Social Impact Day 2021 を終えて

SIMI代表理事 今田克司

「インパクト・エコノミーへの転換点」をテーマに開催されたSIMI Social Impact Day 2021。オープニングのビデオメッセージで後援団体のアヒム・シュタイナー国連開発計画(UNDP)総裁が語った、持続可能で公正な社会づくりへの課題が大きくなる中でコロナ禍はグローバルな「転換点(ピボット)」とならなければならないという問題提起を受けて、インパクトやインパクト・マネジメントの考え方や実践がどう役立つのかということを多様な人々と話し合う機会となるイベントでした。

2022年1月21日、24日、25日の3日間、オンラインで開催されたSocial Impact Day はSIMIにとって6回目の年次イベントとなりました。登録者総数は584名で、昨年初めてのオンライン開催となった登録者数とほぼ同じ。それまでのSocial Impact Day が300名収容の国際会議場で行われていたことを考えると、このテーマに対する関心層の増大と多様化が見て取れます。

 今回は、2016年の活動開始からご支援くださっている一般財団法人社会変革推進財団に加え、昨年に引き続き公益財団法人笹川平和財団、そして新たに株式会社みずほフィナンシャルグループ、株式会社かんぽ生命保険の4社・団体からスポンサーとしてのご支援をいただきました。また、プレセッションは、独立行政法人国際交流基金国際交流基金日米センターとの協働事業として実施しました。さらに、国連開発計画(UNDP)、特定非営利活動法人NPOサポートセンターから後援をいただきました。ご協力いただいた方々、そしてご参加いただいたみなさまにあらためてこの場で感謝申し上げます。

インパクトに携わる人の多様化

今回のSocial Impact Day では、3日間で合計15のセッションがあり、60名近い登壇者が登場しました。「インパクト」というキーワードに多様なセクターから人々の関心が集結していることの表れといってよいでしょう。2016年にSIMIがスタートした際は、「社会的インパクト」という用語に敏感に反応した人の多くはソーシャル・セクターの人で、加えて企業のCSR部門や一部の行政機関(国・自治体)の人が、社会的インパクトの計測に関心を示し、SIMIの主要なステークホルダーになりました。

 それから5年半、いまや「インパクト」(海外でも日本でも「社会的インパクト」から「社会的」が取れて単に「インパクト」と呼ぶようになってきました)は多種多様なセクターや分野の人にとって避けては通れないものになっています。その中でも、大きく「インパクト」にシフトしているのが金融セクターでしょう。その発端がプライベート・エクイティなど、未上場株式の世界を中心に始まったインパクト投資にあることは間違いないですが、インパクトへの関心は、上場株式投資や大手銀行・保険業界、地域金融機関など、「お金」を取り扱う仕事にある人々全体で高まっています。

 今回のSocial Impact Dayでは、これら金融機関に加えて、政府機関(金融庁)、政策アドバイザー、財団関係者、企業やソーシャルセクターの事業実践者、研究者など、多種多様な人々がインパクトの共通言語を中心に、議論を繰り広げました。

インパクト・エコノミーと民主主義

そんな中で、今回のハイライトの一つは基調講演者として台湾デジタル担当大臣のオードリー・タン氏を招くことができたことです。タン氏と太田直樹氏(株式会社 New Stories 代表他)のやりとりや、「テクノロジーが促進する社会のインパクト志向」のセッションで、インパクト情報が大きな役割を担うデジタル・エコノミーの時代におけるオープンデータや市民参加の重要性が強調されました。デジタル・エコノミーの議論では、どうしてもテクノロジーの革新やビッグ・データによるデータ活用、EBPM(Evidence-Based Policymaking:エビデンスをもとにした政策形成)などが話題になりますが、いかに民間の力、市民の力を動員して、データを収集し、それをプライバシーへの配慮を怠らずにいかに万人の所有物にしていくかを議論することは今後の社会のあり様を構想するうえでとても大切なことです。

6回目となるSocial Impact Dayにおいて初めて、インパクト・エコノミーが社会の民主主義のあり方と結びついたのです。

歴史の転換点(ピボット)へ

クロージングのSIMI理事の話し合いでも話題になりましたが、私たちのSIMIの関心事は、「なんのための社会的インパクトなのか」を常に問い続けることです。多様な人々にとってのインパクトの共通言語化の流れを最大限活用して、近未来の経済社会の向かう方向に転換をせまるピボットを、多くの人々と協力してSIMIは起こしていけるのか。ピボットの先に用意された道はなく、「答えのない」世界において、正解を求めながら模索していく覚悟で、今後とも皆さんとともに歩んでいきたいと考えています。

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