コラム

フィデリティ尺度

フィデリティ尺度とは、近年、対人ケアのサービス研究領域で注目され、頻繁に使用されるようになったプロセス・モニタリング及びプロセス評価のためのツールです。

フィデリティ尺度は、事業の戦略(ロジックモデル等のセオリー)に示された活動の実施内容をより詳細に、より具体的に示した「効果的援助要素(critical components)」あるいは「効果的プログラム要素(critical program components)」で構成されます。

例えば、次の図表に示されたロジックモデルはある研究プロジェクトで作成された「生活困窮者自立相談支援事業における就労支援のロジックモデル」ですが、「支援員個人の支援能力が向上する」や「チーム支援が行われるようになる」といった14個の直接アウトカムに紐づく形で同じく14個に分かれた活動群が備えられています。

図表 生活困窮者自立相談支援事業における就労支援のロジックモデル

(出所:ユニバーサル志縁センター 2018:3-5をもとに作成)

これらの活動群は「効果的援助要素・効果的プログラム要素」としてより詳細化・具体化され、さらにその実施状況が測定できるよう「フィデリティ尺度(Fidelity Scale)」が作成されます。

次の図表は「生活困窮者自立相談支援事業における就労支援のロジックモデル」にもとづいて作成されたフィデリティ尺度の一部ですが、「支援員個人の支援能力向上」という直接アウトカムを達成するために、

□「事業所(機関)内で支援員研修を実施している

□ 支援員は外部の研修会等へ積極的に参加をしている

□ 支援員のメンタルヘルスに留意している

□ 支援員は適切な人数が配置されている

といった4つの取組みが必要であることを示しています。さらに、次の図表の右側(評価・アンカーポイント)にあるように、これらの取組みの実施度に応じて「支援員個人の支援能力向上」という直接アウトカムを達成するための活動群を1点~5点で評価することができるようになっています。

図表 支援員個人の支援能力向上のための活動群を測定するためのフィデリティ尺度

(出所:ユニバーサル志縁センター 2018:66)

 このように、フィデリティ尺度は5点に近ければ近いほど当該事業のロジックモデルを構成する「効果的援助要素・効果的プログラム要素」が忠実に実施されていることを示しているため、すべての活動群(この事例でいえば14グループの活動群)でフィデリティ尺度得点が5点に近い状態であれば「この事業のロジックモデルは忠実に実施されている」ということを示すことができるのです。

 なお、フィデリティ尺度を用いることで活動群を1点~5点で定量化して示すことが可能になるため、次のような分析を行うことも可能になります。

図表 フィデリティ尺度の分布

(出所:ユニバーサル志縁センター 2018:23をもとに作成)

 この事例では全国1,317か所(なお回収数は706か所)の事業所を対象にしたフィデリティ評価(フィデリティ尺度を用いたアンケート調査)を実施したところ、「A1:支援員個人の支援能力の向上」や「A3:多様なメニューによる支援を提供する」といった活動群の実施状況は比較的十分なものの、「B2:起業の支援」や「D3:就労能力向上のための支援」といった活動群の実施状況がまだまだ不十分であることが明らかになっています。

図表 フィデリティ尺度得点とアウトカムの関連の分析

 (出所:ユニバーサル志縁センター 2018:26をもとに作成)

 全国1,317か所(なお回収数は706か所)を対象にしたフィデリティ評価及びアウトカム評価(フィデリティ尺度及びアウトカム指標を用いたアンケート調査)を実施し、フィデリティ(活動)とアウトカムの相関分析を行ったところ、フィデリティ得点が高ければ高いほど(つまりロジックモデルに設定された活動が忠実に実施されていればされているほど)アウトカム指標の達成度も高いということが明らかになりました。

このように、フィデリティ尺度を用いることで事業(ロジックモデル)に設定された活動内容の忠実度を測定できるようになり、ひいては、活動の「質」を一定の水準に保つことが可能になります。

そのため、近年の「EBP:Evidence-Based Practice(科学的根拠にもとづく実践)」においては、この「フィデリティ尺度」の作成が必須となっています。

(引用・参考文献)

大島巌(2012)『CD-TEP法|円環的対話型評価アプローチ法実施ガイド』平成22年度文部科学省・科学研究費補助金基盤研究(A)「プログラム評価理論・方法論を用いた効果的な福祉実践モデル構築へのアプローチ法開発」報告書(主任研究者:大島巌)最終閲覧日:2021年1月11日(http://cd-tep.com/).

大島巌・源由理子・山野則子・他(2019)『実践家参画型エンパワメント評価の理論と方法―CD-TEP法:協働によるEBP効果モデルの構築』日本評論社.

ユニバーサル志縁センター(2018)『自立相談支援事業評価ガイドライン作成・検証事業報告書』最終閲覧日:2021年1月11日(https://u-shien.jp/work2015/work2017report.pdf).

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