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【取り組み事例】株式会社御祓川

■カテゴリ

事業分野地域活性化
事業開始年平成11年6月23日
組織形態株式会社
組織規模正社員 4名、パート1名、非常勤社員 2名、副業契約社員 2名 
インターン生 2名(2021年10月現在)

■基本情報

事業名称能登チャレンジコミュニティ化に向けた「ローカルビジネスラボ~TANOMOSHI」
実施地域石川県奥能登地域
事業概要2019年度休眠預金等活用制度により、石川県能登半島に主な拠点をおく地元金融機関「興能信用金庫」と、七尾市にてまちづくり活動を担う「株式会社御祓川」が連携で事務局となり、1期1年として地元企業4社に対する事業創業・発展のための多角的なコーディネート支援を2年間実施するもの。

具体的には、奥能登地域の企業(事業者)を選抜し、様々な実験的取り組みにチャレンジできるアクセラレーション・プログラムとして「ローカルビジネスラボ~TANOMOSHI」を興能信用金庫とともに実施・運営している。助成期間終了後は本事業協力者である興能信用金庫が創業・中間支援的な役割を担い、地域で自律的に運営される仕組みの開発・構築を目指す。
運営団体株式会社御祓川および興能信用金庫
事業URLhttps://tanomoshi.net/

■社会的インパクト・マネジメントの概要

はじめたきっかけ隣接する地域である奥能登の信用金庫から「奥能登にまちづくり会社を作りたい」という相談を受け、地域の事業者支援を通じた中間支援機能のノウハウ移転に挑戦するために、2019年度休眠預金等活用事業の採択事業のひとつ、「地域活性化ソーシャルビジネス成長支援事業〜インパクトが持続的に創出されるエコシステム形成〜」(資金分配団体:一般財団法人 社会変革推進財団)に申請し、採択されたことが事業のきっかけ。
実践内容休眠預金制度を活用し、①地域の金融機関の「中間支援力の向上」、②地域の事業者のチャレンジ推進 の2点を実施。この2つの事業を推進する際に社会的インパクト・マネジメントを実践している。
取り組んでよかったこと社会的インパクト評価は、自社内部のみで評価をするのではなく、ステークホルダーとも協働しながら行うため、事業が当初の目的から外れることや、諦めてしまうことを防ぐことに繋がっている。
今後の課題プログラムに参加する事業者の休眠預金事業終了後の出口戦略を描くこと。
同様の取り組みを行う他地域の団体と連携すること。

社会的インパクト・マネジメントの取り組みインタビュー

1、このTANOMOSHIというプログラムは、奥能登地域の企業(事業者)を選抜し、様々な実験的取り組みにチャレンジできるアクセラレーション・プログラムですが、興能信用金庫と連携し、信金が奥能登の中間支援組織となる第一歩のプログラムとも言えます。信金と連携し、奥能登に中間支援組織を作ろうと思ったのはどのような経緯からですか。

(森山)

私たち株式会社御祓川は、2007年に発生した能登半島地震以降、七尾市を中心に能登の中間支援機能を強化する取り組みを民間まちづくり会社として行ってきました。その取り組みに注目した興能信用金庫さんが「奥能登にも中間支援機能が必要」と私たちに相談に来たのが始まりでした。興能信金が当初想定していたのは、地域外に売れる商品づくりができる企業のサポートや地域外の人材の誘致をする、まちづくり会社としてのノウハウ移転だったのかもしれません。ただ「奥能登の企業が持続可能な状態になること」を理想とされていたので、こちらが一方的に企業を支援するのではなく、興能信金を支援するので、興能信金自身が自立的に中間支援機能を発揮できるようになりませんかと逆提案をしたのです。

(佐久)

御祓川もまちづくり会社として、主に七尾市、能登地域の企業や団体に対して中間支援機能を果たしていますが、私たちもリソースが無尽蔵にある訳ではありません。そのため、一般企業が、中間支援団体がいない地域において中間支援的な機能を果たせるようになることを支援したいと思っています。特に一次産業の多い地域においては、企業が自組織の事業を促進していけば促進していくほど、地域貢献に繋がります。今回の取り組みの第二の柱としては、地域金融機関が中間支援機能を果たせるようになり、地域の各事業者の事業を促進できるようになるという点も重視しています。

TANOMOSHIプログラムの事業実施体制。奥能登の各市町村から1事業者が参画し、興能信金職員が主となりその事業者の支援を行う。御祓川は興能信金職員をサポートしながら事業者の事業推進を支援。

2、地域金融の中間支援組織化は他地域においても非常に重要なテーマだと感じます。この場合、地域の金融機関が「どの程度、中間支援力をそなえることが出来たか」という点が評価のポイントになると思いますが、具体的にはどのような評価を行っていますか。評価結果の事業へのフィードバック方法も併せて教えてください。

(森山)

