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【取り組み事例】チャンス・フォー・チルドレン

チャンス・フォー・チルドレンは、家庭の経済格差による子どもの教育格差を解消し、貧困の世代間連鎖を断ち切ることを目的として、経済的な困難を抱える子どもたちに塾や習い事、体験活動等で利用できるスタディクーポンを提供しています。

代表理事の今井 悠介氏に社会的インパクト・マネジメントの取り組みについて、お話しを伺いました。

■カテゴリ

事業分野教育
事業開始年2009年
組織形態公益社団法人
組織規模22名(常勤役員・常勤職員・アルバイト)
ボランティア約70名

■基本情報

事業名称低所得世帯の子どもへのスタディクーポン提供事業
実施地域岩手県、宮城県、福島県、大阪府、兵庫県、他全国多数地域
事業概要経済的な困難を抱える子どもたちに対して、学習塾や習い事、体験活動等で利用できるスタディクーポンを提供。大学生ボランティアが電話や面談を通じて学習や進路の相談にのるとともに、クーポンの利用に関するアドバイスを行う。
運営団体公益財団法人チャンス・フォー・チルドレン
事業URLhttps://cfc.or.jp/

■社会的インパクト・マネジメントの概要

はじめたきっかけ・学校外教育に対するバウチャー制度について、専門家に訊ねたところ、資金提供者に対する説明責任の必要性について問われ、それが腑に落ちたこと
実践内容・事業が学力に及ぼす影響については外部有識者に効果検証を依頼し、業務の中で収集できるクーポン利用率や満足度は自分たちで把握し、事業の改善に活用
・把握したデータを自治体の政策提言への活用、寄付者への報告
取り組んでよかったこと・寄付者への説明責任
・事業改善への活用
今後の課題・施策の効果を測るための自治体からのデータ取得
資料URL・「学校外教育バウチャーが子どもの学業成績および行動面のアウトカムに与える影響:ランダム化実験に基づく実証研究」赤林英夫(慶應義塾大学経済学部教授)ほか
・「東日本大震災被災地における学校外教育バウチャーの効果測定:回帰不連続デザインに基づく分析」小林庸平(三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社)
・「渋谷スタディクーポン事業最終評価報告書」岩田千亜紀(東洋大学社会学部助教)

社会的インパクト・マネジメントの取り組みインタビュー

©Natsuki Yasuda

1、社会的インパクト・マネジメントをはじめたのはなぜですか?

 元々2011年に慶應義塾大学経済学部教授の赤林英夫先生に会ったのかきっかけです。学校外教育に対するバウチャー制度について、赤林先生がご専門なので色々話をうかがいました。その際に、資金提供者に対する説明責任を赤林先生に問われました。社会的な事業は熱い気持ちで始めるけれども、冷静に事業を見極めるということも大事だというご指摘でした。それが腑に落ちたということもあり、事業を改善し続けるという意味でも、効果検証をするに至りました。

 当初から、この事業を社会全体としてのインフラとしていきたいという構想がありましたので、効果検証をして事業を改善し、良いモデルとして展開したいと思っています。また、受益者からお金をもらっているサービスではないので、利益額で評価できるわけではありません。寄付者がいて、受益者がいるという関係なので、寄付者の方に伝えていくことが大事だと考えています。

2、社会的インパクト・マネジメントとして、具体的には何をしているのですか?

 事業の効果検証と、普段のモニタリングの2つの側面があります。

 最初は、受益者に許可をもらってデータをとり、それを赤林先生に渡して外部評価をしてもらいました。他に、三菱UFJリサーチ&コンサルティングに依頼して、同じデータを使って検証をしてもらっています。これらは事業が学力に及ぼす影響に関する効果の検証です。学力については、自分たちで分析するのが大変ですので、何年かに1回専門家の方にまとめてみてもらっています。

 一方、日々の業務では自分たちでデータを集めています。進路、クーポン利用率、学生面談の満足度は利用者から直接聞くことができます。それらのデータは自分たちで取り続けています。

3、どのような体制で評価を実施しているのですか?

 学力に対する影響については、外部有識者が調査研究を実施しています。日々のモニタリングについては、事務局業務としてアンケートを取るということをしています。事業開始当時からアンケートを設計・実施しており、既に業務オペレーションに入っています。データはエクセルで管理し、利用率はセールス・フォースに入るようになっています。

4、社会的インパクト・マネジメントを実施して、どのような良いことがありましたか?

 学力に関しては、寄付者に対する報告会で学力への効果検証の結果を報告しました。それに対して、寄付者からは、インパクト評価をすることにより、「まじめに事業に向き合っていることが感じられる」というコメントがありました。一方、データに興味がある人とない人がいることが分かりました。また、学力だけでないところ、例えば、意欲や、非認知的スキルなどにも着目してほしいという意見がありました。学力指標が前面に出ることで、我々が学力だけを重視していると見られてしまうという側面もあるようです。

 日々のモニタリングは事業の改善に活用しています。クーポン利用率については、個人の利用率を何%にするかということを目指しており、利用率は月ごとに把握、学年別に分析しています。学生ボランティアやコーディネーター(職員)がそれらのデータを参照しながら子どもと学習塾等とのコーディネート業務を行っています。

 学生ボランティアやコーディネーター(職員)は、子どもたちがどんな教育機関でクーポンを利用するのかという相談に応じ、支援します。クーポン利用先教育事業者は、子どものリクエストに応じて団体から依頼をかけ、随時登録する仕組みです。教育事業者のリクエスト成約率(利用者のリクエストに対する、教育事業者の成約率)が、クーポン利用率に大きく影響します。そのため、リクエスト成約率を確認しています。子どもたちがより良い学習や体験の機会を得られるようにするためには、子どもたちが望むような良い教育事業者に出会うことが必要だというのが、リクエスト成約率を確認している背景です。他にも、クーポンや利用満足度も把握しています。

 既存オペレーションの中にデータ収集やモニタリングが入っています。各種データを取っているのは、事業EIP(Evidence Informed Practice)が大事だと考えているためです。分からないことがあることを分かっていることが必要です。

 自治体に制度として導入ほしいということもあり、効果検証のデータは政策提言に使うこともあります。

5、今後の課題は何ですか?

 施策の効果を測るのであれば、自治体のデータを使いたいと思っています。ただ、自治体が研究向けにデータを開示してくれるのかという問題があります。クーポンを使っていない子供たちの学力データを公表してくれればありがたいと思っています。今現在は、できる範囲で取れるところは取ろうとしています。例えば、非認知能力のデータも調べたいです。

 データを出してくれるところにリソースが集まってくるようになれば、自治体ももっとデータを出してくれるのではないでしょうか。課題が見つかるのは良いことだというふうに認識を変えていくことが必要だと思います。

インタビュー実施日: 2019年10月1日
インタビュイー  : 公益財団法人チャンス・フォー・チルドレン
           代表理事 今井 悠介様
インタビュワー  : EY新日本有限責任監査法人 高木麻美

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