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【開催レポート】「現場団体と財団・基金のコミュニケーションと判断軸」(4)パネルディスカッション前編
社会的インパクト・マネジメント・イニシアチブ(以下、SIMI)では、11月27日に、「~緊急時における社会的インパクト・マネジメント vol2~『現場団体と財団・基金のコミュニケーションと判断軸』」を開催しました。
(開催案内はこちら)
本開催レポートは、当日のディスカッションを書き起こし、整理したものです。
【開催レポート】「現場団体と財団・基金のコミュニケーションと判断軸」
(1)団体活動紹介「公益財団法人佐賀未来創造基金」
(2)団体活動紹介「NPO法人空家・空地活用サポートSAGA」
(3)団体活動紹介「Yahoo!基金」
(4)パネルディスカッション前編
(5)パネルディスカッション後編
(6)[主催チームまとめ]緊急時における社会的インパクト・マネジメントのポイント
パネルディスカッション前編
高木)これからパネルディスカッションでさらに質問をさせていただき、理解を深めたいと思っております。
高木)まず山田さんと西田さんにお伺いしたいのですが、お二人のお話を伺っていると、今回初めて緊急時に直面したわけではなく、「緊急時にはこうするのだ」という、ある程度のフォーマットというのができているのかなと感じました。
そこでまず一つ目の質問としては、今に至るまで、どういうご経験をされてきて、「緊急時にはこうします」ということに至ったのかということをそれぞれにお伺いしたいと思います。山田さんからお願いできますでしょうか?
山田)すでにしっかりした形があるというよりは、失敗して、改善しての繰り返しですね。緊急時は目的がよりはっきりしているので、地域のためになるのかとか、困っている人が助かるのかというところを軸に、活動してくれる人、現場でやってくれる団体が動きやすい状況をいかにつくるかというところなどを試行錯誤するなかで、スピード感であったり、お金の出し方であったり、内容であったりとかが変わってきました。未だに失敗を繰り返して、アップデートまではいかないですけれど、常に、何か改善、改善というところです。
高木)ありがとうございます。失敗という言葉には心が動きますので、ぜひ後でそのお話をいくつかお伺いできればなと思っております。西田さんはいかがでしょうか?
西田)2006年に「Yahoo!基金」を設立してから、たくさんの災害を経験しておりますので、やはり今、山田さんがおっしゃったように積み重ねによってノウハウが蓄積されてきたと思います。やはり東日本大震災以降、市民団体の活動は非常に活発になってきておりますし、ゆえにそういった団体とのリレーションをどうしていくのかも非常に重要になっています。
あとはこれも山田さんのプレゼンテーションであったと思いますけれども、やはりスピードですよね。スピードによって寄付額が変わってくるものをどうやって押さえて、どうクイックに動いていくのかということが、昨今の一つのポイントになりつつあります。今に至るまでのノウハウの蓄積はありつつ、状況が変わってきているので、そこにどうやって適用していくか、今もまだ模索しているところではあります。
高木)お二人とも今までの経験を踏まえてこういう形になっているけれども、さらにアップデートしている、言わば過程でもあるというような形かと思います。
お金の出し手ということで、普通の状態、平時であれば、応募・公募か何かをして、採択をしてお金を出す、というステップだと思うのですけれども、今 西田さんがおっしゃってくださったスピードというお話、それから山田さんのプレゼンテーションにあった「まず出す」というお話からすると、やはり平時とはステップが異なるのかなと思うのですが、お金を出すということに至るまで、それぞれどういうプロセスを社内、団体内で行っているのかを教えていただけますか?今度は西田さんからお願いいたします。
西田)私たちはヤフーの任意団体として運営しておりますので、事務局メンバーはヤフー社員ですし、理事会のメンバーも社長含めてヤフーの人間ですので、社内におります。今はほとんどオンラインなのでオフィスという場はあまり関係ないのですけれども、ゆえに決定が非常に早いです。何かをしようとなったときには、大きな決定はもちろん理事会のような形で実際に集まって決定していますが、クイックに動くときには書面決議のような形で瞬間的に回して、理事4人のうち3人が承認すれば実行できる、という体制を作っていますし、承認が来ないと「状況はいかがですか?」のような感じで聞けるので、非常にスピーディーに判断ができるようになっています。
高木)なるほど、ありがとうございます。山田さんの方はいかがですか?
