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【開催レポート】「現場団体と財団・基金のコミュニケーションと判断軸」(5)パネルディスカッション後編

社会的インパクト・マネジメント・イニシアチブ(以下、SIMI)では、11月27日に、「~緊急時における社会的インパクト・マネジメント vol2~『現場団体と財団・基金のコミュニケーションと判断軸』」を開催しました。
(開催案内はこちら

本開催レポートは、当日のディスカッションを書き起こし、整理したものです。

【開催レポート】「現場団体と財団・基金のコミュニケーションと判断軸」
(1)団体活動紹介「公益財団法人佐賀未来創造基金」
(2)団体活動紹介「NPO法人空家・空地活用サポートSAGA」
(3)団体活動紹介「Yahoo!基金」
(4)パネルディスカッション前編
(5)パネルディスカッション後編
(6)[主催チームまとめ]緊急時における社会的インパクト・マネジメントのポイント


パネルディスカッション後編

高木)ありがとうございます。私からもお聞きしたいことはまだまだあるのですけれど、そろそろ会場の方の質問も織り交ぜつつ、議論を深めていきたいなと思っております。
 一つ目のご質問ですけれども、「初動のための資金、10万円とか50万円とか、何に使うものが多いのですか?これは中身や出す先によって違うかなと思うのですけれども、それを教えていただきたい」ということで、山田さんにお伺いしたいことです。もう一つは、「どう使ったのか報告をもらうと思いますが、それがどう評価されているのか」、これは山田さんと西田さんの両方にお伺いしたいと思います。そうしましたら、山田さんお願いいたします。

山田)どんな団体に助成したかという情報はホームページでも報告しています。資金の使途はフェーズごとに違っていますが、最初の頃は炊き出し、泥かきなどが多くある中で、ある一定の時期を超えてくると、こどもや障がい者支援などを含む福祉分野であったり地域の困りなどのメンタル的なことやソフト面、当初からソフト面はもちろんあるのですけれど、子供の居場所なども。あとは拠点整備やプロジェクト型などに変わっていくような流れが今回はあるのだと感じました。
 そういう状況をある程度想定しているので、現状ではあまり使い道に制限を設けていないです。例えば家屋の泥出し、送風機、動けないおじいちゃんおばあちゃんがいるということでタクシー券、材料費やスコップ、物資、医療費、多少の人件費、家賃など用途に制限を設けないことで幅広く柔軟な活動に対応できるようにしています。実施している活動がちゃんと課題に対してフィットしていれば、という前提です。
 私たちの財団としては、緊急時の10万円、50万円くらいの金額帯の助成に関しては、しっかりとした評価をするという考え方はないのが現状です。金額の多寡だけの話ではなくて、災害って結構わかりやすいじゃないですか。目の前に困っている人たちがいて、今炊き出しをしないと避難所が大変だよねという状況で、炊き出しをする担い手がそこにいて、お金が無いためにできないということにはならないのですが、団体もやりながら疲弊していかれるのですよね。地域で活動している方たちを、ちょっとでも後押しをしていくというところで先にお金を出して、一緒にやりながらニーズを拾うということができるので、ある意味で先行投資という部分もあります。小さなお金で、そのタイミングで必要な活動がスムーズに継続性をもって行えて、非常に良い関係性が作れる。もちろんその困りが解決(軽減するなどの変化)されたかどうかは見ますし、情報共有会議で定性的な実感や現場感を持った話も報告共有していただいていますので報告書は極力簡単なものにしています。そういうサイクルを回しながら、目の前の困っている人たちがちゃんと助かっている状態を作り続けられることがすごく大事で、それに向かって、その流れや活動自体を改善し続けられるかどうかが大切なのかなと考えています。

高木)活動紹介の中で、不採択のところについては、条件付きでお金を出しますとのことでしたが、どういう理由や基準があるのでしょうか?

