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Social Impact Day 2018 開催報告
社会的インパクト評価に関する国内外の最新動向が分かる「Social Impact Day 2018」が開催された。3年目を迎える2018年のテーマは「社会的インパクト・マネジメント」。本レポートでは、主に基調講演の内容とパネルディスカッションで共有された2つの実践例を取り上げる。
目次
- 開催概要
- Social Impact Day とは
- 各プログラム
- オープニング(小木曽 麻里氏)
- 基調講演(ジョン・ガルガーニ氏)
Reflection on Social Impact, Measurement & Management - 解説(源 由里子氏)
マネジメント・ツールとしての評価~評価とマネジメントの接近~ - 2017年度事業報告と2018年度事業計画
(社会的インパクト評価イニシアチブ) - パネルディスカッション
- Social Imapct Dayを終えて
開催概要
日時:2018年6月27日(水) 13:00 – 17:00
場所:笹川平和財団ビル (東京都港区虎ノ門1-15-16)
主催:社会的インパクト評価イニシアチブ、一般財団法人社会的投資推進財団
後援:公益財団法人笹川平和財団
助成:公益財団法人日本財団
Social Impact Day とは
Social Impact Dayとは、社会的インパクト評価に関する国内外の最新動向を発信する日本最大級のイベントであり今年で3回目を迎える。第1回目の2016年は産学官民連携で社会的インパクト評価を推進する社会的インパクト評価イニシアチブの設立を発表し、第2回目の2017年は日本における社会的インパクト評価の推進に向けたロードマップを公開した。そして2018年のSocial Impact Dayは、社会的インパクト評価をいかに事業のマネジメントに活用するか、世界的に注目され始めた概念である社会的インパクト・マネジメントがメインテーマとなった。
オープニング
会場は、例年どおり300名を超す参加者で満席となった。イベントの開会を宣言した笹川平和財団ジェンダーイノベーション事業グループ長の小木曽麻里氏はこれまでのSocial Impact Dayを振り返り、日本における社会的インパクト評価が着実に推進されてきたことを確認した。日本において評価理論を実践へ移す経験が数多く蓄積されてきたからこそ、私たちはマネジメントという新しい課題に直面している。どの分野においても理論と実践は両輪であるが、特に社会的インパクト評価の分野では対象や利害関係者の多様性から、現場における思考と判断が多く求められる。より良い社会を構築するために果たして何が出来るのか、参加者の真剣な眼差しが印象的だった。
基調講演
ジョン・ガルガーニ氏
Gargani + Company, Inc 代表 / 元全米評価学会会長
パラダイム
私たちは、新しいパラダイムに直面しているだろうか。一昔前の世界は営利を追求する組織と社会的インパクトを目指す組織に分かれていた。その後ハイブリッド型の組織が現れ始め、現在は金銭的リターンと社会的インパクトの両立を図るトレンドが生じつつある。マーケット(市場原理)の力を利用して社会問題を解決するこのトレンドは一過性か本物か、これから徐々に明らかになるだろう。いずれにせよ、私たちは、「マーケットは社会課題の解決に使える」という言明と、「マーケットは社会課題を生み出す元凶である」という言明の2つが、どちらとも正しいという認識を出発点として始める必要がある。
9つのゾーン
金銭的リターンと社会的インパクトの両者を追求する組織は3種類に集約される。
1.サービスやモノを通して社会的インパクトを生み出す組織
電気自動車を作るTesla Motors,竹を使って自転車を作るPedal Forwardは、このカテゴリにおける典型的組織である。また、低所得者ほど金銭的負担が軽減されるパキスタンの野戦病院も好例である。
2.バリューチェーンのコントロールによって社会的インパクトを生み出す組織
H&Mはアパレルの厳しい労働環境を改善するため高付加価値の有機綿花による生産を導入し、Essence Restaurantは地産地消により地域コミュニティとの関係性を構築している。またフェアトレードを行う組織は売上の一部を労働者に還元する。
3.投資によって社会的インパクトを生み出す組織