元々、地域コーディネーターを育成するための評価システムを他地域と協働で作成していましたので、それを活用しています。具体的には、「地域コーディネーター」に必要な資質やスキルを要素分解し、レベル1~5までの5段階で各レベルの定義づけや評価の観点を整理した表を使用して、信金職員の自己評価、上司の評価、御祓川の評価の3者間での評価を実施します。その内容を元に本人や上司とともに議論しながら、信金が中間支援力を高めていけるよう、伴走支援を行っています。

信金側は、当初はこのやり方に対して懐疑的な面がありました。ただ、「まずはやってみましょう」と提案し、始めたところ、少しずつ職員の成長が見られています。最終的には奥能登の事業者の支援が出来るようになることが目標ではありますが、支援者(信金職員)を育てながら奥能登事業者も支援しているという構造で評価を活用しながら進めています。

(佐久)

もう一つ、信金にとってこの仕組みが良い結果に繋がっているポイントとしては、地域支援という数字に表れにくい支援の成果が可視化できる可能性が見えてきたことです。信金の中において営業部だと具体的な数値成果が表れますが、本事業のカウンターパートである地域支援部はその価値が組織内でも直接的に認知されにくい状態で、一般的なの融資金額で成果を測られる金融機関の評価システムの中では評価をされにくい位置づけでした。しかし、この評価の仕組みを取り入れることで、信金の外部や、信金上層部に対して自分たちの活動の成果を説明できるようになりまました。

3、これまでは、御祓川が支援する興能信金との評価の取り組みを中心にお伺いしました。次に、このTANOMOSHIプログラムに採択されている事業者も含めた全体の振り返りはどのように実施していますか?

(森山)

興能信金とは、3か月に一度、評価の場を設けています。上司などに評価を事前につけてもらい、それを元に面談を行っています。支援対象である信金や企業、外部評価者の活動を含む私たちの事業については、本プログラムの資金提供団体である社会変革推進財団からのインタビューとアンケートを中心とした評価を受けました。

(佐久)

他には、興能信金や御祓川、支援先企業や社会変革推進財団も入った定例ミーティングを月1回開いています。定例会後には毎回アンケートを取っており、そのアンケート結果を見ながらどのような変化が起こっているかということが把握できるようにしています。さらには、御祓川の内部コーディネーターは毎週ミーティングを行っています。そこは、PDCAを回す上での事業の戦略会議として機能していますが、最初に描いたロジックモデルがPDCAを回す軸となっていると感じています。

本プログラムに参画する里山まるごとホテル、興能信金、御祓川、社会変革推進財団が一堂に会し、記者発表を行った時の様子。
4、社会的インパクト評価、マネジメントに取り組んでみて、どのような活用の可能性や課題があると感じますか。

(森山)

これまでお話したとおり、私たちは「評価」だけを切り出して実施しているのではなく、「伴走支援」とセットで活用しています。通常の事業を実施する際にも「私たちはどこに向かっていて、現在地はどこなのか」という事業の立ち位置の確認は行いますが、評価としてこの作業を行う場合の一番大きな違いは、この作業の中に外部の視点が組み込まれるかという点です。この外部の視点が組み込まれることで、事業が目指してきた道から外れることを防ぎ、また困難に出合った際に諦めてしまうことを防ぐ効果があると感じています。

課題としては、「評価」という言葉へのネガティブなイメージが先行している点です。例えば、興能信用金庫に対してコーディネーター評価制度を提案した際には、「人事評価」のようなイメージがあったため、若干の抵抗感が見られました。自分で自分のことを評価する自己評価ではなく、第三者から評価される「他者評価」は、評価されなかった点について「組織、事業として改善すべき点がある」という受け取り方ではなく、「自分が批判されている」ような感覚を持ったり、またスキルの不足を指摘されているにも関わらず、それがまるで自己が否定されているように感じてしまう、自己と組織やスキルの同一化が起こりやすく、感情的、評価に対する反発心を持ちやすい要因だと感じています。

そこで、こうした先行イメージを払拭するために、「評価をすることでより良い事業運営、成果に繋がる」という立ち位置の確立が重要でした。実行してみると「やって良かった」という感想になるのですが、まずは始めるまでの抵抗感を払拭するための働きかけが必要だと思います。

この仕組みは、全基礎自治体に導入してほしいです(笑)。そうすれば、税金も正しく使われますし、その地域に住む市民や多様なステークホルダーが地域に関わって、自分たちの地域に対して今、何が出来るか?という視点で考え始めると思います。コレクティブ・インパクトを実施する場にこの評価、マネジメントの手法が用いられると加速していくのではないでしょうか。今のペーパーワーク中心の評価ではなく、社会的インパクト・”マネジメント”をするのが重要だと感じています。

インタビュー実施日: 2021年10月15日
インタビュイー  : 株式会社御祓川 代表取締役 森山 奈美様、
能登ローカルビジネスラボ総合ディレクター 佐久志歩様
インタビュワー  : EY新日本有限責任監査法人 高木麻美
           一般財団法人社会的インパクト・マネジメント・イニシアチブ 伊藤枝里子

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