山田)不採択はほぼないですが、あまり被災現場のためになっていない、とかですね。不採択ということはあまりせずに、「もう1回書き直しましょう」みたいなことを一緒にやっていくので。1週間ごとに審査会をやる場合もあるので、次のタイミングで上げるみたいなところで、保留みたいな感じでやっています。

高木)そういうことですね。わかりました。では西田さん、今のところをお願いします。

西田)初動については我々の場合は基本、義援金が多いので、被災者の方々への義援金という形でお出ししております。そして初動に限らず、助成あるいは活動支援という形で支出したお金については、もちろん報告書をいただいたり、あるいは報告会で説明していただいたりしておりますが、良くも悪くも必要以上にあまり細かくはしていないです。
 良い意味で言うと、支援を受ける団体からすると非常にやりやすいのだと思います。事細かにお金の使い道を指定されるよりは、目的にコミットしていれば、基本的にはお任せするという形をとっているので、お金を具体的に、何にいくら使ったのかというよりは、やった結果どうなったのかというところを中心にご報告をいただいております。団体によっては非常に細かいレポートを上げてくださるところもあれば、大雑把なところもあるのですけれど、基本的には目的にコミットして、そこに一緒に取り組んでいくと。その結果どうなったかという報告を受けて、それらを私たちは、次の災害が起きたときの支援に充てたり、あるいは長期で支援が必要な場合にはフェーズを意識しながら、そろそろ次のフェーズの支援先を考えよう、などのヒントにしていくという感じですね。

高木)関連するお話として、参加者からご質問をいただいているので、あわせてお聞きします。「団体のデータや情報はどういうふうに集められるのか?」ということと、「集められた情報はどういうふうに精査されているのか?」ということで、西田さんにお聞きしたいとのことです。

西田)一つ分かりやすいのは「Yahoo!ネット募金」で、現在、約400団体が登録されていますけれど、どういう団体が入っていて、何をしているところなのか、実績についても調査しています。いわゆる反社チェックもしています。資金が適切ではないことに使われないか等のチェックも併せて行っているので、それが一つの基本的なリストになってくるかなと思います。あとは普段の実績であるとか、CSOの方々とのコミュニケーションの中で、リストに含まれていないけれど、ある分野に強い団体であるとか、そういったところとは繋がっていくという形ですね。
 より細かくいろんなリレーションを築いていく上では、今のやり方に加えて、こちらから積極的に繋がりにいくという活動も必要だと考えておりまして、この2020年10月から新たに設けた機能としては、CSOリレーションズ・マネージャーという役割を作りました。例えばいろんな集まりに顔を出したり、あるいはコネクションを辿っていくという形で、リレーションをどんどん築いています。今CSOの方々で困っていることは何なのか、今、どんなCSOが活躍しているのかなど、そういう情報をキャッチアップしにいく。今まではプラットフォームの中に登録して下さる団体を中心に、加えて、何かがあったときにはそれに強そうな団体に声をかけるということで運営していたのですけれど、その隙間を埋めるように、こちらからしっかりと出向いて行って関係性を作りに行く、という活動も始めました。

高木)今のところをもう少し詳しくお伺いさせてください。情報という形で集められていたデータベースみたいなものがあって、それの拡充というのは常日頃からやっておられた。さらに、そこに人を1名配置してまでやらなければいけないと、関係構築をやらなければいけないと感じられたのは、何が要因なのでしょうか?

西田)やはりコロナは一つのきっかけになったと思っております。医療もあれば、子供や女性など、メンタルヘルスですごく弱っていく、あるいは、そもそもCSO自体が活動できなくなっていたり、課題が多岐に渡ったのですよね。
 普段私たちは災害系中心に動いているのですけれど、そこではキャッチできない、あるいは繋がることが難しい領域も非常に多く出てきた中で、団体を都度探さなければいけない。一方で時間は刻々と迫っていく中で、果たしてベストな選択ができるのかというのは、やはりリスクもあると思うのです。そういう役割を設けてでも、普段から関係性を活性化させ、ある時にこの人、この団体というのが、すっと出てくるような状況を作っておく必要があるなと感じたからです。

高木)なるほど。そのCSOリレーションズ・マネージャーの方が前線に立ってネットワークを築きに行かれるということだと思うのですけれども、その担当の方が築いてきたものは、社内で何か共有する仕組みがあるのでしょうか?

