Social Impact Day 2020
セッション3:『サステナビリティ情報開示を巡る国際動向 ー GRI・SASB・IIRC・CDP・CDSB整合化のゆくえ』
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スピーカー:
・森洋一氏(日本公認会計士協会 企業情報開示専門委員会 専門委員長)
・冨田秀実氏(ロイドレジスタージャパン株式会社代表取締役)
・磯貝友紀氏(PwC Japanグループ サステナビリティ・センター・オブ・エクセレンス テクニカル・リード、PwCあらた有限責任監査法人 パートナー)
モデレーター:
・水口剛(公立大学法人 高崎経済大学経済学部 教授)
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国際的な基準統一に向けて動き出したサステナビリティ情報開示
水口氏
環境や社会課題に関する測定や指標については、長い歴史がある。2000年にはGRI(グローバル・レポーティング・イニシアティブ)がマルチステークホルダーアプローチの観点から、環境・社会・経済に関する開示指標をまとめたガイドラインの第1版を発表した。IIRC(国際統合報告評議会)は2013年に統合報告に関するフレームワークを公表し、米国ではSASB(米国サステナビリティ会計基準審議会)が2013年から5年をかけて77業種に関して将来的な財務へのインパクトが高いESG項目のガイドラインを策定した。
そうした中で、2020年にはサステナビリティ情報開示基準の整合化を図る3つの大きな動きがあった。まずWEF(世界経済フォーラム)が報告書「ステークホルダー資本主義を測る」を発表し、21のコア指標と34の拡張指標を提唱した。続いてGRI、IIRC、SASB、さらに気候変動報告フレームワークのガイダンス開発に取り組むCDSB(気候変動開示基準委員会)と、気候変動や水、森林に関する企業の情報開示を評価するCDPのサステナビリティ情報開示の国際基準を作ってきた主要5団体が包括的企業報告に向けた協働ステートメントを発表した。そして最後に、IFRS財団(国際財務報告基準財団)が、傘下にある国際会計基準を策定したIASB(国際会計基準審議会)と並列で、SSB(国際サステナビリティ基準審議会)設置する提言を行い、パブリックコメントを募集した。さらにIIRCとSASBが合併して新たにValue Reporting Foundationを設立する動きもある。
背景にあるのは、年々資金量が増加するESG投資の潮流がある。民間で進むだけでなく、政府の関与も強まっている。欧州委員会は、包括的な経済戦略である欧州グリーン・ディールを推進しており、ファイナンスの領域ではサステナブルかどうかを判断するタクソノミーと呼ばれる分類基準を公表した。
森氏
私がパネルのメンバーとして参加するIIRCでも、一昨年の12月頃から今回の一連の動きに関する話が始まっていた。背景には、機関投資家から基準設定者側への強いプレッシャーがある。ESG投資の規模の増大に伴い、サステナビリティ情報開示の重要性が増し、企業の評価軸が曖昧であることに対するフラストレーションが大きくなってきていた。また産業政策の一部でもある、資本市場を変えることで経済・社会全体をサステナブルな方向にしていくという欧州の動向も大きい。
IFRS財団の提案については、大きくポイントが3つある。1点目はグローバルな基準の統一化。資本市場はグローバルで投資するものであり、グローバルで一貫性のあるものが必要ということでIFRS財団に要請が来た。2点目が開示基準の強化。これまでSASBが取り組んできた領域であり、KPI・指標を業種別も含めて具体的に示すことで、比較可能性を高めることが期待されている。そして3点目が、既存の基準との兼ね合い。パブリックコメントでは、既にあるサステナビリティ情報開示に関する基準を活かして、連続性のある形でまとめてほしいという要望が多くあった。
冨田氏
私からは5団体による協同ステートメントについて補足したい。企業情報の開示で混乱が生じている現状があり、核心にあるのがマテリアリティ(重要課題)の概念の捉え方の違いである。財務報告が主体の際は、投資家の判断に影響を与える項目がマテリアリティという定義であった。それが非財務情報開示の登場により、投資家以外のステークホルダーも考慮すべきという観点が登場した。マテリアリティの定義は各ガイドラインで様々であり、それが混乱を助長している側面がある。
そうした中で、非財務情報開示指針の改定に取り組む議論をしているEUが提示したのが、財務と環境・社会の二側面からマテリアリティを考える「ダブル・マテリアリティ」という概念である。気候変動が企業に与える機会とリスクについての分析と報告を求めるTCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)に代表される、環境・社会が企業の財務に影響を与える財務的マテリアリティの観点と、GRIなどに代表される社会のサステナビリティに焦点をあてた、企業が世の中に与えるインパクトの観点である環境・社会的マテリアリティの両面で捉えようというものである。
こうした考え方を踏まえて、現在協働ステートメントで提案されているのが「ダイナミック・マテリアリティ」である。概念としては報告内容を3層に分けて捉える。中心に財務会計に関する既存の報告があり、一番外側には経済や環境、社会に組織が与えるインパクトの大きさを踏まえた報告がある。中間には、組織の価値創造にとって重要なものが位置し、ここに何が来るかは、外側の枠にあったものが、トピックによって、時間をかけて、あるいは急速に中間に移り変わり、その関係性がダイナミックに変化していくと捉える。内側ほど投資家目線、外側ほどその他のステークホルダー目線での報告となる。
