 中間 アウトカム | 4. 地域のソーシャルキャピタルが増大する | 4.1. 地域の人のネットワークが強くなる | 困った時に相談できる人や場所がまわりに存在する人の数、割合 |
プログラム等への 参加者及び 地域住民 | 中間 アウトカム | 4. 地域のソーシャルキャピタルが増大する | 4.2. 地域の中間支援機能(つなぐ力)が充実する | 地域内で中間支援機能を果たしている組織(NPOなど)の数とそれぞれの組織の会員、講座受講者、事業参加者等の数 |
プログラム等への 参加者及び 地域住民 | 中間 アウトカム | 4. 地域のソーシャルキャピタルが増大する | 4.3. 地域が人を育てる力をもつ | 生涯学習など自発的に学ぶ機会、施設が十分にあると感じる人の割合 |
プログラム等への 参加者及び 地域住民 | 中間 アウトカム | 4. 地域のソーシャルキャピタルが増大する | 4.4. 災害時の助け合いが活発になる | 災害時に近隣の人と助け合う関係があると感じる人の割合 |
プログラム等への 参加者及び 地域住民 | 最終 アウトカム | 5. 地域の活性化が進む | 5.1. 地域活動が活発になる | 主体的に地域づくりを行っている自治会、学校(PTA)、NPOなどが増えたと感じる人の割合 |
プログラム等への 参加者及び 地域住民 | 最終 アウトカム | 5. 地域の活性化が進む | 5.2 地域課題への取り組み力が増大する | 市民団体(地縁組織含む)・民間企業による地域課題解決活動の種類、数、受益者数 |
図表8:アウトカム指標の一覧(類型2 持続可能な中山間地域づくり)
ステーク ホルダー | アウトカム の種類 | アウトカム のカテゴリ | 詳細アウトカム | 指標 |
---|---|---|---|---|
プログラム等への 参加者及び 地域住民 | 直接 アウトカム | 1. 人の集まる場ができる | 1.3 世代間交流が進む | 異なる世代の友人・知人が増加した人の数、割合 |
プログラム等への 参加者及び 地域住民 | 直接 アウトカム | 1. 人の集まる場ができる | 1.4 地元出身者と新規流入者の交流が進む | 地元出身者と新規流入者が交流する場の開催数と参加者数 |
プログラム等への 参加者及び 地域住民 | 直接 アウトカム | 6. 地元のプライドが 高まる | 6.1. 地域の歴史や伝統が見直される | 文化遺産の保存継承の程度 |
プログラム等への 参加者及び 地域住民 | 直接 アウトカム | 6. 地元のプライドが 高まる | 6.2. 地域の魅力に気づく | 地域に魅力を感じる人の数、割合 |
プログラム等への 参加者及び 地域住民 | 直接 アウトカム | 7. 地域の収入が増える | 7. 地域の収入が増える | 地域別年間商品販売額 |
プログラム等への 参加者及び 地域住民 | 中間 アウトカム | 8. 地域の担い手の増加 | 8.1. 知識や技能の受け渡しが進む | 地域資源の普及・教育・共有が盛んであると考える人の割合 |
プログラム等への 参加者及び 地域住民 | 中間 アウトカム | 8. 地域の担い手の増加 | 8.2. 交流人口、UJIターン者が増加する | 観光交流客数 |
プログラム等への 参加者及び 地域住民 | 中間 アウトカム | 8. 地域の担い手の増加 | 8.2. 交流人口、UJIターン者が増加する | 他の地域から移ってくる人が増えたと感じる人の割合 |
プログラム等への 参加者及び 地域住民 | 中間 アウトカム | 9. 地域の経済発展 | 9.1. 経済の地域循環が進む | 地域経済循環率 |
プログラム等への 参加者及び 地域住民 | 中間 アウトカム | 9. 地域の経済発展 | 9.2 伝統産業の復興が進む | 伝統産業において新たに開発、もしくは復刻した商品の数、売上 |
プログラム等への 参加者及び 地域住民 | 最終 アウトカム | 10. 地域の持続性が向上する | 10.1. 地域の文化や産業が引き継がれる | 地域産業の後継者がいると考える人の割合 |
プログラム等への 参加者及び 地域住民 | 最終 アウトカム | 10. 地域の持続性が向上する | 10.2. 地域内の職業機会と働き手が増加する | 地域に雇用の機会は多いと考える人の割合 |
プログラム等への 参加者及び 地域住民 | 最終 アウトカム | 10. 地域の持続性が向上する | 10.2. 地域内の職業機会と働き手が増加する | 地域に就職する若者が増えたと感じる人の割合 |
クレジット
※所属・肩書きは評価ツール開発当時
本分野別例は2016年6月にVersion1.0、2017年6月にVersion1.5が公開されたGSG国内諮問委員会「社会的インパクト評価ツールセット 地域・まちづくり」の内容をもとにしています。
地域・まちづくり評価ツール作成チーム
今田 克司 一般財団法人CSOネットワーク
大沢 望 株式会社大沢会計&人事コンサルタンツ
森田 修康 東京都荒川区
評価ツールセット作成にご協力頂いた方々(五十音順・敬称略)
市来 広一郎 特定非営利活動法人atamista 広石 拓司 株式会社エンパブリック