西田)災害系は横の繋がりも構築しておりますので、そこで紹介してもらい、課題を吸い上げてきたら共有もしてもらい、あるいは例えば「SEMA(シーマ)」でこういう団体はないか?というのがあったら、そのマネジメントをしている人が繋ぎに行ったり、探しに行ったり、そういう連携を取れるようにしておきたいなと思うので、あくまでCSOリレーションズ・マネージャーというのは、横串で活動する役割と考えています。

高木)ありがとうございます。今度は塚原さんにお伺いします。質問が来ている内容なのですけれども、「どんなマネジメントをされているのかということを教えてください。数値的な目標とかを持って活動されているのかということもあわせて教えていただければ」とのことです。

塚原)これは平常時ということでよろしいのでしょうか?

高木)そうですね。はい。

塚原)ロジックモデルは何回も何回も進化させて、だんだん変わってきているのですけれども、直近の私どもの大きな使命の一つとして、居住支援ということを挙げていますが、これで言いますと今だいたい月3件から4件ぐらいです。それを、5件以上に増やしていきたい。それと空き家関係で言いますと、月10件以上ぐらいの相談が来ているのですが、実際に解決していくスピードというのは追いついておらず、年間20-30件ぐらいですので、人材を確保していきながら、今の倍ぐらいの支援はしていきたいと思っています。そうすることによって、そこのマッチングができてきますので、相乗効果で居住などの支援に繋がるのかなと思っております。

高木)相談件数、それが解決した件数、それまでにどのぐらい時間がかかったのかといった情報は常日頃から把握しておられて、これをもう少し増やさなければ、スピードを速くしなければ、というような振り返りと改善をしておられるということですね。

塚原)そうですね。はい。

高木)ありがとうございます。山田さんと塚原さんからロジックモデルという言葉がありました。SIMIが公表している社会的インパクト・マネジメントのガイドラインの中にも、ロジックモデルという言葉が出てきます。ロジックモデルについて一応ご説明させていただきますと、社会的インパクトを生み出すためにどのようなステップでそれを実現するのかという見取り図といいますか、仮説を可視化したものとご理解いただければと思います。
 このロジックモデルですけれど、どうしてそれを作られようと思ったのかということを塚原さんにお伺いしてよろしいですか?

塚原)NPOとして活動する中で、やはり一番難しいのが、存続するための資金をどうやって得ていくかと言うことです。せっかく良い活動をやっていても、継続しなければ意味がない。ここを改善していくために、佐賀では、金融機関さんと一緒にロジックモデル作りを行い、ソーシャルビジネスに繋げていこうという大きな企画がありました。半年間ぐらい研修を受けて、一緒にロジックモデル造りを行いました。運よく、その企画で、ロジックモデルの優秀賞をいただきました。
 それ以前は、金融機関さんにNPOが融資をお願いできるようなケースは少なかった様なのですが、一緒にロジックモデルを作っているものですから、それがきっかけで、ソーシャルビジネスに向けての資金調達ができたのかなと思っています。

高木)その後もロジックモデルを使い続けているということは、資金調達に生かされたということに加えて、何か意義というものを感じられておられるのでしょうか?

塚原)そうですね。他の団体さん、行政さん、企業さんに共感をしていただくための、大きな意味でツールと考えております。これを使うことで、我々の団体がやっていることを明確に伝えられます。そのことによって活動をする上での資金調達であったり、人的支援あったり、いろんな場面でいろんな組織と連携できる事が、広がっているのを実感しています。ですので、これからも続けていこうと思っております。

高木)なるほど。山田さんからの口からもロジックモデルという言葉がチラリと出たかと思うのですけれども、山田さんとしてはどういうふうにロジックモデルを見ておられますか?

