5章 組織文化の醸成とガバナンスの構築

2節 ガバナンスの構築

1.組織のガバナンスとは

 社会的インパクト・マネジメントを志向する組織文化を醸成する上で重要になるのが、ガバナンスの仕組みです。ガバナンスは、統治・支配・管理監督という狭義の意味にとどまらず、「組織の全体としての方向性、有効性、監督機能、説明責任が果たされるようにするためのシステムやプロセス」(『非営利組織のガバナンス』(英治出版)[1]p.8)などの定義のように、より広義の意味として捉えることが実効性を高めると考えられます。

 ガバナンスを構築・整備することは、組織のビジョン・ミッションを実現するための持続的な経営体制や意思決定プロセスを実現することにつながります。


[1] リチャード・P・チェイト、ウィリアム・P・ライアン、バーバラ・E・テイラー、訳者 山本未生/一般社団法人WIT『非営利組織のガバナンス 3つのモードを使いこなす理事会』(英治出版)

2.組織ガバナンス構築上の留意点

 社会的な事業や取り組みを行う組織は、社会の中で公益を追求する器と言えるでしょう。組織がミッションに基づいた役割を果たしたり、社会的インパクトの創出・向上をしていくためには、この器を強く大きくしていくこと、すなわちガバナンスの構築・整備が重要です。特に非営利組織であれば、個人や企業等が支援を考える時には、団体が取り組んでいる社会課題や活動内容に注目し、寄付やボランティアなどを行うかどうかを検討します。その上で実際に支援を行う際には、その団体が信頼できるかどうかが大事なポイントになります。同様に、社会的インパクトを重視する資金提供者にとっては、資金提供先の事業が生み出す社会的インパクトだけでなく、それを生み出す母体である組織のガバナンスのチェックと改善のための働きかけを行います。このように、社会に対して価値を創出する責任を持つ組織として、他者からの信頼を獲得するためにも、法令遵守などの「守りのガバナンス」を実現することは不可欠でしょう。一方で、社会的インパクトを生み出していくのであれば、事業アイディアの創出や実行、積極的な改善ができるような組織体制を整備するという「攻めのガバナンス」を実現することも求められます。特に、インパクト・マネジメント・サイクルを回していく上では、成果とリスクを認識、可視化し、サイクルを回していく上での合意形成をどのように行っていくのか、事業者内の意思決定機構で協議することが大切です。このように、社会的インパクトの継続的な創出と改善、他者から信頼を獲得するためにも組織ガバナンスの構築・整備が重要と言えます。

3.ガバナンス構築・整備の検討ポイント

 以下に、インパクト・マネジメント・サイクルを回していく上で有用となるガバナンス構築・整備の検討ポイントを示します。

・社会的インパクトの向上のためには、事業対象者・受益者やその他の利害関係者が団体を運営している、理事になっている、正式な形で戦略策定に関わっているなど、団体のガバナンスに事業から直接影響を受ける人々を代表できるような人がなんらかの形で参加していることが望ましいです。

・外部伴走者は、関係者間で協議する際のアドバイスや、協議に参加するステークホルダーの選定、組織文化の確立・醸成の方策へのアドバイスや協力を必要に応じて行えるよう人材を確保します。

・新団体を創設する場合は、創設者やコアメンバーは、団体創設時より、社会的インパクト・マネジメントを志向する組織文化の確立、醸成のために重要な役割を担います。理事や経営層に、社会的インパクトを生み出すことへの意欲と理解がある人材が存在するかどうかで、組織文化形成のあり方が決定的に違ってきます。

 参考までに、Social Value International(以下、SVI)が開発した、Social Value Management Certificate(SVMC、社会的インパクト・マネジメントの認証制度)[1]を紹介します。SVMCおいては能力構築(Creating Capacity)という項目があり、、そこでは、以下のような観点を持って組織能力、特にガバナンスのあり方を向上させていくことが要件として提示されています。以下に一例を示します(和訳はSIMIによるもの。SVIのSocial Value Managementを、近しい意味であることから、便宜上「社会的インパクト・マネジメント」と訳している)。

・社会的インパクト・マネジメントを組織の実践と意思決定に組み込むために、理事会レベルやすべてのレベルのスタッフの能力開発のための計画を策定する。(Social Value Management Certificate  1.CC.1)

・社会的インパクト・マネジメントを実装するためのリーダー(責任者)を特定し、組織全体から代表者を集めたワーキンググループ/委員会/会議体等を作ることで、社会的インパクト・マネジメントに対する組織のコミットメントを生み出し、役員レベルで報告する。(Social Value Management Certificate  1.CC.2)


[1]https://socialvalueint.org/assurance/the-social-value-certificate/

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