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【取り組み事例】東の食の会

東日本大震災の直後から、東北の生産者や加工業者と共に活動を行ってきた「一般社団法人東の食の会」。
事務局代表の高橋大就氏に、活動と社会的インパクト・マネジメントについて、お話しを伺いました。

■カテゴリ

事業分野食、中間支援
事業開始年2011年
組織形態一般社団法人
組織規模10名

■基本情報

事業名称
実施地域東北、および東京が中心
事業概要東日本の食の復興と創造を長期的に促進すると同時に、自然と共存し森羅万象から感じとる豊かな感性に基づいた日本の食文化を育み、世界に誇れるブランドとして確立するため、以下の3機能を担っている。

1.東日本の生産者のマーケティング機能、及び食関連企業とのマッチング・プラットフォーム機能
2.食に関する新しい事業を創造していくインキュベーション機能
3.日本の食の安全・安心を世界に伝え、日本の食文化を世界と繋ぐコミュニケーション戦略も含めたシンクタンク機能
運営団体一般社団法人東の食の会
事業URLhttps://www.higashi-no-shoku-no-kai.jp/

■社会的インパクト・マネジメントの概要

はじめたきっかけ立ち上げ段階から流通総額200億円という目標を掲げていた。当初から目標を掲げていたので、それに向けたマネジメントをするようになった。
実践内容•日ごろのマネジメントは企業と同様に売上高等のKPIを月次で把握し、それ以外はアクション(タスク)を週次で管理している。
•定量的に測れない場合でも、インパクトを出すためのアクションを行うことを重視している。
取り組んでよかったこと•マッチングや流通総額だけを追い求めるだけでは限界があり、東北発のブランドをつくらなくてはならないと分かった。いまは、生産者にとって本質的な支援になるよう取り組めている。
•人材育成とネットワークは、参加者のリピート率以外に、リーダーとして視座を高められるよう、地域間や職業の壁を超えるように意識し場をつくれるようになった。
今後の課題•非営利組織のマネジメントにおいては、事業やメンバーの評価が困難。定量的に測れるものがないと、主観的な評価や議論になりがちになる。
•人材育成については定量化しにくいが、定量化できなくても、地域の未来をつくっていくような、長期的なインパクトを出すことにこだわって取り組んでいきたい。
資料URL2018年度_東の食の会_年次活動報告書
https://www.higashi-no-shoku-no-kai.jp/wp-content/uploads/b5725c2216b4f84e1174188d1d8a3261.pdf

社会的インパクト・マネジメントの取り組みインタビュー

一般社団法人東の食の会
事務局代表 高橋 大就 氏
1、社会的インパクト・マネジメントを当初から掲げて事業をはじめたのはなぜですか?

 東日本大震災が起きた後、加工場や港の被災や風評被害などにより、東北の生産者、加工業者の取引がなくなってしまいました。そこで2011年に東の食の会を設立し、当初から東北の生産者と首都圏の食品小売、外食企業等とのマッチング、商談会などを通じて流通総額200億円を生み出すとの定量目標を掲げて活動を行ってきました。

 流通総額200億円は何かを積み上げて考えた数字ということではなく、意味のあるインパクトから決めた数字です。支援をする対象は「食産業」と決めていたので、経営目標としても定量化しやすいものにしました。当初は食産業同士のマッチングをしていくことで、売り上げをつくり、ビジネスをつくっていく、という流通の部分を意識していました。ですが活動をしているうちに、マッチングをしているだけでは根本的な解決はしないということが分かってきました。東北から新しい価値を作っていかないといけないと思うようになり、2016年以降のインパクト目標を「東北から食のブランドをどんどん生み出す」ことに変更しました。

2、どのように、事業のマネジメント・評価をしているのですか?

