6章 社会的インパクト・マネジメントの実践ステップ

Step 7: 報告・活用(第4ステージ:報告・活用)

 ここまでのステップの諸作業をまとめ、開示・報告し、事業や取り組みの改善や関係者とのコミュニケーションに活用します。ここでは報告の基本として「インパクト・レポート」についての解説を行いますので、それを参考にしてそれぞれの目的や状況に応じた報告・活用の取り組みを行ってください。

 インパクト・レポートは、事業設計・実施についての意思決定(マネジメント)の視点と、評価の視点の両方が盛り込まれるものとなります。

(1) インパクト・レポートの目的

 インパクト・レポートの目的は、以下に示すように様々であり、その目的に応じた構成・内容・媒体を考えることが必要です。

  • 事業や取り組みの実施状況や創出されたインパクトについて報告し、資金提供者含む様々なステークホルダーに対する説明責任を果たすこと
  • 組織内部で、取り組んでいる課題や事業・取り組みの狙いについて共通理解を深め、学びや改善点や学びを抽出、共有すること
  • 事業や取り組みの内容や成果を広く発信することで、理解者・支援者の輪や資金、モノ、情報等での支援を広げること
  • 取り組んでいる課題の解決に向けて、うまくいった点・いかなかった点について社会に知見を共有することで、さらなる課題解決の促進を行うこと

 良質なインパクト・レポートとは、上記の複数の目的を果たすような目配りがレポートの内容から読み取れるものであり、適切なコミュニケーション・ツールとして役立つものです。

2)「インパクト・レポート」による報告

 インパクト・レポートでは、社会課題の設定や事業や取り組みの設計、実施内容、データの収集過程や分析結果、今後の事業や取り組みに反映できる内容をまとめ、団体内・関係者間で共有します。また、分析結果等をもとに、事業や取り組みがより高次の価値を生み出すために、事業の改善(拡大、縮小、転換等を含む)の必要があるかの意思決定を行います。「正しい事業戦略になっているのか」という疑問が生まれた場合は、事業の継続をしないという選択肢をとる検討をする必要もあります。

インパクト・レポートの読み手を考える

 「インパクト・レポート」作成の際には、どのステークホルダーとどのようなコミュニケーションを取ろうとするのかを考えるのが必要です。「いつ」、「誰に」、「どのような情報を」、「どのような媒体で」伝えるのかをはじめに整理しましょう。まずは、インパクト・レポートの主たる読み手(使い手)は誰かということを考えます。考えられる読み手には、

  • 自組織のリーダーやスタッフ
  • 資金提供者や事業の支援者
  • 事業の直接の受益者
  • 事業に関わる様々なステークホルダー(事業パートナーなど)

など、組織内外のステークホルダーが考えられます。もちろん、単一の読み手ではなく、複数の読み手が想定される場合が普通でしょう。その場合でも「主たる」読み手を想定し、その層からの理解・納得が得られるような書き方を考えるのが有用なアプローチとなります。

インパクト・レポートの基本構成(推奨アウトライン)

 読み手が誰であれ、インパクト・レポートが答えなければならない基本的な質問事項があります。この6つの質問に順序立てて明確に答えられるようにレポートのアウトラインを作ることが推奨されます。

 以下の基本構成を意識して、主たる読み手に伝わるような構成、内容にしましょう。

1)  どのような社会課題の解決を目指したのですか(事業の背景、目的)

2)  その問題に対してどう取り組み、どのようなステップを踏むことで問題解決に貢献できると考えたのですか(ロジックモデルなど)

3)  具体的に何を行ったのですか(活動内容、アウトプット)

4)  その結果何を成し遂げましたか(成果・アウトカム、場合によっては事業の効率性)

5)  アウトカムを達成したと言える根拠は何ですか(指標に照らし合わせたデータ分析、アウトカム達成への当該事業の貢献度の検討)

6)  評価からの学び、今後の改善のための教訓はなんですか(振り返りポイント)

 このアウトラインは、そのまま、レポートに書かれるべき6点として活用できます。また、インパクト・レポートの内容は、文章のみでなく、グラフや写真、イラスト、図表を活用したり、分量が多い場合には冒頭にサマリーページをつけることで格段に読みやすくなります。また冒頭に成果指標の測定結果を明確に示すなど様々な工夫が考えられます。

 4)のアウトカム情報は、ただ測定結果を示すだけでなく、介入前後や時系列の比較、分野や業界平均との比較、初期値や目標値との比較により、価値判断が可能となります。またアウトカム情報は、定量データだけでなく定性データを示すこともできます。さらに、主たる読み手が投資家である場合など、IMPのインパクトの5つの基本要素で整理して伝えることも検討の価値ありです。

