はじめに なぜ私たちは社会的インパクトに注目するのか
本ガイドラインでは、「社会的インパクト・マネジメント」とは何か、それをいかに実践するかを概説します。社会的インパクト・マネジメント・イニシアチブ(以下、SIMI)では、「社会的インパクト・マネジメント・ガイドライン VERSION 1」を2018年に公表しましたが、これはそのVERSION2となります。
昨今、「社会的インパクト」や「社会的インパクト評価」に対する関心が多様なセクターや分野から高まっています。社会的インパクトを共通言語としていく動きもある中で、これら様々なセクターが持っていたこれまでの言語体系にはかなりの隔たりがあり、言葉遣いの違いや同じ用語を使っていても内包する意味が異なっている場合などが見られます。また、社会的インパクト評価は学術的な評価学・評価研究の伝統から出てきたものではないため、評価学におけるインパクト評価との違いも混乱を生む原因となっています。
このような中で、SIMIでは、多様なセクターの関係者が社会的インパクト・マネジメントをより効果的に実践する一助となるように、ガイドラインを作成しました。このガイドラインの主たる使い手として意図されているのは、事業者(取り組みを実践している事業主体)です。ここで言う事業者には、社会的インパクトの創出を目指す大小の非営利・営利組織が含まれます。また、このガイドラインを活用する事業者は、必要に応じて、適切な範囲で外部支援を取り入れることが奨励されています。SIMIでは、事業者が社会的インパクト・マネジメントの効果的な実践を進めるためのガイド(手引き)として活用できるようにガイドラインを作成し、VERSION2へ改訂しました。
一方、SIMIでは、政府・自治体、投資・金融業界、企業すなわち営利事業者(大企業、中小企業、社会企業等を含むとともに、本業部門とCSR・社会貢献事業部門の両方を含む)、NPO/NGOを含むソーシャルセクター(非営利事業者)、各種支援団体等、多様な主体が活用できるように、このVERSION2を「基本形」として、分野や業界でカスタマイズさせたガイドライン作成が進む方策を検討しています。それぞれの分野や業界では、事業や取り組みの実践(事業形成、実施、評価、報告を含め)を進めるための規定や慣習が存在しています。それらの実践における言葉遣いに合わせた「社会的インパクト・マネジメント」のあり方について、分野や業界ごとの議論が進むことを期待しています。
本ガイドラインは社会的インパクト・マネジメントをいかに実践するか(「HOW」の問い)を中心に書かれていますが、「HOW」の前に「WHAT」を、「WHAT」の前に「WHY」を問うことが肝要だとSIMIでは考えています。
社会的インパクト・マネジメントの「WHAT」とは、そもそも社会的インパクトとは、それを目指すのはどういうことかを理解・確認することです。これについては、「社会的インパクト志向」をキーワードに、第1章で扱います。
では、社会的インパクト・マネジメントの「WHY」は何でしょうか。そもそも私たちは、なぜ社会的インパクトを目指す・目指すべきなのでしょうか。この問いに対して、SIMIでは、端的に、「社会的インパクト志向」で「社会的インパクト・マネジメント」を実践することが、よりよい社会の実現につながるからと考えます。
現代社会は、社会問題が複雑化し、しかも課題解決や新しい価値の提示が特定の人々(セクター、団体)に任せられない時代になっていると言えます。私たちは、一人ひとりが問題を生じさせる主体であり、問題解決の担い手です。よりよい社会、次世代やその次の世代が幸福を追求できる社会を希求する私たちに必要とされるのは、木を見てかつ森を見る、個別課題の改善と生態系全体の健全性を同時に確保しようとするような取り組みです。
国内外において、そのような難しい試みをやりくりする考え方、手法、ツールを多くの人や組織が編み出しています。社会的インパクト・マネジメントもまさにそういった考え方、手法、ツールを提供するものであり、SIMIがこれに注目するゆえんです。
本ガイドラインは、以下により構成されています。
<概論編> 1章 社会的インパクトについて考える 2章 社会的インパクト・マネジメントとは 3章 社会的インパクト・マネジメントの実践とは <実践編> 4章 インパクト・マネジメント・サイクルの回し方 5章 組織文化の醸成とガバナンスの構築 6章 社会的インパクト・マネジメントの実践ステップ |
2016年に創設されたSIMIでは、試行錯誤を繰り返し、多くの人々を巻き込みながら、社会的インパクト・マネジメントによっていかによりよい社会を構築することができるかという命題に取り組んでいます。本ガイドラインは、SIMIの取り組みの一端を示すものであり、SIMIでは、ガイドラインの活用や改善提案含め、この取り組みへの多くの人々への参画を求めています。