6章 社会的インパクト・マネジメントの実践ステップ

Step 5: 事業実施とモニタリング(第2ステージ:実行)

計画した事業を実施します。実施にあたっては、事業は計画どおり実施されたか、事業による結果(アウトプット)は出ているかを確認するプロセス管理・モニタリングを行います。併せて、実施体制は適切か、アウトプットの生成に影響を与えた貢献・阻害要因の検討も行います。

 効果的なモニタリングには、計画に沿った事業全体の工程管理、予算管理に加え、データの収集・蓄積に努めます。

 Step6においてアウトカム等に関するデータ分析について、Step7においてデータ分析結果を踏まえた事業や取り組みの効果や改善点を検討しますが、これを実施するためには事業のアウトカムのみならず、事業の実施状況が適切にモニタリングされていることが必要です。基本的に、このStep5とStep6はほぼ同時並行で実施すると考えてください。

 Step6の段階になって、事業や取り組みで狙っていたアウトカム創出が達成されなかったことに気が付いたとして、それまでの事業や取り組みの実施状況が全くわからない状況であるならば、「今後、事業・取り組みの何をどう改善すれば良いのか」という事業改善のための重要な問いに答えることができなくなります。

 一方で、事業の実施状況が適切・丁寧にモニタリングされていれば、事業のアウトカムが達成されていない原因がどこにあったのかを検討することができます。例えば、Rossi et al. (2005) は、ある事業について、意図したアウトカムが得られない状況を判断する基準として、①事業が意図した通りに実施されていないことが原因である「実施上の失敗 (implementation failure) 」と、②そもそも事業戦略(ロジック)が誤っている(事業を意図した通りに実施しても期待した成果を得ることができない)ことが原因である「理論上の失敗(theory failure)」の2つを挙げています。

 事業改善にあたって①の場合は「どうすれば意図した通りに事業を実施することができるか」という対策を、②の場合は「どうすればアウトカムを達成できる事業戦略(ロジック)をつくることができるのか」という対策を検討する必要があります。このような検討を可能にするためには、やはり、事業・取り組みの実施状況を適切・丁寧にモニタリングすることが必要なのです。

意思決定の視点評価の視点
【目的】
・事業が順調に進捗しているかどうかを判断する。なお、必要に応じて事業戦略や事業計画を見直す。

【作業例】
①事業・取り組みが「事業計画書」の通りに実施されているのかをモニタリングする。また、モニタリング・評価が「評価計画書」のとおりに実施されているかを確認する(問題が生じていれば改善する)。
②右側(評価の視点)から得た情報によって深刻な問題が生じていることが明らかになった場合、どう対応するかを検討する。
③検討の結果、事業計画や事業戦略の見直しが必要と判断した場合は、前のStepに戻り、事業の計画や設計を見直す。

【目的】
・事業の状況(プロセス・アウトカム)をモニタリング・評価し、順調に進捗しているかを検証する。

【作業例】
①評価計画書にそって、事業の実施状況(プロセス)及び成果の達成状況(アウトカム)をモニタリング・評価する。
②事業の実施状況(プロセス)や成果の達成状況(アウトカム)に問題が生じたら、それが深刻な程度かどうかを判断する。
③モニタリング過多になってしまい、事業担当者が疲弊してしまう場合もあるので、事前に決めたモニタリングが単に「作業をこなす」ものにならないようにする。
④「プロセス管理」は、事業の監督者が担当者を統制するものではなく、担当者がノウハウの蓄積のために自発的に行うようにする。

図表18:実践 Step5 事業実施とモニタリングのポイント

実践のヒント
  • 他団体や他事業との連携・協働を進めている場合は、データ収集においても連携・協働し、作業の効率化を図る。
参考:モニタリングと評価について
【モニタリングとは】
 モニタリングとは「監視・観察」のことで、主には事業の実施状況(プロセス)や成果の達成状況(アウトカム)に関する特定の指標を継続的に「監視・観察」することを通して、事業がどのように進捗しているかを確認する作業のことを意味します。

【評価とは】
 一方で、事業の進捗状況をところどころで評価するというのは上記の「モニタリング」とは若干意味合いが違います。前述の通り、評価は「事実特定+価値判断」という定義づけられるものであるため、事業プロセスを評価するとはすなわち「事業は問題なく進捗している(あるいはしていない)」と判断すること、または「どのような問題が生じているのか」「特に成果の達成(アウトカム)に影響を及ぼしている要因は何か」を検証することを意味しています。
 つまり事業進捗の最中に「事業の妥当性を問う行為(事業改善のための行為)」を「事業プロセスの評価」ということができるでしょう。

【モニタリング及び評価のポイント】
モニタリングの視点(主に定量データ)
・KPI(アウトプット&アウトカム)

プロセス評価の視点(場合によっては定性データ)
・事業がうまく進捗していない要因(何か社会状況に変化は生じていないか、スタッフの事業に対する取組み態度は十分か、など)
・事業がとてもうまくいっている要因(うまく進捗していない要因とほぼ同様)
 これら「プロセス評価」の結果、ロジックモデル等の事業戦略を見直す必要が生じるかもしれません。

社会的インパクト・マネジメント原則の留意点

a. ステークホルダーの参加・協働【意思決定の視点】評価計画にしたがって、データ収集において適切な協力・参加をしてもらう際、なぜそのタイミングでそのデータを集めておく必要があるかなど、内部での納得感がつくられるようにするとともに、ステークホルダーが参加の意味を理解して参加できるようにする。
【評価の視点】評価計画にしたがって、データ収集において適切な協力・参加をしてもらう。
c.  信頼性【評価の視点】評価計画にしたがって、データ収集を信頼に足る方法によって行うことを含め、適切なモニタリング計画を立てる。
【評価の視点】事業実施中のデータ収集の際は、データの信頼性に留意し、事前に計画された方法にのっとって収集を実施する。
d. 透明性【評価の視点】データ収集が正確かつ誠実になされたことを事後的に検証したり報告したりできるようにするため、データ収集のプロセスを記録し、開示を準備する。
f. 状況適応性【意思決定の視点】事業や取り組みの実施は、外部環境の変化や内部体制の変化に応じて、柔軟に調整、場合によっては変更を行う。
【評価の視点】事業や取り組みの実施の際、計画や戦略の変更の妥当性を検証できるように、判断材料や意思決定の根拠を残しておく。

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