分野別例:子育て支援
分野別例:子育て支援
I. はじめに
本評価ツールでは「子育て支援」を分野として取り上げています。子育て支援分野における事業は多岐に亘りますが、本評価ツールが対象とする子育て支援事業とは、親に対する相談事業や子育て支援を行うコミュニティづくりの事業に加えて、育児をする親が自由にライフコースを選択できることを目的とした配偶者や職場の子育てへの理解の向上事業も対象にしています。本評価ツールは、これらの事業を行う事業者へのインタビューをもとに作成しており、これらの事業に関わる方々を利用者として想定しています。
なお、以降では「ロジックモデル」、「アウトカム」や「アウトプット」といった用語を使用していますが、定義についてはロジックモデル基本解説を参照して下さい。
II. ロジックモデルをつくる
II.1. 事業の目標と受益者の特定
本評価ツールでは、対象事業となる子育て支援事業の最終的な目標を、支援対象である「親」が「安心して子育てができること」、そして「育児をする親が自由にライフコースを選択できること」としました。したがって、事業の主な受益者を「親」としています。
ただし、子育て支援事業において、特に「子ども」も受益者になり得ます。本評価ツールでは「親」に焦点を当てていますが、子どもが重要なステークホルダーであることを否定するものではありません。主たる受益者が「親」であっても、「子ども」の変化に目を配ることは重要だと考えられます。本評価ツールでは、「親」に関わるアウトカムしか扱っていませんが、実務では、「親」以外のステークホルダーの観点から、必要なアウトカム、その実現のために必要な活動やアウトプットを検討することをおすすめします。
II.2. アウトカム(成果)のロジックを考える
事業の成果・効果を評価し事業改善や説明責任の遂行につなげてゆくためには、事業の設計図ともいえるロジックモデルを検討し明確化する必要があります。「ロジックモデル」とは、事業や組織が最終的に目指す変化・効果の実現に向けた道筋を体系的に図示化したものです。図表1は、本評価ツールを作成するにあたってインタビューを実施した事業者や有識者の方へのインタビュー結果を基に作成した、ロジックモデルの例です。「親が安心して子育てができること」の実現に必要だと考えられるアウトカムの例を示しています。II.2.1以降で、アウトカムについて具体的に説明します。
なお、本評価ツールは、多くの団体で難しさを抱えているアウトカムの評価を支援することを主な目的としているため、アウトプットの評価についてはあまり触れていません。「アウトプット」とは、事業活動を通じて提供するモノやサービスを指し(例えば相談事業では相談員による相談サービスの提供)、その評価はサービスの対象者数や実施回数(量の側面)や、その内容に関する対象者の満足度(質の側面)などを通じて行われます。事業改善や説明責任の遂行のためには、このアウトプットの評価も重要である点は留意して下さい。
図表1: 子育て支援分野におけるロジックモデルの例
II.2.1. 直接アウトカム
直接アウトカムは、事業の結果として直接的に発生する変化を指します。
本評価ツールセットで対象としている子育て支援事業における事業の結果として期待される直接アウトカムとしては、「親自身の変化」、「配偶者の変化」、「職場/社会の変化」に大別されます。
子育て相談事業においては、「育児に関する相談機会の増加」、そしてそのことによる「親の育児に関する知識の増加」が直接アウトカムと考えられます。また、子育て支援を行うコミュニティづくり支援事業においては、「コミュニティにおける支え合いの増加」を直接アウトカムとしました。また、配偶者や職場の子育てへの理解の向上事業においては、「配偶者の理解の向上」とその結果による「配偶者の育児参加の増加」や、「職場による理解の向上」とその結果による「職場における育児と仕事を両立しやすい環境の整備」が直接アウトカムと考えられます。
II.2.2. 中間アウトカム
中間アウトカムは、上記の直接アウトカムの結果として期待されるアウトカムです。「親の育児に関する知識の増加」の結果としては、「親の育児不安の軽減」が期待されます。また、「コミュニティにおける支え合いの増加」によって「親の孤独感の軽減」(心理面での負担の軽減)や「親の育児負担の軽減」(時間面、物理面での負担の軽減)にもつながると考えられます。さらに「配偶者の育児参加の増加」も「親の孤独感の軽減」や「親の育児負担の軽減」につながると考えられます。
また、「配偶者の育児参加の増加」や「職場における育児と仕事を両立しやすい環境の整備」、病児保育や学童保育といった事業を通じて「育児と仕事の両立のしやすさの向上」が期待されます。
II.2.3. 最終アウトカム
本評価ツールでは、Ⅱ.1.で述べたとおり、直接アウトカムや中間アウトカムの結果として期待される長期的なアウトカムとして「親が安心して子育てができること」、「育児をする親が自由にライフコースを選択できること」を設定しています。親の育児不安や孤独感、育児負担が軽減されることが、「親が安心して子育てができること」につながります。また、家族や職場、そして社会の変化を通じて「育児と仕事の両立のしやすさが向上」することで、「育児をする親の自由なライフコースの選択」につながります。
ロジックモデルの例 株式会社A:子育て支援プラットフォーム構築事業
III. アウトカムを測定する方法を決める
「II. ロジックモデルをつくる」で挙げたアウトカムを測定するためには、一般的には図表3に示すような指標が有用です。
なお、以降で示す指標とデータベースで紹介する測定方法は、あくまで例を示したものであり、必ずこの指標や測定方法を用いて評価を行わなければならないわけではありません。評価を事業改善といった内部向けの目的で行う場合は、既存の指標や測定方法を用いるよりも、自団体が目指す具体的なアウトカムの内容に応じて、以降で例示されている指標やデータベースで紹介されている測定方法以外のものを用いるのはもちろんのこと、例示されている測定方法の質問項目を変えることが望ましい場合もあります。
以降で例示されている指標やデータベースで紹介されている測定方法は特定の価値判断を暗黙のうちに前提としている場合があります。評価を実施する目的を明確化した上で、指標や測定方法、具体的な質問項目を確認し、自団体が考える価値、アウトカムを測定する上で適切かどうかを判断してください。
また、最終アウトカムについては、その実現までに長期間を要するものも多く、指標を設定することが難しかったり、仮に指標を設定し測定することができてもその変化に事業が「貢献」したことを評価することが難しかったりする場合がほとんどです。ただし、そうだとしても事業の最終的な目的を明確化するためにも、最終アウトカムをロジックモデルとして明確化することは重要だと考えます。
図表2: アウトカム指標の一覧
クレジット
※所属・肩書きはツールセット開発当時
本分野別例は2018年6月に公開されたGSG国内諮問委員会「社会的インパクト評価ツールセット 子育て支援」の内容をもとにしています。
子育て支援評価ツール作成チーム
藤田 滋 日本財団