Social Impact Day 2020
セッション1:『SDG Impact〜SDGs達成にむけた社会的インパクトの役割〜』(詳細記事)
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スピーカー:
・渋澤健(コモンズ投信株式会社取締役会長、一般財団法人社会的インパクト・マネジメント・イニシアチブ評議員)
モデレーター:
・今田 克司(一般財団法人社会的インパクト・マネジメント・イニシアチブ代表理事、株式会社ブルー・マーブル・ジャパン 代表取締役)
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SDG Impact〜SDGs達成にむけた社会的インパクトの役割〜
今田
本題に入る前に、基調講演の議論の中で、日本には「三方よし」の考え方があり、日本なりの会社のあり方、資本主義のあり方を踏まえて考えていくべきという話が出ていました。是非渋澤さんに聞いてみたいのですが、この点についてはどのようにお考えですか?
渋澤氏
日本の資本主義の父と言われている渋澤栄一は、資本主義ではなく「合本主義」という言葉を使いました。「合本」とは2冊以上の本を合わせて1冊の本を作ることで、価値を作る要素を合わせていくイメージです。今注目されているステークホルダー資本主義は、様々なステークホルダーに対する役割を果たして、その結果として企業の価値を作るという点で、合本とつながる考え方ですよね。ステークホルダー資本主義という考え方は、日本の資本主義が立ち上がった今から150年ぐらい前からあるとも言えます。
日本でよく言われる「三方よし」については、メジャメント(測定)という文脈で考えたときに、「売り手」は売上や儲けなどの観点から測ることができ、「買い手」も自分たちのことなので把握しやすいはずです。ただ「社会」は何を持って「社会よし」と言っているのかが欠けているのではないでしょうか。「三方よし」の考え方でやってきたで終わらせず、「三方のメジャメントができています」という点まで提示できることが大切だと思います。
今田
「社会よし」の社会とは何で、それはどう測るのかという点は、まさにインパクト・メジャメントやインパクト・マネジメントで問われているということですね。
SDGsに関する認証制度「SDG Impact」
今田
ゲストの渋澤さんは、UNDPが開発中のSDGsに関する認証制度であるSDG Impactの運営委員会に日本を代表して参加しています。初めに私からSDG Impactについて簡単に説明します。
SDG Impactが目指すビジョンは「すべての資金がSDGs達成のために使われる世界」、ミッションは「投資家と企業がSDGsに貢献できる方途とツールを提供する」です。
SDG Impactは3本柱となっています。1つ目が投資判断のための基準や認証を提供するImpact Managementで、主な使い手としてSDG債券の発行者、プライベート・エクイティ・ファンドマネジャー、企業、その他にも営利・非営利の事業者、投資家、アナリスト、コンサルタント、中間支援等の方々も想定しています。その他に資金の流れが検索できるオンラインプラットフォームをつくるImpact Intelligence、そして投資家フォーラムや政策対話など協働を加速するためのImpact Facilitationがあります。
Impact Managementの中で策定が進んでいるものの一つに、投資判断の基準となるSDG Impact Standardがあります。特徴は基準が「パフォーマンス」や「レポーティング」についてではなく、「実践」に焦点をあてている点で、実践のベストプラクティスを示したり、各種ある国際基準のギャップを埋めたりということを目指しています。また策定にあたっては、IMP(Impact management project)の考え方の活用や、マテリアリティやステークホルダーエンゲージメントとの連携を強調している点も特徴です。
SDG Impact Standardには3種類あります。1つ目が非上場の投資家向けのプライベート・エクイティ、2つ目が債券、そして最後が事業者で、これは大手・中小・ベンチャーといった規模や上場・未上場、地域、非営利団体といったセクターを問わず、あらゆる種類の事業者が対象です。いずれも①戦略②マネジメント・アプローチ③透明性④ガバナンスの4つの構成要素からなります。
特にインパクト・マネジメントについて強調して書かれているのが、②マネジメント・アプローチの部分ですが、構成要素の①に戦略がきており、ここでは持続可能な開発とSDGsの達成への積極的な貢献をすることを掲げているかどうかが問われています。これまでのセッションや、他のインパクト・マネジメントのアプローチでも重要と指摘されている、何をインパクトと考え、何を達成しようとするのか、そしてそれはなぜなのか、HOWよりもまずWHYとWHATという点と共通しています。
渋澤氏
私が運営委員に参加してショックだったのは、日本は国内ではSDGsに一生懸命取り組んでいるにもかかわらず、グローバルの会議では存在感が全くなかったことでした。議論の中で「SDGsは西洋諸国の押し付けではなく、アジアでも同じ思想がありますよね」という話になった時に、中国やタイの名前は出ても日本は出てこないんです。私が参加した段階ではすでにプライベート・エクイティの議論がほぼ終わっていて、日本の意見は全く反映されていませんでした。債権の議論が始まった頃だったのでそこに私も意見をインプットし、さらに最後の事業者では、多くの日本の方々にこの動きについて知ってもらうべく、UNDP駐日事務所とSIMIと連携して2020年に2回イベントを開催しました。
日本はSDGs達成に向けて真摯に取り組んでいるのですが、グローバルでのインパクトがなく、SDGsもガラパゴス化しているのではないか、と懸念しています。重要なのは「グローカル」。グローバルの文脈の上で、どうやってローカルに落とし、ローカルの大事なことをいかにグローバルに反映できるか。それがすごく大事です。
SDG Impactのポイントは「プリンシプルベース」
今田
SDG Impactの目玉は、SDGsとインパクトを掛け合わせた点だと思います。SDG Impactに取り組むことで、SDGsを達成できるようなインパクトを生みだす事業運営ができるとお感じですか?