山田)県との災害対策本部会議と、民間の情報共有会議(葉隠会議)の中でまずは状況を確認・判断して、(前回は判断するまでもないぐらいの被災状況ではあったのでが、)基本的には基金として出すかどうかの決定は、私(決裁者)と事務局長(実務者)レベルでできるようにしています。理事会にも平時の会議のなかで、緊急時の対応はご理解いただいているのでスムーズに助成事業を行えています。小さな団体ですので、役員と事務局メンバー4人ぐらいのところで、緊急時には電話とかメッセンジャーとかで緊急確認しています。
これも何回かやって確認した仕組みですね。それまでは失敗もあり、なかなか大きなお金を動かせないところがあったので、決裁ルートを決めたり、それに伴って事務局にとっては平時の業務にプラスαの負荷がかかる仕事になってくるので、業務が増えた分、その他の業務をどう減らすかなど、支援活動が長続きできるように、ある程度は全体のボリューム感を調整しながらやっているという感じです。基本的には課題とニーズ、担い手が見えたときにはそこで動かざるを得ないというか、災害の規模とか種類によっても判断を変えていくという感じです。
高木)お金を出す際に、誰に出すかということも、どういう結果を生み出すかにおいて非常に重要なポイントだと思っておりまして、今、山田さんがおっしゃった現場のニーズを拾い上げるということ、西田さんがおっしゃったリレーションを普段から築いている、ということがポイントになるかなと感じました。普段はどのように取り組まれているのか、あるいは災害時において取り組まれているのかということをお聞きしたいです。山田さん、いかがですか?
山田)助成の金額は小さいながらも、県内80万ぐらいの人口の中で、CSO(市民社会組織)の方々のだいたいの顔が見えるところでやっていて、平時に助成をしている方についてもエリアごとになんとなくですがお互いにやろうとしていることを理解し合っていると思います。各地でやっている子育て・子供支援の団体、高齢者福祉の団体、障害者の団体、今までに助成したところや中間支援組織にまず連絡をして、現地に可能だったら入るということをしています。
4人の事務局体制なので、私ともう1人ぐらいで現地に行くようにしているのですが、だいたい止められます。「行っちゃ駄目」「マネジメントしろ」と言われるのですけれど、佐賀は地域として距離も近いので、現場・被害状況をまずは見に行くことをしています。もちろん私だけで見立てはできないので、いろんな専門家の方にも入っていただきつつです。
災害時は、県外からの支援など、かなり乱立していくので、現場と一緒にやっていたり、地元の団体と連携しているような団体を、目利きではないですけれど、情報共有会議に参加していただくようにしています。 申請と審査は切り離しています。私は案件形成までは関わるけれど、そこから先の審査のところには入らず、審査は別に設けて実施するという形です。それがニーズ把握から助成のところまでというところです。
高木)そうしますと、普段から網の目を広く張っておられるので、どこに誰がいて、どういう支援をされているのかという、言わばデータ等、関係が蓄積されていて、それが災害時に効いてくると。加えて、何が起きているかを山田さんご自身の目で、財団さんの中でスタッフの方がどう思われるかはさておき、現場に行ってしまって確認されているということですね。
西田さん、リレーションを築いておられるというところはお話として共通の部分もあるかと思うのですけれど、具体的にはいかがでしょうか?
西田)そうですね。私たちは「Yahoo!ネット募金」、そして「Yahoo!ボランティア」、あと「SEMA(シーマ)」という、それぞれCSOの方々と関係を繋げていく場がありますので、そこがそういった団体を活動されている方のリストを担っています。各団体はどういうところが得意で、どういう取り組みをしているのかというのもわかりますし、実績についてもデータベースのような形で蓄積されておりますので、災害が起きたときに、その災害のタイプ、規模・特性などや、適切な団体がどこなのかというのを見つけにいくことができています。
高木)ありがとうございます。今お二人にはお金の出し手という側からお伺いしましたが、今度は塚原さんに、実際に支援に携わる団体という立場からお伺いします。
まず平時のコミュニケーションのところで、災害のネットワークの会議に参加されていて、こんな事ができるのではないかと思っておられたことと、本当に災害を経験されて行われたことというのは、ギャップはあるものでしょうか?