FidelityはESG投資により成長した代表的な投資会社である。またCalvert Impact Capitalは社会的事業と資本を結び付けるCommunity Investment Noteを開発した。Sonen Capitalも金銭的リターンと社会的インパクトの両者を追求している。
これら3種類の組織に対して、社会的-ハイブリッド-営利目的の3つの軸を考えることで、以下の9つのゾーニングが可能となる。各ゾーンの組み合わせにより、多様な事業モデルが考えられる。
このように9つのゾーンを置いてみることで、見えてくることがある。それはインパクト・マネジメントの考え方だ。通常、マネジメントは、事業単位・組織単位で考えるものであり、インパクト・マネジメントにおいても基本はそれで間違いない。しかし、9つのゾーンで考えることにより、組織を超えた社会的インパクトの必要性が自然に頭に入ってくる。単体の組織がゾーンのタテ、ヨコ、ナナメの部分でインパクトを出そうとしている多様な活動を見れば、そこになんらかのシナジーを求めようとするのは当然だからだ。さらに、そのインパクトの直接影響をうける人々の存在をいかにマネジメントで組み入れるかも、大きな課題として存在する。 ここで、評価のひとつの役割について考えてみたい。Evaluation Riskと呼べるものだが、これはどのタイプの組織においても内在している。例えば、Volkswagenの燃費・クリーン性に関する虚偽報告は記憶に新しく、H&Mの有機綿花導入の際に非有機メーカーの混在が明らかになったこともあった。フェアトレードに関しても、実際で主張されているような生産者の生活の向上が起こっていない、ということも報告されている。こういうことがなぜ生じるのか。それは、「これだけのインパクトが発生した」という主張は、実際に起こったインパクトより大きい、すなわち過大申告の危険性が常に存在しているからだ。これを「インパクト・マネジメントの第一の法則」と呼ぼう。 なぜこういうことになるのか。それは、マーケットにおいては、人々の売り買いは、実際に生み出されているインパクトでなく、「このぐらいのインパクトのもの」として認識され流通している価値(それが通常は貨幣価値になるのだが)によって成り立っているからだ。このリスクを上手に管理し、実際に生み出されているインパクトを大きくし、それを主張されているインパクトと乖離しないようにするためには、インパクト・マネジメント・サイクルを回しながら常に評価を続けることが重要である。
VALUES
社会的インパクトを考える前提として、価値に関するいくつかの言葉を整理したい。なお社会的インパクト評価に関する言葉は多様な定義があり複雑であるため、言葉の背景にある概念の理解こそ必要であるが、定義自体を目的化しないことが重要である。
<VALUES>
VALUESとは、個人の心の中にある多様な価値観の総体を指す言葉である。私たちは世の中を単に変えたいのではなく、より良くしたいと思う、その基礎にはこの価値観がある。ところが、物事が単純でないのは、私たちが目指すべき社会が、VALUESに従って、「一般的に」でなく、「平均値で」でもなく、 「みんなが」良いと考える社会だ、ということだ。では、「みんなが」良いと考える社会とは、簡単に同意できるものなのだろうか。<VALUE>と<VALUATION> VALUEとは、個々人が物事に付与する価値のことである。人は様々なものに固有の価値付けをする。価値の考え方にはいろいろあるが、特にこれを貨幣価値に換算する作業に、VALUATION という言葉がついている。問題は、価値の貨幣換算がうまくできるかで、人の物事に付与する内在的・個人的価値が、貨幣換算されて可視化される価値と一致するとは限らないし、さらにそれが比較されて「こっちの価値の方が大きい」と判断されることに問題はないのか、という命題に、本来は立ち返って考える必要がある。
<EVALUATION> そしてEVALUATIONとは、人々の多様なVALUESを可視化し、系統的に捉えて前進させる学術分野のことである 。
IcoとNico
ここで、双子の兄弟であるIcoとNicoの話を紹介したい。彼らの父親はある国の王様だった。兄弟は幼い頃から畑で働いていたが、二人が成人する頃に父親は他界し、Icoが王様になった。施政者としてのIcoは正しいことを行うという意識の下で、Nicoを畑で働かせ続け、Nicoの結婚に口出しをした。国には繁栄と平和が訪れたが、Nicoは幸せを感じていなかった。
