国内・海外の潮流日本国内における社会的インパクト・マネジメントやインパクト投資への理解の促進を目的に、
これらに関する国内外の動向や最新トピックを紹介しています。
インパクトの最前線で投資家は何を考える?〜IMPインパクト・フロンティアの試みから
(文:SIMI代表理事 今田克司)
「インパクト投資はムーブメントである」、というのがこの記事の結論です。日本国内の投資関係者の間で、インパクト投資に対する関心が高まりを見せていますが、この「インパクト投資はムーブメントである」というテーゼは十分理解されていないように見受けられます。
例えば、インパクト投資に関して世界の潮流を牽引しているグローバル・インパクト投資ネットワーク(GIIN, Global Impact Investing Network)は、2019年にインパクト投資の「4つの中核的特徴」を以下のようにまとめています。
インパクト投資を行う投資家は、
4つの中核的特徴 | 補足説明 |
---|---|
1. ポジティブな社会的・環境インパクトに意図をもって貢献する。 | 「意図」はインパクト投資を特徴づける最大の要素とされており、インパクトが派生するのみではインパクト投資とはみなされないことが強調されている。 |
2. 投資設計において、エビデンスとインパクトデータを活用する。 | 可能な限りエビデンスやデータを活用し、投資家の「勘」に頼らないこと。 |
3. インパクトの創出状況(インパクト・パフォーマンス)を管理する。 | インパクト投資が「意図」をもつということは、その「意図」を達成するためのマネジメントを行うことを意味する。具体的には、フィードバック・ループを活用すること、関係者にパフォーマンス情報を共有することなどを実践する。 |
4. インパクト投資の成長に貢献する。 | インパクト投資家は、それぞれがもつインパクト戦略、目標、パフォーマンスの叙述において共通言語や共通指標の開発に努める。加えて、社会的・環境的インパクトを生み出す経験則の普及のために、できる範囲で学びを共有する。 |
これは、インパクト投資が信頼に足る市場として育っていくために、GIINがこれから参入しようとする投資家への期待または参加要件としてまとめたものですが、特に4の「インパクト投資の成長に貢献する」に、ムーブメントのリーダーとしての思いが込められています。国内では、インパクト投資を「投資の一手法」として紹介する向きも多いですが、GIINが「4つの中核的特徴」に込めた思いは、手法(HOW)を考える前に、インパクト投資をなぜするのか(WHY)、どんなものに投資するのか(WHAT)から問いましょう、というものです。
インパクト投資がムーブメントであるということは、「ともに開発していく」ことを意味します。新しい試みであるからこそ、「やりながら考え、改善していく」という姿勢が大切で、すでに確立されたやり方をルールのごとく学ぶものではありません。しかし一方で、他の分野でも同様に、それが民間企業の営みの一部として行われれば、市場開拓での発見や開発した手法は新たな資金を生み出す「知的財産」になります。では、ムーブメントであることの「共有財」の要請と、「私的所有物」との折り合いをどうつければよいのでしょうか。
IMP(インパクト・マネジメント・プロジェクト)が2018年から始めたインパクト・フロンティアは、まさにこの課題に直面しました。「フロンティア(開拓者)」として取り組んだテーマが、財務的リターンと社会的環境的インパクトの統合という課題です。インパクト投資にとっての生命線とも言えるこのテーマにおいて、参加した投資家たちは、話し合いを「共有財」とすることができました。「その理由は?」の問いに対し、これをコーディネートしたマイク・マククレス氏は、秘密保持契約を参加した各企業と結んだことや議論をチャタムハウス・ルール(*1)で行ったことも大事だったが、参加者の間に高い信頼関係を築けたことが最大の成功要因だったと語りました(*2)。
インパクト・フロンティアでは、2020年に第一フェーズの成果物として、「インパクトと財務の統合:投資家のためのハンドブック(Impact-Financial Integration: A Handbook for Investors)を発表しました。このハンドブックに関しては、日本国内においても、2020年10月にGSG国内諮問委員会が解説オンラインセミナーを実施しています。ハンドブックの冒頭には、財務的リターンと社会的環境的インパクトを統合するというのは難題なのにもかかわらず、投資ファンドをやりくりする専門家たちは、それぞれの企業内で固有の用語やフレームワーク、データセットなどを使い、個社としての手法を開発しているという「孤立感」が記述されています。
インパクト・フロンティアは、そうした投資家の「お互いに学び合うことができたら…」というピアラーニングへの思いに応える仕掛けを提供したと言えるでしょう。インパクト投資を実践する投資企業ではなく、IMPというインパクト投資分野・業界のフィールド・ビルダーがその任を担ったことも大きかったのではないでしょうか。そして、マククレス氏が語ったように、そこに信頼関係が醸成され、その成果が、共有物であり公開物であるハンドブックとなったのです。
インパクト・フロンティア第一フェーズの参加企業
インパクト・フロンティアは、2021年にその第二フェーズを始動させています。第二フェーズの特徴は、インパクト投資家のピアラーニングを研修スタイルで拡大しようとしていること、もう一つの特徴は英米が中心だった参加企業をグローバルに広げようとしていることです。例えば、カナダでは、IMPとRally Assets がコーディネーター役に名乗りを上げています。そしてアジアでは、AVPN(Asia Venture Philanthropy Network)がまとめ役となり、Impact Frontiers Asiaを立ち上げ、3月30日に説明会を開催しました。日本も含め、インパクト投資を手がける、あるいはこれから手がけようと計画している多くの投資・金融機関の参加を募っています。
第二フェーズにおいても、ムーブメントであるインパクト投資のフロンティアをいかに開拓していくのかが問われます。インパクト・フロンティアの動きにはSIMIとしても協力し、日本の投資コミュニティの参画を促していきたいと考えています。
(*1)参加者は会議中に得た情報を外部で自由に引用・公開することができるが、その発言者を特定する情報は伏せるというルール。
(*2)GSG国内諮問委員会IMM(インパクト測定・マネジメント)ワーキンググループのヒアリングにおいて(2020年8月14日)。