国内・海外の潮流日本国内における社会的インパクト・マネジメントやインパクト投資への理解の促進を目的に、
これらに関する国内外の動向や最新トピックを紹介しています。

2022年11月15日

評価コミュニティを民間セクターの社会課題解決の動きへいざなう〜アメリカ評価学会2022年次大会登壇報告〜

(文:SIMI代表理事 今田克司)

「評価者は、金融や投資の世界で高まっているインパクトへの注目に対して貢献できる役割が大きい」。2022年11月9日から12日までの4日間、ニューオーリンズにてAEA(アメリカ評価学会)の年次大会が開かれた。今年の大会では、筆者も含め全体を通してこの大きなメッセージを米国の評価者コミュニティに対して発する機会となった。

アメリカ評価学会(AEA: American Evaluation Association)とは?

AEAは、約8000人の会員を抱える学術研究者と実践家が集う学会で、構成員の内訳は財団関係者、大学関係者、教育関係者、政府や国際機関の評価担当、非営利セクター・NGO関係者、評価コンサルタントなどと幅広く、最近は投資や金融と評価の接続を実践している民間セクターの関係者の参加も増えている。American Journal of Evaluation と、New Directions for Evaluation という2つの学会誌を持っており、会員の専門分野ごとのワーキンググループである60以上のTIG(Topical Interest Group=一覧はこちら)などを通じて活発な活動を行っている。

新型コロナウィルスの影響で、ここ2年間はオンラインで年次大会を開催しており、対面会議は2019年以来となった。年次大会にはいつも2000-3000人が参加するが、今回も2800人が参加した。今年の大会のセッション数は約550。プレナリー(全体会)は4セッション、あとは13の時間帯で並行セッションが行われ、それ以外にもポスター・セッション、最近本を出版した著者と直接話をするトーク・フェア、スポンサーテーブル、TIG紹介フェア、レセプション等、盛りだくさんの内容になっていた。

今年の大会の全体テーマは、「(re)shaping evaluation together(ともに評価を(再)構成する)」で、格差や分断がますます進む米国社会の中で、時代状況に適合した評価研究や評価実践がどのようなものかを問う姿勢が多くの評価者に見られるという現実に合わせたものとなっており、さらに社会が向かうべき方向をリードしていくコミュニティとして、評価の役割を互いに話し合い、提案し、実践を重ねていこうという趣旨で、多種多様なディスカッションの場が作られた。数年前から、CRE (Cultural Responsive Evaluation = 人種・民族マイノリティや経済格差で社会の周縁に追いやられている人々をいかにエンパワーする評価のあり方が可能か)に対する関心や実践に代表されるように、equity(公平性)が評価における大きなテーマであることが様々な分野で言われるようになってきている。

プレナリー・セッション「評価者の新しいフロンティア」

筆者は、2015年以来、AEAの会員で、年次大会にはオンライン会議も含め、毎年参加しているが、今回は、2日目のプレナリー・セッションで登壇した。セッションのタイトルはThe Next Frontier for Evaluators: Transforming the Capital Markets(評価者の新しいフロンティア:資本市場の変革に向けて)

 このプレナリーのメッセージは、35兆ドル規模とも言われるESG投資市場、そして1兆ドルにまで成長したと言われるインパクト投資市場で進む社会や環境分野のグローバル課題や地域課題の解決に向けた動きに対して、評価コミュニティが果たすべき役割は大きいという認識のもと、「評価者のみなさん、金融セクターで起こっている社会課題解決に向けた動きにもっと注目し、評価者の知見や経験を貢献していきましょう」というもの。現会長のヴェロニカ・オラザバルらが音頭をとってプレナリーとして仕立てていたが、AEAの会長は1年ごとに交代する仕組みで、年次大会も、会長の意向が反映する一面がある。ヴェロニカは、現在はBHP財団に勤めているが、最近までロックフェラー財団でインパクト投資を広める仕事に従事しており、SIM (Social Impact Measurement = 社会的インパクト測定) TIG の主要メンバーでもある。

金融と評価の橋渡しの試み

筆者は、このプレナリーで、2016年にAEA年次大会の関連イベントとして開催した Impact Convergence の会議に参加したこと、当時会長でこの会議を企画したジョン・ガルガーニをSIMIの Social Impact Day の基調講演者として2018年に招待したこと、2016年に立ち上がったSIM TIG のメンバーであることなどを自己紹介として話した(*)。そして、インパクトファイナンスの世界では、IMM(Impact Measurement and Management、インパクト測定・マネジメント)が主流化していること、IMMの普及には評価の視点の導入や評価者のインプットがあったこと、日本においても、金融セクターでIMMに対する関心が増大していることなどを紹介した。

金融セクターから見ると、評価者は「測定の専門家」と見られがちだが、この場に集った2800人にとって、評価とはもっと幅広く、奥深いものである。的確なニーズ分析、セオリー構築の重要性、ステークホルダーの巻き込み、システム思考、適応学習・評価キャパシティ構築など、評価コミュニティが金融セクターなど社会課題解決に向けて大きく動いている民間セクターへ提供できる知見や経験は大きい。筆者も、SIMIの社会的インパクト・マネジメント・ガイドラインを引くなどして、評価者の大きな役割は、「適切な質問を適切なタイミングですること」、「事実特定、価値判断、行動というインパクト・マネジメント・サイクルを俊敏に回していく支援をすること」などだと話した。

1時間という短い時間ではあったが、SIM TIG やこのテーマにおけるリーダー的存在であるジェイン・リースマンの進行のもと、Fair Food Networkのエリカ・オートン、国連開発計画(UNDP)SDGインパクトでIMMを担当するべリッサ・ロハス、グローバル・インパクト投資ネットワーク(GIIN)のリサ・グラスゴーとともに、AEAコミュニティに対する問題提起と、「評価を(再)構成する」ための新しいフロンティアへの招待ができたのではないかと思う。

(*) 他にもマイケル・クィン・パットンらに協力してもらって発展的評価の研修を日本で行いBlue Marble Evaluation を推進する一員としてブルー・マーブル・ジャパンを立ち上げたことや、日本評価学会の理事・研修委員長を務めていることなども自己紹介の中で触れた。

なお、有料ではありますが、プレナリーと一部のセッションは期間限定の録画視聴が可能となるはずです。ご興味おありの方は、以下のリンクのアップデートをご注目ください。
https://www.evaluationconference.org/Registration/Digital-Registration

11月9日のオープニングプレナリーの様子
11月9日のオープニングプレナリーの様子
筆者が登壇したプレナリーの様子、左からリサ・グラスゴー、べリッサ・ロハス、筆者、エリカ・オートン、ジェイン・リースマン

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