塚原)災害ということに関して、特段意識があったわけでは無く、災害支援のプラットフォームにお誘いをいただいた後に、当然、私共は空き家関連の団体ですので、住居に関しての支援は求められる所でしょうが、被災者の方たちにタイムリーに提供できる物件の確保できるかどうかは実際に災害に直面してみないと分からないと思っていました。ところがいざ災害がおきて、まず初めに受けたオーダーが、県外から来て頂いてる災害の支援の団体さんの、拠店となる場所の提供でした。災害支援地域へのアクセスが良く、20名~30名が滞在できる場所で、駐車場もある程度確保できて、しかも安価であるとの条件でしたので、かなり難しい注文でしたが、その方たちが全国の災害支援の現場で車中泊されている事を知りショックを受け、これは何とかしないといけないと思いました。幸いほぼ条件通りの物件を紹介する事が出来たのですが、災害に直面して初めてわかったというか、我々が思っていたのとまた全然違う役割があるというのがよくわかりました。
高木)ありがとうございます。「全然違う」というところに実際に直面されて、すぐに動かれて、支援をされている方に居住空間を提供されたということですけれども、それはなぜ実現できたとお考えですか?
塚原)私どもの団体は、いろんな要望を受けたときに「断らない」という事を信条にしております。そして、自分のところで出来る出来ないに関わらず、様々なネットワークを持っているので、どうにかなるだろうという気持ちがありました。今回のオーダーに関しても当然事前に準備出来る事ではないので、情報網を検索しながら、「じゃあ、あのオーナーさんにいってみよう」「あの人だったら大丈夫かな」ということでお願いし、日ごろの信頼関係もあって、それで実現できたのかなと思います。
高木)そらそらさんとしても、普段の関係性というのが構築されていて、どこに誰がいて、どういうことができるのかということが頭に入っていらっしゃったからこそ、すぐに動けたということですね。
そのときに、判断や助けなど何か必要になるような場面というのはありましたか?それとも、ひたすら動いていったような感じでしょうか?
塚原)現場に入っていく中で、我々ができる事は、例えば建物の判断、これは使える・使えないとか、危険な状況であるとか、どういった手を入れないといけない、など、は少し位は分かるのですが、そこにいる被災された方の、特に精神面の問題とか、健康面の問題とか、自分たちの専門外の様々問題が混在していているわけです。そういったときに、自分たちができないことについて、あるいは専門外なのに踏み込むということについては「これはやめた方がいいな」という判断になりました。そのあたりが悩んだところでもありますし、いろんなネットワークの中で模索しながら、「とりあえずあの人に相談してみよう」、「あの団体さんに相談してみよう」ということで、対応が遅れるケースもあるのですけども、まあそういうことはちょっと考えましたね。
高木)なるほど。支援者の方の居住する場所が無いということが大きな問題だというのは、意外に知られていないことかなと思いました。今回お話を伺ってその大事さが痛感できたところですけれども、そういったご経験をされたからこそ、次に備えるという意味で、ご経験を踏まえて何かされているということはありますか?
塚原)当時は宅建業免許を取得しておらず、やはり物件の情報量が足りないということは痛感しました。現在は自ら宅建業を営む事で、他の不動産業者さんや、オーナーさんとの接点が増え、それまでのお願いしますと言うスタンスから、ビジネスも含めた協力関係を育み積み重ねており、緊急時に、業者さんやオーナーさんとうまく連携出来る様な関係を構築しております。
高木)もう一つ、コミュニケーションという観点から現場の団体としてのご意見を伺いたいのですけれども、資金の出し手である財団さんや基金さんに対しては、普段どのようなコミュニケーションを心がけておられるのでしょうか?