 東の食の会と岩手缶詰、岩手県産の3社でつくったオリジナル鯖缶「サヴァ缶」は、流通総額でいうとシリーズ累計30億円を超えました。この規模になると、日頃のマネジメントは企業の事業マネジメント(ビジネス的なKPIマネジメント)のような感じになっています。

 

 ブランドをつくるというのは年単位の目標値になってしまうので、月単位で追いかけている指標は売上高です。ただし、全て単純に売上をモニタリングすれば良いということではないので、本質的に東北の食産業の復興ためにどうしたらいいかを日々、悩みながらやっています。

 普段、売上等のKPI管理はグーグル・スプレッドシートでしていて、月次で確認しています。週次ではアクション(タスク管理)を確認しています。

 他に、「ブランド」をつくるために、毎年「東の食のブランド・アワード」を開催しています。表彰をすることで、そのブランド・事業者から他の事業者が学んだり、触発されたりするようにという意味と、事務局としても、毎年定量評価をすることで事業内容を振り返るきっかけやKPIを達成する動機づけにしています。ただし、マネジメントというレベルでの管理までできていません。表彰したブランドの1つを例にあげると、「MIGAKI ICHIGO」は、まさにローカルブランド的にはなってきています。海外への輸出もしています、まだ世界的には誰もが知っているというレベルではない状態です。そういったブランドが複数ある状態にはなったと思っています。

 人材育成・研修事業の評価に関しては、プログラムの参加人数や新規参加率、リピート率などを見ています。人材育成については、数値目標が大事ではなく、その結果として生産者と首都圏側の食品関連企業を含めたネットワークがつくられていくことが大事だと思っています。

 一般的には食の業界は、サプライチェーン(生産から消費者まで届く物流システム)が長く、生産者から仲買、卸、加工、流通、小売・飲食業者、と分断されています。それぞれの枠を超えて対話をすることはほとんど無く、むしろ薄い利益を取り合う対立構造にあります。そこで私たちはあえて参加者をゴチャゴチャにすることで、地域横断のプロジェクトができたり、新しいネットワークができたりするよう、意識しています。それが、東北の食産業にインパクトを与えていると思っています。

3、定量化が難しい部分については、どのようにインパクトを測ろうとしていますか?

 社会的に良いミッションや目標を掲げている団体は、往々にして自己満足に陥りがちです。しかし、インパクトが大事なので、それを定量的に測れなくても、インパクトに繋がるためにアクションをするというロジックで「アクションKPI」というものを設定しています。例えばメディアに生産者を何回露出できたか、何社とコンタクトしたか、などの項目を週単位で追っています。

 インパクトは定量的な部分だけでなく、定性的な部分も大事なところがあると思っています。特に、人材育成については定量しにくく、そういったところの評価・マネジメントは難しいです。

 人の変化や成長など、定量化は本当に難しいですが、それができなくても明らかに変化が分かる部分もあります。例えば、参加者の発言や視点、行動の内容が変わっていくのがはっきり分かりることがあります。自分のことを中心に話していた人も、次第に地域の中で連携をしだしたり、新しい事業をつくったりしはじめ、地域の未来のこと本気で語りだしていると、変わったなと思います。

 このような状態にするために、あえて普通であれば分断されている地域的・業界的・官民の壁なども壊すよう意識的に取り組んでいます。例えば他県の人がプログラムに参加したり、行政や官僚の人を特別扱いしなかったりします。これが良い結果に繋がっていると感じています。

4、課題や今後の展望について教えてください。

 企業であれば売上など同じ数字を見て議論できるのですが、NPOは事業評価やメンバーの評価が難しいです。定量的に測れるものがないと、主観的な評価や議論になりがちで、何かあった時に、ファクトベースでなく、感情の対立になってしまい、正しいのか、間違っているのかという話になってしまいがちです。この辺りは、いろいろと改善していきたいです。

 いま東北の食産業からすごいリーダーがでてきていて、そこにインパクトを感じています。リーダーが東北からでてきていることのほうが、流通云々より、地域の未来をつくっていくような、長期的な価値(インパクト)に結びついていくと思っています。定量化できなくても、結果を出すことにこだわって取り組んでいきたいです。

 

インタビュー実施日:2020年5月1日
インタビュイー  :一般社団法人東の食の会
          事務局代表 高橋大就氏
インタビュワー  :株式会社ユニアス 山中資久
          ケイスリー株式会社 熱田瑞希
          EY新日本有限責任監査法人 高木麻美

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