分野別例:環境教育
分野別例:環境教育
はじめに
本評価ツールでは「環境教育」を分野として取り上げています。「環境教育」における活動・事業は幅広く、野外活動・自然体験、自然・動物保護、リサイクル、省エネ活動などの市民活動、学校が主体となっている持続可能な開発のための教育(ESD)など、多岐にわたります。本評価ツールは主に、野外活動・自然体験に関わる事業における社会的インパクト評価を想定して作成されており、その様な事業に関わる方々を利用者として想定しています。
なお、本評価ツールは子供・成人を対象に自然体験を通した環境教育を実施している事業者、その様な事業者を支援する資金提供者、「環境教育」分野の専門家などへのインタビューをもとに作成しています。
II. ロジックモデルをつくる
II.1. 事業の目標と受益者の特定
本評価ツールでは、対象事業となる「環境教育」の最終的な目標を、事業対象者である「プログラム参加者」が、プログラムを通じて自然・環境へ関心を持ち、環境を意識した生活や環境保全につながる行動を始めたりすることとしました。また、「プログラム参加者」が上記に至る過程で発生する波及的成果が、「参加者の周辺(家族、友人、コミュニティなど)」にも現れることが想定される場合もあることから、それらについても事業の受益者に含め、環境保全に対する貢献を最終的なアウトカムとして捉えました(図表2)。
日本においては、一般的に、環境教育における構成要素として「環境から学ぶ(inのアプローチ)」、「環境について学ぶ(aboutのアプローチ)」、「環境のために学ぶ(forのアプローチ)」があるとされています。どのアプローチをとるかは事業によって異なりますが、上位目標として、「学びを他者に伝える、社会還元する」という要素を想定し、事業を行なうことが重要であると考えます。
II.2. アウトカム(成果)のロジックを考える
対象事業の成果を評価するために、事業の受益者である「プログラム参加者」、「参加者の周辺」について、事業を通じて達成できる目標とアウトカム(成果)と、それにいたる活動および変化の因果関係を「ロジックモデル」として示します(図表1、図表2)。事業の性格に加え、事業の受益者が子どもか成人かによって、最終アウトカムにおいて「プログラム参加者」、「参加者の周辺」を越えた波及的効果の出現が期待できるかが異なってきますので、図表1ではそれを予期しないパターン、図表2ではそれを予期するパターンを想定しています。なお、図表1・2は、本ツールセットを作成するにあたってインタビューを実施した事業者や有識者の方へのインタビュー結果を基に作成したもので、あくまでも一例です。アウトカムは抽象度を高めた内容にしており、アウトカムの出現の順番も事業によって様々です。II.2.1以降でアウトカムについて具体的に説明します。
図表1:環境教育分野におけるロジックモデルの例1(子ども対象)
図表2:環境教育分野におけるロジックモデルの例2(成人対象)
II.2.1. 直接アウトカム
直接アウトカムは、事業の結果として直接的に発生する変化を指します。環境教育分野では、自然に触れる、自然の楽しさや脅威を体験すること等を通して事業の結果として期待される直接アウトカムには、「自然が好きになる」、「自然への畏敬が生まれる」、「環境やエネルギーの大切さに気付く」といったプログラム参加者の意識レベルでの変化があげられます。また、参加者が体験を共有することを通して「親睦が深まる」、「人間関係が豊かになる」といった関係者間における変化が見られる場合もあります(図表1、図表2)。
II.2.2. 中間アウトカム
上記の「直接アウトカム」が生じた結果、次の段階として現れる成果を「中間アウトカム」としています。ここでは、「環境を配慮した暮らしをするようになる」といったプログラム参加者の行動レベルでの変化が見られるようなります。また、「自然の魅力、環境について周囲に伝える」といった、「参加者の周辺」への成果がみられる場合もあります(図表2)。
II.2.3. 最終アウトカム
事業の最終目標であるロジックモデルの「最終アウトカム」では、プログラム参加者の意識・行動レベルにおけるより大きい変化があげられます。事業対象者が成人の場合、「参加者の周辺」での変化において、より広がりが見られ、環境保全への貢献と見なすことができる事象が出現する場合もあります(図表2)。
ロジックモデルの例1 公益社団法人 A:親子での日帰り自然体験プログラム
III. アウトカムを測定する方法を決める