包括的な企業報告を実現する上では、財務、非財務を含めた企業の価値創造に資する部分(バリューレポーティング)と、社会に対するインパクトの部分(インパクトレポーティング)の二側面の関係性を、包括的かつ動的に捉えた上で情報開示をしていくということが求められていると言える。
磯貝氏
経営戦略にサステナビリティをどう組み込み、実行に移し、KPIを立てて見える化していくかは経営者の大きな関心ごととなっている。10年前はなぜそれが必要なのかというWhyが中心であったが、現在ではいかに組織に統合し、計測し、資源の選択と集中を行っていくかに関心が移っている。
サステナビリティは企業に事業を継続する上でのリスクと機会を突き付けるものであり、各社が自社の生き残り戦略をかけて、自社固有のKPIを設定し始めている。一方で国際的には規格整合化の流れが起きている。そうした社内外での流れの中で、企業側から出てきた1つの解がWEFの報告書であり、企業が本当に測るべきもの、開示するものについてのレコメンデーションであると捉えることができる。
IFRS財団に期待されること
森氏
IIRCを含む各組織が目指してきたのは、サステナビリティが企業情報開示や企業行動に組み込まれていくこと。メインストリームにいるIFRS財団が動くということは、目指す方向性を達する上でも必要な道のりである。ただ基準の内容や、策定に向けた体制やプロセスについては、既にあるものをしっかりと組み込みながら、財務報告だけでなく多様な分野の専門家を巻き込んで適切なガバナンスの下で作っていくことを求める声が多い。また、IIRCとSASBが合併を発表したが、組織統合も見据えて進めてほしいという要望も多く来ている。メンバーも含めて財務とESGの専門性の結合性を高めていくことが重要である。
冨田氏
内容に関しては、時間軸をどう見るかという点がある。統合には10〜20年かかり、ここ数年ですべてが綺麗に解決することは想像しにくい。IFRS財団も当面は気候変動に集約したシングルマテリアリティでいくと言っている。それ以外の課題についてはまだ集約されていかず、バリューとインパクトの両側面を包括してみるという観点からは、EUの非財務情報開示の動きやEUレベルでの人権に関する情報開示の法制化の動きに注目したい。
森氏
シングルマテリアリティでいいのか、気候ファーストだけでいいのか、というコメントも確かに多く見られた。インパクト投資を重視するトリオドス銀行が発表したレポートでは、トヨタとテスラを比較したときに、気候変動だけを見ればテスラだが、労働環境やガバナンスも密接に絡む中で総合的に判断するとトヨタであると結論づけた。やはりトータルで見る必要が投資家としてはあるということである。
磯貝氏
企業の立場からは、IFRS財団の方向性はウェルカムな動き。進んだ取り組みをしている経営者は、自社と社会へのインパクトの関係性について、閉じた輪になっており、長期的には社会に与えた影響が財務に戻ってくると捉えている。だからこそインパクトをコントロールする必要があり、そこに取り組まないと生き延びていけないという危機感を持っている。
日本企業・政府はどのように動けばいいか
森氏
今後数年間、国際的に規格整合化に向けた競争が起きていく中で、日本としても重要な指標や開示モデル、その前提となる開示やファイナスの枠組みについてのしっかりとした考え方がないと、国際交渉で弱い立場になってしまう。
水口氏
日本でも金融庁でサステナブルファイナンスの有識者会議がスタートし、私も参加している。日本としてのあり方を議論する中で一つポイントとなるのが、国際的な動きと整合性を保つ部分と、独自にやる部分とのバランスをどう考えるかという点だ。
冨田氏
市場はグローバルであることを考えると、基準もグローバルであるべき。ただしグローバル基準も地域によって解釈の違いが出てくることは当然であり、日本企業・政府としてそこをしっかり主張してルール形成に関与していくべき。日本はそうした部分が弱く、受け身になりがちである。ただ、共通の基準があることはもちろん必要だが、それだけで企業の価値やインパクトを測れるわけではない。
磯貝氏
私もそのコメントに賛同する。サステナビリティが経営にとって重要であり、投資家から見てもリターンに跳ね返ってくる時代がいよいよやってきた。そうした中で、横並びで比較できる基準の統一も大事。一方で、企業の究極の生き残り戦略をどう定めて実行し、それをどう投資家やステークホルダーにコミュニケーションしていくのかを各社が考えて行っていく。その両方のバランスを取ってやっていくことが大切である。
森氏
開示の規格は企業全体としての指標をどうしていくかという話。事業単位、プロジェクト単位では、経営や投資という実務の世界であり、そうした実務と規格の枠組みをどう結びつけて、経営判断のプロセスや投資構造にどう組み込んでいくかが、これからの経営のあり方として重要になってくる。
冨田氏
開示においては、規程演技の部分は絶対に必要。比較可能性が重要であり、精緻にしていく必要ある。しかしこれだけでは十分ではなく、自由演技にあたる部分は、企業理念や存在意義と照らし合わせてふさわしい開示になっているかを、各社が自分できちんと考えて、これが実態であるとステークホルダーに説得力を持ってコミュニケーションできるかが問われている。社会と企業の関係性を包括的に捉えて開示を行うことで、ステークホルダーの信頼を得て、それが企業の持続可能性にもつながる。そんな時代がいよいよ来た。
水口
インパクト・メジャメント&マネジメントとのつながりで言えば、IIRCは個別の指標ではなくビジョンやビジネスモデル、戦略の開示を提案している。GRIも個別指標だけではなく、どうそれを管理するかというマネジメントアプローチが重要という方向に動いている。インパクトとして具体的に指標化される前の部分が注目されており、どのような方向にどんなリスクを取って動こうとしているのか、指標で測れない部分を見ていくことが必要である。本日のテーマは重要な議論であり、今後も進展をウォッチしていってほしい。
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