この話は、良いこととは何か、幸せとは何か、誰が決定するのか、そして、良いことや幸せを誰が決めるのかという問いに対する示唆を与えてくれる。Icoとは、Investers, Customers and Ownersのことであり、Nicoは、Not Investers, Customers and Ownersである。Icoはマーケットが順調に機能していれば、世の中は順調だと考える。しかし、Ico は為政者である。そして、Nicoは幸福ではない。 もちろん、これは作り話だが、現実世界の傾向を表わしている。いまの現実世界は、Icoの考えが優先になる。それでよいのか。よくないのだとしたら、冒頭に提示したように、新しいパラダイムが必要なのである。
アダムスミスは、「自己利益追求の集合体として全体利益が達成される」という考え方を示した。この考え方が流通し、実践に移され、そしてそれがけっこううまく行った。マーケットの力が証明されたのだ。ところが、それがすべてではないという考え方も出てきて、これをひっくり返した考え方が出てきた。すなわち、「全体利益追求の結果として自己利益が達成される」という考え方である。ただし、アダムスミスの確立された理論に比べ、こちらはまだ推論の域を出ていない。
インパクトの500グラムの缶詰と社会的インパクト・マネジメント
私たちの行動は社会に何らかのインパクトを与える。社会にとって良いインパクトを与えることを論じるのは簡単であるが実践するのは難しい。どうすれば社会にとって良いインパクトを与えられるのか考える訓練が必要であり、そのためには専門家、しかも新しいタイプの専門家の支援が必要である。
なぜ新しいタイプの専門家が必要なのか。それは、現在の専門家は、ややもすると、インパクト(IMPACT)を単一のものと捉え、500グラムの缶詰にして売り買いできると考える傾向があるからだ。そこには、こっちの500グラムのインパクトとあっちの500グラムのインパクトは同じ、という想定がある。
これを防ぐためには、社会的インパクト・マネジメントを行う際に、インパクトを集合体(IMPACTS)として捉えることが重要である。そして、インパクトを集合体として捉えるためには、事業の結果として生じるすべての社会的インパクトに責任を持つインパクト・マネージャーの存在が必要である。
社会的インパクトの4つのゾーンよきインパクト・マネージャーを考えるために、社会的インパクトを4つのゾーンで考えてみたい。まず縦軸に「予期できる⇔予期できない」インパクトを置く。横軸に「好ましい⇔好ましくないインパクト」を置く。そして、事業や介入によって達成しようとしているインパクトは、このタテヨコの領域にまんべんなく存在している。
よきインパクト・マネージャーは、縦軸の予期されるインパクトをできるだけ下に伸ばしていくようなマネージャーのことである。多様なインパクトを予期するためには、特にインパクトが直接影響を与える人々の巻き込みと納得感の醸成が必要である。加えて特に批判的視点をもつ人々の意見を聞き、それらを評価プロセスに取り込むことが、予期されるインパクトの領域を広げる大事な作業となる。 横軸の「好ましい⇔好ましくないインパクト」については、ステークホルダー間の意見の隔たりが多い場合がよく見られる。そこで、よきインパクト・マネージャーの役割は、何が好ましいインパクトか、好ましくないインパクトを最小限に抑えるにはなにをすべきか、意見調整を行い、そこで関係者が納得できるような解を見出すことだ。 通常、インパクトを考える際には、事業や介入で、達成しようとしているインパクトがなにかを考える。これが「1」の領域だ。よきインパクト・マネージャーの役割は、「1」の領域だけでなく、「2」「3」「4」も含めたそれぞれの領域に応分の配慮と資源配分を行うことだ。これは簡単ではない。
3つの橋の建設社会的インパクト・マネジメントは画一的な方法で行えるものではなく、専門家や実践の蓄積も不十分である。私たちは様々な取り組みによって今私たちが住んでいる世界を次のステージへ進める必要がある。私は、これを3つの橋で考えている。一つ目の橋は「金融」の橋で、そこでは大体の技術ができている。二つ目の「評価」の橋はまだ建設途中だが、そこでもこれまでの蓄積で体系化がなされている。しかし、三つ目の「発明」の橋は、まだこれから作られるもので、これが必要だと考えている人も、投入されるべき資源も足りていない。本当に社会を変革し、パラダイムを変えて行くためには、この三つ目の橋をつくることに、労力を使って行かなければならない。