「II. ロジックモデルをつくる」で挙げたアウトカムを測定するためには、一般的には図表3・4に示すような指標が有用です。
なお、以降で示す指標とデータベースで紹介する測定方法は、あくまで例を示したものであり、必ずこの指標や測定方法を用いて評価を行わなければならないわけではありません。評価を事業改善といった内部向けの目的で行う場合は、既存の指標や測定方法を用いるよりも、自団体が目指す具体的なアウトカムの内容に応じて、以降で例示されている指標やデータベースで紹介されている測定方法以外のものを用いるのはもちろんのこと、例示されている測定方法の質問項目を変えることが望ましい場合もあります。
以降で例示されている指標やデータベースで紹介されている測定方法は特定の価値判断を暗黙のうちに前提としている場合があります。評価を実施する目的を明確化した上で、指標や測定方法、具体的な質問項目を確認し、自団体が考える価値、アウトカムを測定する上で適切かどうかを判断してください。
また、最終アウトカムについては、その実現までに長期間を要するものも多く、指標を設定することが難しかったり、仮に指標を設定し測定することができてもその変化に事業が「貢献」したことを評価することが難しかったりする場合がほとんどです。ただし、そうだとしても事業の最終的な目的を明確化するためにも、最終アウトカムをロジックモデルとして明確化することは重要だと考えます。
なお、本ツールセットでは「ロジックモデルの例1・2」に記載されているアウトカムに沿って、指標を設定しています。この点、他分野の例と一部異なります。
図表3:アウトカム指標の一覧
ロジックモデルの例1 親子での日帰り自然体験プログラム
ステークホルダー | アウトカムのカテゴリ | 詳細アウトカム | アウトカムの指標 |
---|---|---|---|
プログラム 参加者およびその家族 | 1. 共生・協調 | 1D.1. 参加者間での親睦が深まる | プログラム中の交流の様子 |
プログラム 参加者およびその家族 | 1. 共生・協調 | 1D.2.親子の絆が深まる | 普段の生活における親子で過ごす時間の増加 |
プログラム 参加者およびその家族 | 1. 共生・協調 | 1U.1. 子どもに社会性・社会適応力が醸成される | だれとでも仲良くできる |
プログラム 参加者およびその家族 | 2. 自然・エネルギーへの関心 | 2D.1.自然を好きになる、大切さを知る | 新たな環境教育プログラムへの参加 |
プログラム 参加者およびその家族 | 2. 自然・エネルギーへの関心 | 2D.1.自然を好きになる、大切さを知る | 自然に触れる機会の増加 |
プログラム 参加者およびその家族 | 2. 自然・エネルギーへの関心 | 2D.2. 自然への畏敬が生まれる | 自然を大切にする気持ちが強まる |
プログラム 参加者およびその家族 | 2. 自然・エネルギーへの関心 | 2D.2. 自然への畏敬が生まれる | 花や風景など美しいものに感動できる |
プログラム 参加者およびその家族 | 2. 自然・エネルギーへの関心 | 2D.3.環境・自然についての理解が深まる | 環境保護や環境汚染、自然についての知識の増加 |
プログラム 参加者およびその家族 | 2. 自然・エネルギーへの関心 | 2U.1. 家族が日常生活でエネルギーや物を大切にしようとする意識を持つようになる | 日常生活におけるエネルギー、物の消費に対する意識が高まる |
プログラム 参加者およびその家族 | 3. 野外技能・生活 | 3D.1. エネルギー、今の生活の便利さを知る | 火おこしなど体験の感想 |
プログラム 参加者およびその家族 | 3. 野外技能・生活 | 3D.2 新たな技能を取得する | 刃物などが使えるようになる |
プログラム 参加者およびその家族 | 3. 野外技能・生活 | 3U.1 家族が自然を大切にする暮らしを実践するようになる | 3U.1 家族が自然を大切にする暮らしを実践するようになる 家庭内での環境負荷低減(省エネ、ゴミ分別など)への取り組みの増加 |
図表4:アウトカム指標の一覧
ロジックモデルの例2 成人向け・長期間の自然学校
ステークホルダー | アウトカムのカテゴリ | 詳細アウトカム | アウトカムの指標 |
---|---|---|---|
プログラム 参加者および参加者の周辺 | 1. 共生・協調 | 1D.1. 人とのつながりを大切にした暮らしの実践が起こる | 市民活動や地域活動への参加の増加 |
