コラム

評価のキャパシティ・ビルディング(ECB)

 評価のキャパシティ・ビルディング(ECB)を一言で説明すると「評価活動を行うために必要な能力を向上させること」と言えます。

Bakerらによる評価能力(EC)の解説

 Bakerらは評価のキャパシティを①評価能力(Evaluation Capacity)、②評価的思考(Evaluative Thinking)、③評価的能力(Evaluative Capacity)の側面から説明しています。

①評価能力(Evaluation Capacity)

 評価能力とは、スタッフ及びその組織が評価を行うために必要な能力のことです。

 評価は体系的な活動です。そのため「(問いを立て)質問をする」、「(問いに答えるために)必要なデータは何かを決定する」、「適切な方法でデータを収集する」、「収集したデータを分析して調査結果をつくり、それを要約する」、「(評価に)調査結果を活用し、それを共有する」ことに熟練している必要があります。

②評価的思考(Evaluative Thinking)

 評価的思考(Evaluative Thinking)とは、プログラムそのものに関連する領域で上記の評価能力を使用する一種の「省察的実践(Reflective Practices)」です。例えば、人的資源の確保や資金調達の領域において活用されます。

 これにより、「体系的に質問する」、「データを収集し、分析する」、「行動に移す」といった評価活動を組織業務に統合させます。

③評価的能力(Evaluative Capacity)

 評価的能力は、①評価能力と②評価的思考の組み合わせを意味します。そのためには、プログラム、戦略、イニシアチブ含め、組織が取り組むあらゆる側面で「評価を実施し、活用する」というコミットメントが必要です。

 これらのことから、評価のキャパシティ(EC)とは、評価活動のために必要な作業を行うための能力のことを意味しており、さらに個人のみではなく、組織自体にも備えられるべきものであることを意味しているといえるでしょう。

Baker, A., Bruner, B.(2014). Evaluation Capacity Building and Organization Change:
Voices from the field. Bruner Foundation.

Preskillらによる評価のキャパシティ・ビルディング(ECB)の目的

 Preskillらは評価のキャパシティ・ビルディング(ECB)とは、評価に関する①知識(Knowledge)、②スキル(Skills / Behaviors)、③態度(Affective)を備えることと説明しています。

①知識(これらのことを理解している)

  • ・評価には、意図的で計画的かつ体系的な活動が含まれること
  • ・評価の用語と概念
  • ・評価プロセスと評価結果が意思決定にどのように貢献できるか
  • ・様々な評価アプローチの長所と短所
  • ・様々なデータ収集方法の長所と短所
  • ・基本的な定量的データの分析方法
  • ・基本的な定性的データの分析方法
  • ・政治的なことが評価プロセスと調査結果にどのような影響を及ぼすか
  • ・文化的に適切で応答性の高い評価アプローチ法を使用することの重要性
  • ・評価の倫理を遵守した実践
  • ・様々な利害関係者が、評価者について異なる意見、経験、及び視点をもっている可能性があること
  • ・プログラムの目標・目的、活動、及び期待される成果との関係
  • ・評価者(評価専門家)に依頼する際の知識、スキル、経験

②スキル(これらについて行動・実践できる)

  • ・ロジックモデルの開発
  • ・重要な評価設問の設定
  • ・評価計画の作成
  • ・データ収集方法の設計(調査の設計)
  • ・適切で妥当なデータ収集方法を選択
  • ・信頼できるデータを収集
  • ・定量的データ分析
  • ・定性的データ分析
  • ・結果の分析、考察
  • ・評価予算の作成
  • ・様々な戦略を用いて、評価結果を伝達する
  • ・Program Evaluation Standards and / or AEA Guiding Principles for Evaluatorsの活用
  • ・評価を他者に伝える
  • ・評価計画の作成(とその改善)
  • ・評価プロセスの管理

③態度(これらのことについて信じることができる)

  • ・評価によって重要な情報が得られる
  • ・評価はポジティブな経験を生む
  • ・評価はプログラムを設計するプロセスの一部である
  • ・評価はプログラムの成功に貢献する
  • ・評価は組織に付加価値をもたらす
  • ・評価は仕事(プロジェクト)の重要な部分を占める
  • ・評価は時間やお金をかける価値がある

 以上のことはいずれも「評価専門家」にとって重要なことといえますが、必ずしも一人の評価者が全てのことについて得意である必要はないでしょう。

 知識の部分に「評価者(評価専門家)に依頼する際の知識、スキル、経験」とあるように、必要に応じて「より得意」な専門家に依頼して協働して評価活動を行うということもまた、評価者として重要なことといえるからです。

Preskill, H., Boyle, B.(2008). Insights into evaluation capacity building:
Motivations, strategies, outcomes, and lessons learned. The Canadian Journal of
Program Evaluation. Vol23, No3 147-174.

※ Bakerら・Preskillらともに訳は新藤による。

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