解説
「マネジメント・ツールとしての評価~評価とマネジメントの接近~」
社会を造っているのは誰か。それは、政府ではなく私たち市民である。ジョン・ガルガーニ氏は、民間資金や市民の協働によって社会が造られていく新しい時代の到来を再確認させてくれた。
評価とは社会的介入の成果を明らかにし、介入に対する価値判断を行うことである。評価を行うためには、事業者、行政、市民、投資家等の多くの関係者にとって共通した価値を議論することが必要になる。よって評価は多くの対話を必要とし、しばしば困難で複雑で多様なものとなる。
社会的インパクト評価イニシアチブは「インパクト志向」という考え方を公表した。種々の評価手法がこの「インパクト志向」の下でマネジメントに活用されることが重要である。
プログラム理論
プログラム理論とは、社会的介入の内容を体系的に整理するための方法論である。一般的には以下の5階層で構成されている。
- ・ニーズ評価:プログラムの実施により充足しようとする本質的ニーズを評価する
- ・セオリー評価:プログラムの設計自体がニーズを満たすための妥当性を評価する
- ・プロセス評価:プログラムが意図したとおりに実施されていることを評価する
- ・インパクト評価:プログラムの効果を評価する
- ・効率性評価:プログラムの効率性を評価する
社会的インパクト・マネジメントは、ニーズ評価やセオリー評価における関係者間での合意形成をベースとしている。そして、プログラムが実施されている現場の課題意識や暗黙知を可視化し共有することでニーズやプログラムの設計を見直し、事業の改善につなげることができる。 評価自体はマネジメントではなく、評価をツールとしてどう活用するのかが重要である。
事例紹介
プログラム評価研究所においてNIKEと児童健全育成推進財団の行った共同プログラムを紹介したい。このプログラムでは、複数の児童館の子供たちを対象として、集団による運動遊びが子供たちの健全な育成に寄与するという仮定の下で、勝敗を目的とするのではなく楽しく体を動かすことのインパクトを評価している。ニーズ自体は学術研究で多く指摘されているものの、運動遊びのプログラムはゼロから構築された。そして評価実施者はセオリー評価やプロセス評価の手法を用いて支援を行った。
セオリー評価においては、児童館のスタッフを含む多くの関係者が議論を重ねて、プログラムの設計を検討した。プロセス評価や直接アウトカムの評価はプログラム実施途中において行われ、得られた情報は適宜フィードバックされた。
この事例における評価の目的は、より効果的なプログラムの開発を行うことであり、このような評価を形成的評価と呼ぶ。今後は事業者自身によって評価が行われ、また評価結果がプログラムの改善だけでなくアカウンタビリティにも使われるなどの発展を期待したい。
展望
評価をマネジメント・ツールとして活用するためには、測りやすいインパクトに傾倒したり事業者の目的と資金提供者の価値観の祖語が生じた場合において、合意形成をいかに進めていけるかが課題となる。また定性的情報の定量化の可能性についても、関係者間の十分な議論による共通理解が必要である。
社会的事業の価値を問い、協働の場の共通言語として評価がある。そこから、イノベーションが促されるであろう。
2017年度事業報告・2018年度事業計画
(社会的インパクト評価イニシアチブ)
社会的インパクト評価イニシアチブ(以下、「SIMI」)は、2016年に設立され、2018年6月時点で151の団体が加盟する、社会的インパクト評価を推進・普及を目指すネットワークである。SIMIでは、2016年に作成されたロードマップに従って、7つのワーキンググループ(以下、「WG」)が活動している。
各WGの活動実績および今後の事業計画の詳細については、添付の資料を参照していただきたい。
パネルディスカッション
~実践例を通じて見る社会的インパクト・マネジメントの意義と課題~
登壇者
今田 克司氏 CSOネットワーク代表理事 / 日本NPOセンター 常務理事
工藤 七子氏 社会的投資推進財団 常務理事
島村 友紀氏 放課後NPOアフタースクール 事務局長
ジョン・ガルガーニ氏 Gargani + Company, Inc代表/元全米評価学会会長
これまでの議論を振り返って
これまでの議論を振り返り、工藤氏はステークホルダー間でインパクトを合意形成することの重要性を挙げた。自身の介護福祉事業での経験をもとに、ジョン氏や源氏がそれぞれ指摘した意図しないインパクトへの対応や事業者と資金提供者の視点の違いが合意形成の難しさの背景にあると語った。