意思決定の視点評価の視点
【目的】
・事業について明確かつわかりやすいレポートを作成し、報告する。

【作業例】
①これまでの事業運営・評価結果を整理し、レポートを作成する(上記のレポートに書かれるべき内容6点を参照)。
②レポートの質が低ければ書き直す。
③レポートをもとに、当該事業をどうしていくのか(継続か、改善か、廃止か、など)を検討する。
④事業運営・評価結果を関係者に報告する(例えば、レポートの送付や報告会の実施等を通して)。
【目的】
・事実特定や価値判断の根拠を十分に示すレポートを作成し、報告する。

【作業例】
上記のレポートに書かれるべき内容6点の内容が適切に記述されていたかを検証する(このときメタ評価チェックリストなどの枠組みを活用することが有効)。
※なお、上記の内容を簡潔に記した「評価概要」を作成することが望ましい(レポートの全文を読まれない場合も多い)。

図表20:実践 Step7 報告・活用のポイント

3)「インパクト・レポート」の発信・活用

 インパクト・レポート作成の際に考えた読み手に対し、レポートを送り(場合によっては公開し)、得られた知見を紹介します。それによって、事業や取り組みの輪(理解者、協働相手や支援者・支援団体)を広げていくことを目指すことができます。また、これを定期的(例えば1年ごと)に繰り返して発信することによって、経年のインパクトの推移を伝えることを検討できるほか、インパクト・レポートを主要なステークホルダーとの継続的なコミュニケーションのツールとすることができます。

意思決定の視点評価の視点
【目的】
インパクト・レポートを将来の事業計画や運営に役立てる。
【作業例】
事業や取り組みの成果やプロセス、レポートをもとになされた意思決定について組織内部で振り返りを行う材料とし、学びの共有やさらなる事業発展に活用する。
事業や取り組みの成果について、資金提供者への説明や、将来の資金調達に向けた情報発信に活用することを検討する。
事業や取り組みの成果について、多様なステークホルダーと共有し、学びや教訓を確認し、理解者・支援者の輪を広げる。
【目的】
インパクト・レポートにより、分野等の知見の発展に貢献する。
【作業例】
事業による介入のありなしによる比較の検証のためのエビデンスを提供する。 経年におけるインパクト測定の推移を報告・発信する。

社会的インパクト・マネジメント原則の留意点

a. ステークホルダーの参加・協働【意思決定の視点】事業の戦略策定や事業・評価計画策定において協働したステークホルダーに事業・評価結果を報告し、活用についてともに考える機会を作るよう検討する。
b. 重要性 (マテリアリティ)【意思決定の視点】当初想定していた(予期していた)正負のインパクトに基づき意思決定を行い、開示するだけでなく、予期していなかった正負のインパクトのうち組織内外のステークホルダーにとって重要ものがなかったか検討し、それらについても開示する。
c. 信頼性【評価の視点】当初想定していた(予期していた)正負のインパクトを開示するだけでなく、予期していなかった正負のインパクト(特に負のインパクト)のうち組織内外のステークホルダーにとって重要なものについて開示する。
【評価の視点】過剰報告のリスクがある場合は、そのリスクについて明記する。
d. 透明性【意思決定の視点】データの信頼性や評価結果の妥当性を、必要な場合に意思決定者や報告の読み手などが検証できるよう、データ収集および分析のプロセスに関する記録も併せて報告する。
e. 比例性【評価の視点】選択した評価方法や評価のスコープに由来する評価結果の信頼性(報告できることの信頼度)や包括性(報告できることの範囲)の限度に留意し、開示する。
【評価の視点】継続的に評価を行う際に、評価の範囲を広げていけるような評価方法の改善を検討する。
「+2原則」(以下は、インパクト・マネジメントの目的に応じて適用させる)
g.  一般化可能性【評価の視点】読み手などが評価の結果の活用可能性などを判断できるよう、アウトプットやアウトカムの指標、使用した尺度、評価デザインなどの評価方法も含めて開示する。
h. 経時的比較可能性【評価の視点】過去の評価結果と比較する場合は、評価方法の変更の有無など、経時的な比較可能性に留意し、評価方法の変更などがある場合は、その内容を開示する。

良質なインパクト・レポートが数多く社会に出回ることによって、社会全体の「インパクト志向」が発展していくと考えられます。それにより4章4節でも触れたように、他組織からの学びや知見も取り入れた事業や取り組みが地域的・社会的な取り組みへと発展していき、継続的な形で社会課題解決や社会価値創造が進展していきます。インパクト・レポートやレポートで提示されたエビデンスを活用した調査研究により、事業や取り組みの効果が実証されれば、取り組みが社会にとって有用であることが示され、また多くの人たちが使える技術にしていくことができます。

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