塚原)佐賀未来創造基金の山田理事長とは非常に近い位置におりまして、常々いろんなことを相談しながら物事も進めさせていただいています。資金の調達についても、こういった場合はどういう資金を考えて挑戦をしていったらいいのかとか、どういうものがありますよとか、あるいは直接助成金を支援していただくこともあるのですけれども、常日頃、我々がやっている活動を、目に見える形でご覧になっていただくなど、先ほど西田さんもおっしゃいましたけれども、「この団体に支援をしていいのか」と考えた時に、活動とか、実際何をやっているのか分からないと、そういう判断はできないと思いますので、活動や報告が常にできる体制をとっております。
高木)ありがとうございます。今度はまた山田さんと西田さんにお伺いしたいのですけれども、お金を出すにあたって、どういった情報が団体さんの方から提供されていたらありがたい、ということはありますか?山田さんからお願いします。
山田)私が現場に行っても捉えられないニーズや、現場に1ヶ月ぐらい支援が届いていないということがありました。そういうことに気づいてくださる団体さんがいるということが安心ですし、平時から一緒にやらせていただく中で、本当に被災者の方に寄り添っているとか、見えないところを拾い上げてくださるのが市民活動の方々だと私は思っています。そういう意味では、そのジャンルとか専門性によってまた違ってくるのと、我々の中で仮説を立てて、フェーズごとに、例えば炊き出しや泥かきのフェーズもあれば、復旧・復興の段階があったり、プロジェクト型とか拠点型でやるみたいなところの予測はしているのですけれども、それでも漏れているようなところとか、そこのど真ん中にやってくださるというような団体さんから、情報をもらって一緒に活動できて助かっていますという感じです。
高木)そういうことですね。西田さんにもその質問を投げかけさせていただこうと思っているのですが、参加者からいただいた質問の中にご紹介したいものがあります。「平時と緊急時と違うと思うのですが、それぞれの状況においてCSOを支援・連携する際に重要視する軸は何でしょうか?」ということで、佐賀未来創造基金さんは地元密着として活動され、いわゆる顔なじみだからこそできるスピードや支援があると。まさに今伺った、密着しているからこそ普段からよく知っています、きめ細かにコミュニケーションしています、ということがあるかと思うのですけれども、「Yahoo!基金」さんはそのあたりはいかがですか?というご質問です。いかがでしょうか?
西田)はい。まさに今のお話の中で、キーワードとして出てきたのは地元密着みたいな言葉ですよね。私たちは先に申し上げた通り、普段の「Yahoo!ネット募金」、「Yahoo!ボランティア」、「SEMA(シーマ)」という活動を通してさまざまなリレーションを作っており、そういう意味で網を広く張るということはできているのですけれど、課題になるのは網の細かさですよね。メッシュの細かさ。特に、ある地域で発災したときは、その地域に密着した活動をしている団体について、私たちはどれくらいキャッチできているかというと、なかなかキャッチできていないのが現状だと思っています。 そしてコロナの後を考えると、県外からの参加が難しい状況も考えられる中で、より地元のCSOの方々とのリレーションが非常に重要になってくる。その地域でどういった団体が、どういう特徴を持っていて、どういうことに取り組んでいるのかという情報を吸い上げていくことが非常に大事なので、そういった情報が少しでもクリアになってくると出しやすい状況になるのではないかなと思います。
高木)そうすると、ヤフーさんは活動する範囲が全国ということで、非常に広いということもあるので、二段階、つまり「地域の方をよく知っている人を知っている」みたいなところもある、という理解でよろしいでしょうか?
西田)それがすごく大事だと思いますね。だからもし佐賀で何かがあったときには山田さんに聞こう、と。そういう関係がすごく大事で、山田さんだからこそ、よりきめ細かくキャッチしている部分があると思うのですね。私たちが今から何かを調べに行こうとしても、通り一遍の情報しか吸い上げられないと思うので、深く関わっている山田さんのような方にお話を伺うというのは非常に有効だと思いますね。
高木)なるほど。山田さんいかがですか?
山田)ありがたいです。全国規模の助成財団とか、休眠預金もそうですけれど、連携するということが大事かなと。県外の団体さんにもとても助けていただいていますし。当事者の困りが解決されることが大事ですので、全国規模の大きなところが、「地域のことを一緒に」と言ってくださるのは嬉しいし、ありがたいですね。
(「パネルディスカッション後編」へつづく)
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