分野別例:福祉(介護予防)

分野別例:福祉(介護予防)

I. はじめに

本評価ツールでは、「福祉(介護予防)」を分野として取り上げています。介護予防とは「要介護状態の発生をできる限り防ぐこと、さらには軽減を目指すこと」と定義されています。本評価ツールが対象とする「介護予防事業」とは、介護保険法に基づいて実施される介護予防事業はもちろん、介護保険法外で実施される「介護予防のための運動プログラム」や「介護予防を目的として行われる高齢者のボランティア活動」、「介護予防を目的として行われる高齢者の学習活動」などを含む「介護予防を目的とした事業全般」を想定しています。

したがって、支援を受ける対象者(プログラム参加者)は、介護保険法に規定される要支援者(要介護認定の結果要支援1、要支援2に認定された者)や「介護予防のための基本チェックリストを実施した結果、何らかのリスクがあると判定された者」に限定せず、介護予防に関する事業(プログラム)に参加する全ての方を想定しています。

II. ロジックモデルをつくる

II.1. 事業の目標と受益者を特定する

本評価ツールでは、対象事業となる介護予防を目的とした事業の最終的な目標を、支援対象である「プログラム参加者(高齢者)」が「様々なプログラムを通じて、本人が望む場所での自立した日常生活を送ること」としました。したがって、事業(プログラム)の主な受益者を「プログラム参加者(高齢者)」としました。また。「本人が望む場所での自立した日常生活を送る」という目標の達成に向けて、家族や地域社会へのアプローチも必要であると想定されることから、それらについても事業の受益者に設定しました。

II.2. アウトカム(成果)のロジックを考える

対象事業(プログラム)の成果・効果を評価するために、事業の設計図ともいえる「ロジックモデル」を検討し、明確化する必要があります。本評価ツールにおけるロジックモデルとは、事業や組織が最終的に目指す変化・効果の実現に向けた道筋を体系的に図示したものです。

本評価ツールでは、対象事業(プログラム)の成果・効果を評価するために、事業(プログラム)の受益者である「プログラム参加者(高齢者)」「家族」「地域社会」について、事業(プログラム)を通じて達成したい成果・効果・目標(総称してアウトカム)をロジックモデルとして整理しました(図表1)。II.2.1以降で、アウトカムについて具体的に説明します。 尚、本評価ツールは対象事業(プログラム)のアウトカムを測定することに主眼が置かれていますが、事業(プログラム)改善のための評価に際しては、事業(プログラム)の活動状況(プロセス)も併せて評価する必要があることに留意が必要です

図表1:福祉(介護予防)分野における一般的なロジックモデル

II.2.1. 直接アウトカム

 「プログラム参加者(高齢者)」が、様々な介護予防事業(プログラム)に参加した成果として、まず、自分自身の「介護予防に対する意識」や「介護予防に対する知識」の向上が想定されます。

なぜなら「プログラム参加者(高齢者)」が様々な介護予防事業(プログラム)に参加し、十分な成果を達成するためには継続的に事業(プログラム)に参加し続けることが重要です。そのためには、「プログラム参加者(高齢者)」自身の「介護予防に対する意識」が高まり、自ら積極的に事業(プログラム)に参加し続けるように促すことが重要であると考えられます。

また同時に、「プログラム参加者(高齢者)」の「介護予防に対する知識」の向上も重要です。例えば、介護予防においては、様々な介護予防事業(プログラム)に参加することも重要ですが、事業(プログラム)外の日々の日常生活においても介護予防を意識した生活を送ること、また、そのための様々な社会資源を活用することも重要です。そのためには「プログラム参加者(高齢者)」が、介護予防に効果的な日常生活の過ごし方や活用できる社会資源に関する知識を有していることが重要になります。

したがって、本評価ツールにおいては、「プログラム参加者(高齢者)」の「意識の向上」と「知識の向上」を直接アウトカムとして設定しました(図表1,2)。

II.2.2. 中間アウトカム

 「プログラム参加者(高齢者)」が、様々な介護予防事業(プログラム)に参加した成果として、次に想定されるのが「身体的健康の維持・向上」、「心理的健康の維持・向上」、「社会的関係性の維持・向上」です。

 例えば、「プログラム参加者(高齢者)」が介護予防のための運動プログラムなどに参加することによってADL(日常生活動作)や体力の維持・向上など「身体的健康の維持・向上」が見込めるでしょうし、また、そのような活動に参加することによって、認知機能や精神的健康の維持・向上など「精神的健康の維持・向上」も見込めるでしょう。さらに、様々な介護予防事業(プログラム)を提供する者(団体)とプログラム参加者(高齢者)の関係性の構築やプログラム参加者(高齢者)同士の関係性の構築といった「社会的関係性の維持・改善」も想定できます。

 また、様々な介護予防事業(プログラム)の中には「プログラム参加者(高齢者)」が家族と一緒に参加するものもあるでしょう。例えば、「介護予防のための勉強会」といった事業(プログラム)にプログラム参加者(高齢者)と家族が一緒に参加し、介護予防について様々なことを学んでいくものもあるでしょう。このような事業(プログラム)への参加を通して、「家族との良好な関係」を構築していく、あるいは、維持していくことも想定できるでしょう。