山田)私も得意ではないのですが、中長期から見て進むべき地図というか、自分たちの団体と、地域の課題と、辿り着きたいところというのがあって、一緒に作っていけるのがすごくありがたいなと。団体内部に対してのコミュニケーションツールとしても使えるし、ついつい代表者だけで考えてしまうところがありますが、みんなで作りますし、関係者を巻き込んで作るので、金融機関と一緒に作ったからということもありますが、塚原さんたちが半年間向き合って皆でつくったその内容が評価されたのだと思いす。事業性評価が大切だと言ってくださっている地域の金融機関の方々と私もよく話をしていますが、そういう地域の環境下で、皆で一緒に作ったものだからこそ協調融資が実現したのだと思います。
 そらそらさんは非常にわかりやすい課題と解決方法を設計して、要支援者の相談対応などを断らない姿勢で粘り強く現場の団体としてやってらっしゃいます。 そらそらさんにとってのロジックモデルは、空き家のオーナーに対して、地域金融機関に対して、関係者に対して、そして団体の内部に対して、発信共有できるツールだったのだと思います。まだまだ難しい部分もありますが、我々も支援者としてさらに頑張らないといけないなと思っているところです。

高木)ありがとうございます。今ロジックモデルを、共感を得るツールとして使えるのだということをおっしゃっていただきました。
 先ほど西田さんから、HIKAKINさんの例を出していただいて、HIKAKINさんがいたからこそ、若者に関心が広がったとか、今までにない層からの寄付を集められたとのことですが、ご質問として、1億円を出してくれたのがまずすごいなという感想があった上で、誰が募集するのかが重要だという学び、あるいはインパクト評価やマーケティング評価のようなものがあるのかな、ということで、「Yahoo!基金」さんは今回HIKAKINさんにご登場いただいたことをどう捉えておられて、今後へ生かしていきたいと思っておられるのか教えていただけますでしょうか?

西田)私たちが寄付を募るときの大きなポイントとなるのは、モメンタムだと思っています。モメンタムというのは本来、投資などで場の勢いのことを指す言葉として使われますけれども、やはり寄付においてもこのモメンタムというのがあるのではないかなと思います。非常にスピードが大事なのですが、早すぎるとモメンタムがまだ高まっていなくて寄付が集まらないこともあります。ゆえにどんな情報と組み合わせて出すのか、あるいは誰が伝えるのか、これはまさにおっしゃられた通りマーケティングに近い考え方だと思います。
 それをどういうパッケージにして伝えていくか、コロナのような広いものであれば、まずはとにかく医療に集中しようという形で、医療にフォーカスしたメッセージングというのも大事ですし、誰とどんなストーリーで、どこにフォーカスを当てて伝えていくかは非常に重要ではないかなと。それによってモメンタムの、場の勢いというものをしっかりとつけて、寄付を募っていくと。そして誰が伝えるかによって、やはり届く層というのも変わるというのが今回の学びの一つでもあります。もともと若い方々って、特にZ世代と言われる方々も含め、非常に社会への貢献意欲が高くて、寄付にも割とハードルが無い層ですが、私たちのサービスではなかなか届かない部分がありまして。HIKAKINさんがYouTubeという媒体を使いながら、それを伝えてくださったことで、「Yahoo!ネット募金」を利用したことがない人たちも、これを機会に使ってみたり、寄付してくださったので、誰が伝えるか、どのチャネルでそれを言うか、ということが非常に大事かなというところでは、学びとして今後に繋げられることかなと思います。

高木)先ほど皆さんおっしゃってくださったように、今のアプローチは一つの過程として今ここに至っていること、これからも改善を進める、そして今回チャレンジしたことはまた次の機会に生かされていくことで、改善が積み重ねられていっているということですね。
 皆さんにお聞きしたかったことなのですけれども、差し支えのない範囲内で、これまでにどんな失敗があって、そこから何を学び、変えられたのかということを教えていただきたいと思います。では山田さんからお願いします。

