SIMIからのお知らせ
【コラム】Social Impact Day 2020 を終えて
(文:SIMI代表理事 今田克司)
社会的インパクト・マネジメントのWHYとHOWをいろんな角度から取り上げ、問いかけ、題材を提供してもらい、オープニングとクロージング含めて合計12のセッションで話し合った2日間(とその準備としてのプレセッション)。今回のSocial Impact Dayはそんなイベントでした。
2021年1月25日と26日の2日間、オンラインで開催されたSocial Impact Day はSIMIにとって5回目で、昨年10月に一般財団法人として法人化してからは初の大きなイベントで、登録者総数は635名(有料登録者230人、無料登録者367人、招待者38人)。これまでのSocial Impact Day が300名収容の国際会議場で行われていたことを考えると、その倍以上の参加者に入れ替わり立ち替わり参加してもらったことになります。
社会的インパクトマネジメントのWHY
なぜ私たちは社会的インパクト・マネジメントを学び、実践し、伝え合うのか。新型コロナウィルスが世界のありようを様変わりさせてしまってから1年。SIMIが問うたのは、
社会的インパクト・マネジメントは、
持続可能で公正な社会
多様な価値や生き方が尊重される社会
生きにくさを抱えた人々の尊厳が保障される社会
そんな未来の実現に寄与できるのでしょうか?
でした。
オープニング・セッションでは、SIMI評議員3名と私が自分たちの立ち位置について確認しました。そこで浮き彫りになったのは、「社会的インパクト」あるいは単に「インパクト」が世界の共通言語となりつつあること。インパクトを考えることが、上のような問いを考えるきっかけとなり、「そんな未来」へと歩みを進める方途になるかもしれない。この理解のもとで、オープニングで明らかになったことが3つありました。ひとつは、「インパクト」に注目しているのが特定のセクター、業種、分野に限らないこと。だからこそ、600名を超える参加者は、円グラフで示されているように、じつに多様な人々で、これはすなわち、インパクトのWHAT(なにがインパクトなのか?)の多様性を示すこととなりました。そしてインパクトのWHATが多様であるからこそ、共通言語といえども、言葉の違いは大きく、そこに介在するトランスレーションの仕事量が並大抵ではなく、その質を確保することは簡単ではないことがわかりました。
オープニングで明らかになった2つめは、答えを見つけるのを急いではいけないということ。グローバルなインパクトをめぐる潮流においても、現在進行形で試行錯誤が重層的に繰り返されており、2日間のイベントで簡単な答えを持ち帰れるような話題ではないということです。もちろん、一定の「答え」(大きな方向性や気をつけるべき勘所)は集まりつつあります。しかし、「そんな未来」を生み出す方程式はそんなに簡単に解けるものではなく、だからこそ、私たちのあるべき姿勢は「正解を与えてもらう」ではなく、「ともに解を探していく」というものであることが示されました。
そして3つめは、マネジメントに焦点が当たっているということ。まさに、SIMIでも経験した社会的インパクト評価から社会的インパクト・マネジメントへという流れと呼応するものですが、そこで大事になるのはプロセスに注目し、学び・改善に向けた不断の努力をしていくこと。そして、事業単位を捉え直し、関わるステークホルダーを広げていき、場合によっては複合的な取り組みの総体におけるマネジメントを考えていくことです。これは、社会課題が複雑に入り組んでいる現代的な課題への取り組みには、コレクティブ・インパクトやエコシステムの発想が必要だという昨今の知見と結びつくものです。
ジェッド・エマーソン氏の問題提起
というわけで、「HOWを問う前にWHYを問おう」で始まったSocial Impact Day ですが、WHYとHOWは同等に重要な問いだということがオープニングでの気づきでした。しかし、この2つを並べて置く前に、基調講演&ダイアローグ・セッションで、私たちはジェッド・エマーソン氏から強烈なWHYのパンチを食らうことになりました。
エマーソン氏は、現在の資本主義においては資本のもつポテンシャルの一部しか発揮されていないのではないか、「すべての資本にはインパクトがあるのでは?」と私たちに挑戦的な問いを投げかけました。最近耳にする「新しい資本主義」とは、決して新しい金融工学の話ではなく、価格と価値の誤差を根本から問い直し、現在の価格とは異なる価値を流通させる市場を構想するものなのではないか。彼が参加者に事前に観てほしいと言った2017年のSOCAPのスピーチで、エマーソン氏は時流となっているインパクト投資について、
むしろ金融資本主義に社会や経済の観点からの批判的切り込みがないこと、そして、普通に良いことをして行けば、私たちが良いことをし続けられる社会、世界中の人々が充実感と自己実現に満ちた人生を生きられる社会、すなわち公正で平等で自由な社会を作れるという幻想が生き続けることこそが課題なのです。
と言い切っていました。社会的インパクト・マネジメントのWHYの前に、そもそもインパクトのWHYを問いましょう。自分たちの生き方を根底から問い直す機会にしましょう。足元をぐらぐらさせる覚悟はありますか?
社会的インパクトマネジメントのHOW
くらくらとする頭で、WHYとHOWの2つの問いを並べて、1日目の午後になりました。そこからの1日半は、いかに私たちは社会的インパクト・マネジメントを実践しているのか、実践し得るのか、実際どうやっているのか、について、多様な題材をもとに学びました。日本国内の地域では(セッション2、セッション7)、アジアでは(セッション4、セッション7)、行政は(セッション8)、大きな企業は(セッション9)、社会企業は(セッション5)、いかにインパクトを定め、インパクト実現のロジックを構築し、指標を策定し、実際にデータを集め、測定し、報告しているのか。その限界や難点はどこにあり、それにどう対処しているのか、今後どう対処しようと考えているのか。
HOWに関しては、同時に、グローバルな最前線の知見の積み上げにこれまでどんな流れがあり(セッション5)、GIIN(Global Impact Investing Network)が開発したIRIS+ についての解説があり(セッション6)、今後の規範やフレームワーク、基準を誰がどう開発しようとしているのか、そこでの日本の企業や団体の立ち振る舞いの現状と期待についても話題提供がありました(セッション1、セッション3)。各セッションの報告については、今後、開催報告ページを作成しますのでぜひご覧ください。
クロージング・セッションでは、SIMI理事の5人が顔を揃え、SIMI評議員で社会変革推進財団(SIIF)の青柳さんとともに社会的インパクト・マネジメントの今後、そしてSIMIの今後について語りました。オープニングで、そしてセッションを通して何度も提起されていたように、この分野は、海図なき航海に近い船旅です。いや、海図は作られつつありますが、読みにくかったりわかりにくかったり。SIMIでは、「そんな未来」に向けて旅するために、海図の読み解きや作成に関わっていきたいと思います。そして、その作業に、みなさんの参加をお待ちしています。
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