 さらに、「プログラム参加者(高齢者)」が地域社会に積極的に関わっていくものもあるでしょう。例えば、「高齢者が行うボランティア活動」などが想定されます。「プログラム参加者(高齢者)」が、地域の子どもたちに様々なことを教えるなどの活動は、地域住民の高齢者に対する肯定的な理解を促進します。日本には「老害(自分が老いたのに気づかず(気をとめず)、まわりの若手の活躍を妨げて生ずる害悪)」という言葉もありますが、このような事業(プログラム)を通して、地域社会の高齢者に対する理解が促進し、地域社会とプログラム参加者(高齢者)の関係性がより良いものになっていくことは重要なことであると考えられます。

 したがって、本評価ツールにおいては、「プログラム参加者(高齢者)」の「身体的健康の維持・向上」「心理的健康の維持・向上」「社会的関係性の維持・向上」と「家族との関わり」「地域社会との関わり」を中間アウトカムとして設定しました(図表1,2)。

 尚、本評価ツールでは、直接アウトカムとして「プログラム参加者(高齢者)」の「意識の向上」や「知識の向上」が達成され、その先の中間アウトカムとして「プログラム参加者(高齢者)」の「身体的健康の維持・向上」や「心理的健康の維持・向上」「社会的関係性の維持・向上」が達成される仕立てになっています。しかし、実際には、身体的健康が向上していくとともに意識も向上するといったように同時並行的に成果・効果が達成される場合や、心理的健康が向上することで様々なことを学習する気持ちになり、学習プログラムに参加することが出来るようになって介護予防に関する知識が向上していく、といったように成果・効果を達成する順序が逆である場合なども想定されます。このように、様々な場合が想定されます。

 このように、本評価ツールはあくまで、一般的に最も想定される成果・効果の流れを記述しているものであり、介護予防事業(プログラム)の実践現場の実際と完全には合致し得ないということに留意は必要です。

II.2.3. 最終アウトカム

 「プログラム参加者(高齢者)」が,様々な介護予防事業(プログラム)に参加した成果として、最終的に想定されるのが「生活満足感・自己肯定感の向上」と「本人が望む場所での自立した日常生活」です。

 例えば、「プログラム参加者(高齢者)」が、様々な介護予防事業(プログラム)に参加することによって、身体的にも精神的にも健康であり、友人などとの関係性や家族との関係性も良好であり、地域社会とも適切に関わりをもって生活を送ることが出来ている場合、毎日が充実しているといったような高い「生活満足度」を得ることができ、また、日々健康な状態で何か社会に貢献するような活動をしている場合には、自分自身は社会(誰か)の役に立つことが出来ているといったような高い「自己肯定感」を得ることができると考えられます。

 さらに、これら全ての成果・効果の先に「本人が望む場所での自立した日常生活」を想定することができます。介護予防事業(プログラム)が目指す最終的な目標は、ただ単に「介護が必要な状態にならない」というだけではありません。本評価ツールにおいては、「プログラム参加者(高齢者)」が自分らしく、自分のことは自分で決定し、生き生きと生活を送っていくことを最終的な目標として想定しています。  したがって、本評価ツールにおいては、「プログラム参加者(高齢者)」の「生活満足感・自己肯定感の向上」と「本人が望む場所での自立した日常生活」を最終アウトカムとして設定しました(図表1,2)。

ロジックモデルの例  事業内容:介護予防のお料理サロン活動

ロジックモデルの例  事業内容:介護予防のための毎朝体操プログラム

II. アウトカムを測定する方法を決める

「II. ロジックモデルをつくる」で挙げたアウトカムを測定するためには、一般的には図表2に示すような指標が有用です。

図表2:アウトカム指標の一覧

クレジット

※所属・肩書きは評価ツール開発当時

 本分野別例は2018年6月に公開されたGSG国内諮問委員会「社会的インパクト評価ツールセット 福祉(介護予防)」の内容をもとにしています。

福祉分野(介護予防)評価ツール作成チーム

新藤 健太 群馬医療福祉大学社会福祉学部 助教(チームリーダー)

乾 明美 群馬医療福祉大学社会福祉学部 助教

任 貞美 韓国保健社会研究院・副研究委員、同志社大学社会福祉教育・研究支援センター嘱託研究員

午頭 潤子 白梅学園大学子ども学部家族地域支援学科 専任講師

引場 茜 群馬医療福祉大学社会福祉学部

本ツールセット作成にご協力頂いた方々(五十音順・敬称略)

中野 智紀 社会福祉法人JMA 東埼玉総合病院

廣瀬 圭子 ルーテル学院大学総合人間学部 専任講師

細江 学 東村山市南部包括支援センター 主任介護支援専門員・地域コーディネーター

八木 裕子 東洋大学ライフデザイン学部 准教授

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