島村氏は、社会的インパクトを単純な結果としてではなくマネジメントの対象として捉える視点を挙げ、ファイナンスやバリューチェーン等のプロセスごとにインパクトを最大化するという手法の革新性を指摘した。
社会的インパクト・マネジメントにおいては、誰のインパクトが最も重要で、それは誰が決めるのだろうか。ジョン氏は、「良い意思決定がなされたことはいつ分かるか」「誰にどの程度の権限を付与するべきなのか」という問いを投げかけ、その適切性の判断は状況によって異なるという点を指摘した。そして、この問題を解決するために有用なバリューマトリクスという方法を提示した。バリューマトリクスとは、まずステークホルダーを分類し、全てのステークホルダーが満足するプログラムを設計するという方法論である。
実践例1 ~日本ベンチャーフィランソロピー基金~(工藤氏)
ベンチャーフィランソロピーとは欧米で実践されている手法で、ベンチャー投資の手法でフィランソロピーを行うというものである。日本財団等の行う従来型の助成は主に事業に紐づいた資金提供であるが、ベンチャーフィランソロピーとは資金以外に組織そのものに対する経営まで含めた支援である。具体的には、組織の理事会や取締役会のメンバーに入り経営陣の在り方から議論する一方、組織運営の改善のためにミッション策定からマーケティングや広報といった各組織の個別のニーズに応じた支援も行っている。当基金はアウトリーチにより支援先を発掘し、組織形態に合わせて寄付・投資・融資等、複数の形式での支援を用意している。
この手法で特徴的なのは、社会性分析である。その中でロジックモデルを事業者と共に作り、社会的インパクトの合意形成を行っている。インパクト・マネジメントの視点では、社会的インパクトを事前に合意形成することが重要とされる。インパクト指標や測定方法が事前に決定されれば、その後のマネジメント・サイクルにおいても比較的容易にプログラムの改善に繋げられる。
今後は組織間のネットワークを構築する等、組織の枠を超えた成長というインパクトに繋げられるかどうかが課題である。組織間の協働を促し、社会的インパクト評価がどのように組織外の成長に貢献できるのか、事業モデルも含めて検討が必要である。
今田氏は、社会的インパクト評価ガイドラインにおいても計画段階の重要性が示されており、工藤氏の指摘と共通している点を補足した。
実践例2 ~放課後NPOアフタースクール~(島村氏)
NPO法人放課後NPOアフタースクールは、安心安全で思い切り遊べる放課後を児童に届けるために活動している。放課後は自由な時間である一方、不慮の事故に巻き込まれることも多く危険と隣り合わせの時間でもある。また現在の放課後では、児童にとって「時間」「空間」「仲間」という3つの「間」が失われており、その3つの「間」を改善し児童の放課後を救うことが当NPO法人のミッションである。児童の内面に目を向けると、ユニセフの調査では30%の児童が孤独を感じ、自らに価値があると思う児童は8%に留まる。放課後を利用した心の成長を目指しプログラムを提供している。
アフタースクールというプログラムでは、市民先生と呼ばれる地域の人材が多様な経験の機会を児童に提供している。児童が地域の大人や友人と関係性を作ることで、地域社会が子育てを行う仕組みを構築している。
日本ベンチャーフィランソロピー基金からの支援を受け、売上およびアフタースクール実施数は3年で約4倍に成長した。ロジックモデル作成時にはステークホルダーの洗い出しから時系列ごとのアウトカム、最終アウトカムの策定を行ったが、ステークホルダーを丁寧に検討することは児童や保護者に意識が偏ることを防ぐ効果がある。プログラムの参加者数等の定量的指標だけではなく、自己肯定感や意欲、社会性に対するアンケートを定性的指標として設定している。
社会的インパクト評価をマネジメントに活用した島村氏から、社会的インパクト・マネジメントにとっての3つの重要な指摘があった。
・一点目は、シンプルな数値設定、ビジョンとのつながりの意識、分析や対策を共に考えることなど、マネジメントを分かりやすく進める必要性だ。
・二点目は、モニタリングできる仕組みの構築である。定期的なモニタリングにおいて外部の視点が入ることは良い強制力となりガバナンスが機能する。
