コラム

学び・改善のサイクル

インパクト・レポートの主眼は、達成したことを客観的に明示するだけではありません。レポートに記されたデータから何を学びとるかが最後の仕事として残されています。インパクト・レポートは、書いて終わりなのではなく、その内容から学び、事業改善につなげ、受益者の生活が向上したり社会課題が解決する方向に向かうことで、その意義が発揮されるのです。

事業改善を考える際には、a)自組織の事業改善と、b) 活動分野全体の向上の両方への目配りをしてみましょう。

a)自組織の事業改善

インパクト測定の大きな効果のひとつに、事業改善につながることがあります。ただし、改善させていくためには収集・分析したデータを的確に把握し、そこからの教訓を読み取る必要があります。

評価結果を眺めて、「どこの部分で事業がうまくいっているのか」と「どこに改善点が認められるか」の両方をしっかり検証してみましょう。事業改善のためには、次の点を考えてみることが役に立つと考えられます。

  • 事業目標に照らし合わせて、事業内容は適切か
  • 事業目標に照らし合わせて、事業の対象者・受益者は適切か
  • ロジックモデルの活動から成果へのつながりにおいて、予定通り成果が見えているのはどの部分で見えていないのはどの部分か
  • 事業実施によって、プラスまたはマイナスの予期せぬ結果が出ていないか
  • 事業予算は効果的に配分されているか

そして、以上の点を検証してみた結果、成果指標は適切だったか、そして十分なデータが得られているか(つまり「ほしい答え」が出ているか)、についても振り返りをしてください。

以上のような作業を繰り返すことが、「学び・改善」のサイクルをまわすことにつながります。事業自体が単年度限りの場合でも、「学び」は他の事業に応用できたり、別事業のロジックモデルを描く際に役に立つはずです。

b) 活動分野全体の向上

評価の「学び」の優れた点は、それがある程度客観・中立的指標にもとづいていることで、これはすなわち組織を超えた応用が効くということです。そのためには、評価結果をオープンにして、他組織と共有し、活動分野の異なる組織による事業をいかに向上することができるかの素材を提供することを考えましょう。

もし子育て支援、若者の就労支援、まちづくりなど、活動分野でNPOや行政がかかわる「協議会」的な機構があるのであれば、その集まりで評価結果を共有し、議論の材料にするのは「学び」を広げる絶好の機会になります。何をどのように測定し、データをどう収集したか、どこに困難があったかなどの情報を共有することは、他組織にも参考になります。

また、Shared Measurement というアプローチが最近注目されてきています。「複数の組織や一定のセクター内で測定手法や指標を共有することで、組織間の連携を深め、課題認識の深化、解決手法の発展、コストの逓減等を図り、セクター全体としての課題解決能力の向上を図ろうとする考え方」[1]とされるこの手法を使い、組織という単位を超えた、ロジック・モデルや成果の検証ができるようになります。地域単位あるいは全国単位で、活動分野自体の共有の成果目標や指標をつくって、組織や地域での共通指標にそった進捗状況をチェックする、そのためのデータ収集を系統立って行う(そしてデータ収集のための資金を確保する)という試みが、試行的に行われるようになってきています。Shared measurement によるメリットとして、以下が考えられます[2]。

  • (共通の)指標などを活用することで、個々の組織による開発労力や資源が節約され、小さな団体でもインパクト評価が実施できるというメリット(プロダクトの側面)。
  • Shared measurement のアプローチそのものがセクター内での連携をもたらし、セクター共通の課題や解決方法に対する理解を深め、それがセクター全体の利益になり、最終的には受益者にとってメリットになる(プロセスの側面)。
  • 資金提供者や行政にとっても指標の共有化で比較可能性が確保されたり、事業の委託者がよりよい事業に資金を振り向けることが可能となり、受益者にメリットをもたらす。

良質のインパク・トレポートを世に出すことによって、社会課題の解決に向けた歩みにとどまらず、組織の基盤強化、同じ分野で活動する多様なステークホルダーの連携など、組織のミッション達成に向けた歩みが加速するはずです。「評価報告書」をこのように捉え、「使われてこその評価」を実践していきましょう。

[1] 内閣府社会的インパクト評価検討ワーキング・グループ(2016)「社会的インパ クト評価の推進に向けて-社会的課題解決に向けた社会的インパクト評価の 基本的概念と今後の対応策について-」
https://www.npo-homepage.go.jp/toukei/sonota-chousa/social-impact-sokushin-chousa (2020年4月1日閲覧)
p.42

[2] 同上。

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