プログラム 参加者および参加者の周辺 | 1. 共生・協調 | 1I.1. 新たなコミュニティづくりや活動の創出が起こる | 環境・自然に関わる活動を行なう組織を立ち上げる |
プログラム 参加者および参加者の周辺 | 1. 共生・協調 | 1U.1. 自然を大切にする社会的気運が高まる | 環境に関わる市民活動の増加 |
プログラム 参加者および参加者の周辺 | 1. 共生・協調 | 1U.1. 自然を大切にする社会的気運が高まる | メディア(地方紙等)での地域における環境問題や環境活動に関する掲載数の増加 |
プログラム 参加者および参加者の周辺 | 2. 自然・エネルギーへの関心 | 2D.1. 自然への畏敬が生まれる | 自然を大切にする気持ちが強まる |
プログラム 参加者および参加者の周辺 | 2. 自然・エネルギーへの関心 | 2I.1. 自然の魅力、環境についての普及活動が起こる | 家族・友人と共にアウトドアを楽しむ機会の増加 |
プログラム 参加者および参加者の周辺 | 2. 自然・エネルギーへの関心 | 2I.1. 自然の魅力、環境についての普及活動が起こる | 家族・友人と環境、自然について話す機会の増加 |
プログラム 参加者および参加者の周辺 | 2. 自然・エネルギーへの関心 | 2U.1. 自然と関わる仕事・経済活動をする人が増える | 環境に関わる仕事をする人の数 |
プログラム 参加者および参加者の周辺 | 2. 自然・エネルギーへの関心 | 2U.2. 環境保全活動が進展する | 地域単位での環境保全への取り組み |
プログラム 参加者および参加者の周辺 | 3. 野外技能・生活 | 3D.1. 自然・環境を意識したライフスタイルへの変化が起こる | 3Rに取り組む |
プログラム 参加者および参加者の周辺 | 3. 野外技能・生活 | 3D.1. 自然・環境を意識したライフスタイルへの変化が起こる | 旬のもの、地のものを選んで購入する |
プログラム 参加者および参加者の周辺 | 3. 野外技能・生活 | 3D.2. 日常生活の中で自然を楽しむ | 家庭菜園、手仕事などを楽しむ機会の増加 |
プログラム 参加者および参加者の周辺 | 3. 野外技能・生活 | 3I.1. 日常生活に伴う環境への負担を低減する暮らしが実践される | 家庭内での環境負荷低減(省エネ、ゴミ分別など)への取り組みの増加 |
プログラム 参加者および参加者の周辺 | 3. 野外技能・生活 | 3U.1. 環境負荷の少ない製品・サービスを選択する人が増える | 環境配慮商品を購入する人の数 |
プログラム 参加者および参加者の周辺 | 3. 野外技能・生活 | 3U.1. 環境負荷の少ない製品・サービスを選択する人が増える | カーシェアリングや自然エネルギーを利用する人の数 |
プログラム 参加者および参加者の周辺 | 3. 野外技能・生活 | 3U.2. 中山間地域への定住が進む | 中山間地域人口の増加 |
プログラム 参加者および参加者の周辺 | 3. 野外技能・生活 | 3U.2. 中山間地域への定住が進む | 他地域からの移住・定住率の増加 |
プログラム 参加者および参加者の周辺 | 4. 積極性・肯定感 | 4D.1. 新たな生き方を選択する | 仕事やライフスタイルの変化 |
プログラム 参加者および参加者の周辺 | 4. 積極性・肯定感 | 4D.2. 自己肯定感を持つ | 自己肯定感に関する心理尺度の点数 |
プログラム 参加者および参加者の周辺 | 4. 積極性・肯定感 | 4I.1. 人生の大切なことを明確に意識して周囲を巻き込みながら歩み始める | プログラム参加において自分に起こった最も重要な変化 |
クレジット
※所属・肩書きは評価ツール開発当時
本分野別例は2017年6月に公開されたGSG国内諮問委員会「社会的インパクト評価ツールセット 環境教育」の内容をもとにしています。
環境教育評価ツール作成チーム
今田 克司 一般財団法人CSOネットワーク(チームリーダー)
川合 朋音 一般財団法人CSOネットワーク
本ツールセット作成にご協力頂いた方々(五十音順・敬称略)
公益社団法人日本環境教育フォーラム
ホールアース自然学校
阿部 治 立教大学ESD研究所 所長
本城 宏行 独立行政法人環境再生保全機構 地球環境基金部 地球環境基金課長
山崎 唯司 独立行政法人環境再生保全機構 地球環境基金評価専門委員会 専門委員