・三点目は、インパクトの最大化について考える際、社会にどれだけインパクトを与えたかというマクロ的観点と、目の前の児童がどう変わったかというミクロ的視点の必要性である。マクロはミクロの集積であるという意識を持つことは、現場のスタッフのモチベーションにとって特に重要である。
今後はロジックモデルの変化や、コレクティブインパクト、媒体掲載率などの新たな指標、企業との連携について課題意識を持っている。
今田氏は、いかにして次の事業に活かすかというマネジメントの視点、またロジックモデルに複数のステークホルダーの視点を検討していることが印象的であると指摘した。社会的インパクト・マネジメントは単一事業者が行うには限界があり、地域社会全体で進めていくことが重要である点は、2つの実践例に通底している。
ジョン氏は、社会的インパクト・マネジメントの基本的な課題であるインパクト・マネージャーの責務が、2つの実践例において現れていると指摘した。
インパクト志向のためにはロジックモデル周辺の理解を深化させること、またインパクト・マネージャーによる影響の大きさを認識することが重要である。マネージャーの責任範囲を明確にして、希望と責任とを表裏の関係で語ることが必要である。インパクト・マネージャーはインパクトに対してコミットすることが必要であり、ジョン氏は今回の実践例におけるその意識の高さを評価した。
ジョン氏の主張は資金提供者以外にも多くの関係者がインパクト志向というトレンドを作っていく必要があるというものである。対して工藤氏は、それでも資金の重要性は高いと指摘した。例えばSocial Impact Bondは、資金の力を利用してインパクト志向を醸成する仕組みである。資金という基準を持つことでステークホルダーの期待が明確になり、事業者のイノベーションが促される。事業者は社会的なミッションのために仕事をしており、ミッションが評価されれば事業者のインパクト志向はより強力になる。
島村氏は事業者の視点から、インパクト志向のためには同じインパクトを目指した別のステークホルダーがいるというモチベーションが重要と指摘した。同じ目的のもとで経済的リターンが生じることもあり、また社会に貢献できている実感や成長を実感する喜びという心理的リターンを得られることもある。このように各ステークホルダーが喜びを実感できる仕組みこそ、インパクト志向をより推し進めるツールとなるのではないだろうか。
定性的情報の有用性
ここで会場からジョン氏に対して、定性的なアウトカムの客観性の低さはどう克服できるか、という質問が挙がった。ジョン氏は、1940年以降の社会科学の領域においては記述という測定の手法を使用していることを指摘し、社会科学において定性的理解、記述、定量的理解により定性的理解がより深まるというサイクルがある以上、定性的・定量的情報は混在しており分離して考えることは難しいと答えた。
人間相手の領域である以上、少なからず主観性は残るが、主観性は必ずしも恣意的とは限らない。今田氏は、島村氏の実践例の中で現場のスタッフのモチベーションの評価がマネジメントに有効に活用された点を指摘し、主観性についても社会的インパクト評価に含まれると補足した。
終わりに
工藤氏は、コスト負担についての対応として、ツールセットの有用性を挙げた。知見の集積と共有により社会的インパクト・マネジメントのハードルの低下が期待できる。
島村氏は、事業拡大のフェーズにおいて経済的リターンへ意識が傾倒しがちであり、適正なバランスを保つために社会的インパクト・マネジメントが有用であることを説明した。
今田氏は、社会的インパクト・マネジメントの実践において、社会的インパクト・マネジメントが万能ではないという前提の共有は重要であり、そのうえで志向原則を共有しマネジメントの可能性を追求する姿勢が求められると指摘した。
最後にジョン氏は、マーケットは問題の原因でもあり解決の手法でもあることを再確認し、IcoがNicoを受け入れマーケットの可能性を広げていくことが重要であると語った。
Social Impact Day を終えて
Social Impact Day の二日後、基調講演者であるジョン・ガルガーニ氏に、SIMI(社会的インパク ト評価イニシアチブ)共同事務局メンバーの今田克司がインタビューを行いました。その内容はイベント冊子に掲載されておりますので、ぜひ手に取ってお確かめ下さい。
また、イベント冊子およびインタビュー(英語版)は下記からPDFでダウンロード可能です。
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