5章 組織文化の醸成とガバナンスの構築

 社会的インパクト向上のスパイラルを発展させていくためには、その事業や取り組みを実現するための組織のキャパシティの向上が必要になります。具体的には「組織文化の醸成」と「ガバナンスの構築・整備」です。事業と組織は車の両輪の関係であり、事業上の意思決定をより迅速に、効果的に行っていくためには、組織面を強化する視点が不可欠です。本ガイドラインでは、組織面の視点のうち、組織文化の醸成とガバナンスの構築の考え方を紹介します。

1節:組織文化の醸成

1.組織文化とは

 組織文化に統一的な定義はありませんが、「組織の個々の構成員の価値観が行動規範・判断規範として融合され形成されたもので、組織の中で共有化されていくもの」などと定義されています(出所:グロービス経営大学院『MBA用語集』)。組織文化の機能として、図表11に示すように「判断や行動の指針」、「情報伝達の簡素化」、「個人の動機づけ」などがあると言われています。

 なお『両利きの組織をつくる』(英治出版)[1]では、組織文化の醸成について、以下のように紹介されています。組織文化は組織内に具体的に現れる行動パターンであり、仕事の姿勢・進め方であり、マネジメントの対象であり、競争力の源泉であるということがわかります。

  • 組織文化は、組織の風土・雰囲気といった抽象的なものではなく、組織内で観察される特有の「行動パターン」(Pattern of Behaviors)のことであり、それらの行動を規定している「組織規範」(Norm)を反映している。(p.55)
  • 組織文化(書籍では、「組織カルチャー」と表現)は、組織内で想定されている(期待されている)仕事のやり方であり、仕事に対する姿勢のことである。(p.282)
  • 組織文化(書籍では、「組織カルチャー」と表現)は、組織に埋め込まれていて変えられないものではなく、経営者がその気になれば変えることができる(manageable)ものであり、組織カルチャーこそが最も真似されにくい競争力の源泉となる。(p.282)

 社会的インパクト・マネジメントにおける組織文化は、意図する社会的インパクトを拡大していくために、一組織の構成員間のみならず、当該組織や事業のステークホルダーとも共有されていくものを想定しています。


[1] 加藤雅則、チャールズ・A・オライリー、ウリケ・シェーデ(2020)『両利きの組織をつくる 大企業病を打破する「攻めと守りの経営」』(英治出版)

図表11:組織文化の機能

(出所:グロービスMBAマネジメント・ブックの内容をもとにSIMIで作成)

2.なぜ、組織文化が重要か

 図表11に示した通り、よい組織文化が醸成されると、組織の構成員に物事の判断と行動の指針を与えたり、組織内の情報伝達がスムーズになるというメリットにつながります。そのため、スピード感を持った意思決定や事業推進をすることに役立ちます。

 さらに社会的な事業や取り組みを行う組織においては、組織文化をインパクト志向に転換して、それを組織の内外のステークホルダーと適切に共有していくことも求められます。なぜならば、一般的に社会的な事業や取り組みは、受益者や資金提供者、協働先組織など、関わるステークホルダーが広がるため、そういったステークホルダーと課題意識や創出を目指す社会的インパクトの共有、相互理解が事業推進上不可欠だからです。インパクト・マネジメント・サイクルを発展させていくためには、組織文化をステークホルダーに対して適切に伝えて拡張させていくこと、また協働先組織など他団体の組織文化に対する理解を深めていくことが求められると言えるでしょう。

3.組織文化醸成のポイント

 インパクト・マネジメント・サイクルを適切に機能させるためには、団体スタッフや関係者がインパクト志向をもち、インパクト・マネジメントについての知識・理解を定着させ、事業実施においてこれを常に意識化する仕掛けが必要となります。    

 以下は、英国におけるInspiring Impactに紹介されているインパクト・マネジメント実践のための組織文化の要諦です。事業者が組織単位で持つべき「知識・理解」、「意識・態度」、「行動」についての内容が示されています。組織開発の中に、これらを浸透・習慣化させるための仕掛けや仕組みを入れていくことが推奨されます。

知識・理解・事業ミッションとミッション達成への道のりを十分な理解する
・事業における明確なインパクト・マネジメントの重要性を理解する
・事業担当者のインパクト・マネジメントにおける自らの役割を理解する
・事業担当者が自らの役割を的確に実施できる能力をもつ
意識態度・インパクト・マネジメントを通した事業の向上を信じ、取り組む
・ミッション達成のためには結果に応じての変化や適応をいとわない
・どのようにすれば事業が達成されるか、より改善されるかに関心を持ち、想像すること、
変革することを意識する
・学んだことを他者と共有する ・失敗を非難せず受け入れる
行動・改善方法を常に探求する
・質の高い、公平なデータを収集・活用する
・結果と学びを誠実に、明白に共有する
・結果について定期的に議論する
・常に事象を事業対象者・受益者、ユーザー目線で見るように努める
・学びの結果として事業を変更する

 より良い組織文化     を醸成していくための参考     として、本章関連コラムで「組織能力の構築と学習する組織」と「評価のキャバシティ・ビルディング」の考え方を紹介します。どちらも、組織が持つべき「知識・理解」、「意識・態度」、「行動」を改善・向上させるためのヒントが満載です。

関連コラム
組織能力の構築と学習する組織
評価のキャバシティ・ビルディング(ECB)

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