渋澤氏
SDG Impactのポイントは、ルールベースではなくプリンシプルベースであるという点です。ルールベースであれば、ある意味チェックリストのようなものなので、企業であればサステナビリティ部門で完結する話です。しかし大切なのは、4つの構成要素のうちの①の戦略、すなわち「WHY」の部分です。SDGsを実践することが企業の存在意義と融合されているかが、最初に来る。これに答えるには、一部署でできず、トップのコミットメントが不可欠です。WHYとはまさにパーパスですよね。ちょうどコロナ禍で自社の存在意義が企業に問われていますが、その一つの答えとして、「私たちは世界でこのような役割を果たしている」という点について、企業理念との接続を確認し、宣言することがとても大事です。
今田
「ルールベースではなく、プリンシプルベース。チェックリストではないからハードルが高い」という点とつながりますが、SDG Impact Standardは「実践」の基準であり、ここまでやれば合格ということを示すパフォーマンスの基準ではないため理解しにくいという声が日本では聞かれます。また企業の方に「これをやってどういうメリットがあるの?認証が取れるの?」ともよく聞かれます。
渋澤氏
私が伝えたいのは、企業価値を高めるという観点から是非取り組んでほしいという点です。着手にあたっては、企業が発行する統合報告書で、SDG Impactのプリンシプルを表現することから始めるのがよいのではないでしょうか。4つの構成要素は、まさに統合報告書のフォーマットであるとも言えます。統合報告書でSDGsに言及している企業も多いですが、単なるラベリングから、そろそろ「達成するために、何をしているのか」というインパクト・メジャメントの世界にシフトするタイミングだと思います。
社会的インパクト投資の父として知られるロナルド・コーエン氏が、「ESGの次の流れが始まっている」ということを言っています。今のESGは企業の非財務的価値の情報開示だが、次はインパクトのメジャメントが問われてくると。現在の会計制度は、米国の大恐慌というショックを機に、企業の透明性を高める必要があるということでスタートしました。今では企業活動における当然の基準として導入されていますが、当時は多くの企業がそんなことは難しいと反対していたそうです。現在、会計制度に企業のインパクトを表現するという研究が始まっています。新型コロナウイルス感染症というショックも起きています。何十年か後には、同じように「当時は・・・」と現在を振り返ることになるかもしれません。
純資産に対する株価の価値を示すPBRは、1.0を超えて企業が財務的に表現する価値より高くなると、企業の将来性があると判断されます。財務的価値とは過去の活動の評価であり、将来の活動の可能性というのは、非財務的価値の中にあると捉えることができます。日本企業はこのPBRが低いということが言われていますが、この非財務的価値の部分を、環境・社会的インパクトとして価値を生んでいると表現し、資本市場と対話することができれば、万年割安になっていた日本の株式市場の評価を高めることができる可能性があります。SDG Impactに取り組むことで、単純に認証を得るというHowだけでなく、自社が資本市場や社会から評価されて価値が高まるというWhyの次元で是非考えてほしいです。
SDGs、SDG Impactを新たな世界を広げるためのツールに
今田
将来性の部分が資本市場の中できちんと評価されるものになっていくという流れの中で、しっかりと準備ができている企業が生き残るということですね。営利企業以外の、寄付や助成金などを資金源としているソーシャルセクターはどのように考えればよいですか?
渋澤氏
企業価値を事業価値と言い換えても良いのです。未来性のある事業に助成・寄付すれば、こうした成果がある、という可能性を寄付・助成市場で対話できれば、当然潤沢な活動資金を得ることにつながります。ただ規模が小さく、そこにリソースを割くことができない団体もあると思います。インパクト投資でも同じことが言われていますが、インパクト・メジャメントがそもそもの仕事になってはいけない、組織にメリットにならなければ、数字を拾うことは建設的ではないかもしれません。
全てやる必要があるわけではなく、できるところから始めるのが良いです。どこからならメジャメントできるのかという視点を持ち、事業に組み込む習慣をつけていくことが大事です。そうすることで、年次レポートで何の事業でどれくらいのインパクトが出すことができたので、来期はもっと資金を増やしてみよう、という対話につながると思います。
今田
できることから始めるということと、マネジメントの中に組み込むことが大事ですね。最後にSDG Impactの今後の見通しについて教えていただけますか。
渋澤氏
昨年10月時点の情報ですが、2〜3月には、事業者の最終案がまとめられる予定です。認証については6月頃を目処に、UNDPとDuke大学が連携して、認証機関向けの研修プログラムを始めると聞きました。最終的にスタートするのは早くても今年の年末頃ではないでしょうか。企業としては、現在制作中の統合レポートの進行と並行して準備を進めておくと、制度が本格的に動き始めたときにすぐに申請ができるようになるはず。
SDG Impactがどれくらい広がるか現時点ではわかりませんが、仮に多くの日本企業から申請があれば、世界に日本の取り組みを伝えることができます。さらにプリンシプルベースなので、核心を抑えて対応していけば企業価値を高めることにつながり、取り組みが無駄になることはないと思います。
注意が必要なのは、「UNDPのSDG Impact」であるため、いかに企業の資金を新興国・途上国の開発に回すことができるかという考えが根底にある点です。ただ、国内のみで事業を展開している企業だとしても、関係ないで終わらせず、SDGsの精神である「誰一人取り残さない」の観点に立って見る範囲を広げて考えていただきたいです。それによって、新たな視点が芽生えてくる可能性があるからです。企業がSDGsやSDG Impactに取り組むべき最大のポイントは、今何ができるか、できないかではなく、こういう世界を見たいのだと思考すること、そして思考する過程で、新たな視点が芽生えることだと思っています。
ソーシャルセクターも企業も「私はこういう未来を見たい!」という熱量がすごく大事です。このようなイベントを通じて、熱量が色々なところへ広がっていくことを期待しています。
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