山田)助成財団としての助成を出すタイミングでは、もう明らかに、前回に遅かったのが改善されました。今回のコロナでは、どの部分が一番大変かというところが、ある程度仮説が立てられたので、そこに対してできるだけ早めに対応できたというところはあります。寄付集めのところも、振り返ってみると前回よりも情報共有会議である程度のスピードと信頼性は担保できたと思っていて、若干改善していったところはあります。
 今まで県外の災害対応支援活動しかやっていなかったので、県内の対応は豪雨災害が初めてで、初動の寄付集めも、A-PADさん(佐賀県に本社がある緊急支援の団体)など県に誘致で来ていただいている団体と比べて、明らかに初速のスピードが遅いなと。それは判断であったり、準備ができていないということを、現場の災害団体さんの話を聞き、そのスピードまではいかなくても、スピードと初動の判断の確度を上げようということは意識しています。結局4日後、5日後ぐらいにしか出せていないというところは反省で、岡山の災害ネットワークさんはもっと早かったですし、助成を出すタイミングと寄付集めのタイミングと、そこからの動きみたいなところは、初動で遅れるとやはりそこで漏れるところが多くなるのではないかと思っています。
 これは本当に塚原さんたちに感謝なのですけれど、平時から地域のことをしている団体さんで、平時のこと「しか」できないではなく、災害等緊急時のところまで対応していただくということが素晴らしいなと思っています。平時に実施していることを緊急時に変化させて、(ロジックモデルのようなプラスアルファの業務になるところもやっていただき)誰一人取り残さない、要支援者・要配慮者を受け入れをしながらも活動内容を災害対応にあわせて変化してもらったというのはすごくありがたいです。
 私たちも変化を待っているだけではなくて、団体への逆提案も必要になってきていて、「こんな困りがあるので、この団体さんと一緒にこういうことできませんかね」などという相談やマッチングなどの可能性を探りながら、地域でずっとコミュニケーションをとり続けていきたいと思っています。
 もう少し行政に動いてほしいと思うときも、エビデンスを集めて提言するというのは当然やった方がいいですし、制度でできるものは制度でやる、できないものは民間で頑張るとか、地域で頑張るということ。そこでも足りないところに今回休眠預金があったのは地域にとっては非常にありがたいですし、それが次はヤフー基金さんであるかもしれないですし。
 お金だけの話ではなくて、何か足りないものを1個1個補っていくなかで、また「これが足りないな」というものが出てくるので、それを皆で補い合って助け合って改善し続ける。最初はできていないことが多いですが。
 組織の内部のマネジメントでも、私たちは事務局4人ぐらいでやっているので、職員も災害時の支援活動は業務過多になりがちで「これだったらやってられないよ」という話になるわけですよね。フレックスであったり、リモートワークであったりとか、ちゃんと実働できるような体制作りというのも併せてやることが大事だと思っています。本当に私も含めて災害で多忙になって心身ともに疲弊するのですが、現場に行って元気をもらって帰るみたいなところもあったりする。そういうところの繰り返しをやるというところと、評価についてもいろいろな専門家の方々にもお世話になりながら、本当にこれでいいのかとか、地域でこれは広がるのかと、お力をいただいてやっているという感じで、振り替えてみると反省ばかりですね。結果とかアウトプットを見ながら、現場のおじいちゃんおばあちゃんを見ながらやる、みたいなところが大きいです。

高木)先ほどのプレゼンテーションの中で示していただいたところは、ある意味、失敗に基づく振り返りで改善してきたところを、抜粋してくださっているのですね。

山田)はい、しかもお手本みたいな団体が佐賀にはたくさんあるので助かっています。CSO誘致の制度も賛否両論ありますけれど、災害であれだけ初動で動ける人たちがいるということで、自分たちができていないことが明らかに分かるのと、必要なところに届けられていないのが分かります。その人たちからも情報をいただいて、現場が近くて早いので、改善までのサイクルが早くなるというか、一緒に「こうだよね」と話ができるということは、地域の得なところかなと思います。

高木)初動が遅いといけないというのはなんとなく分かるのですが、それがもう3日経つと違うというのは結構強烈ですね。

山田)情報発信が1時間遅れるだけで、寄付の集まり方が100万円単位で違うと言われました。それぐらいシビアというか、災害の人たちは現地に行って、そこから寄付集めをされますから。あのやり方を見て、我々の中で発想が変わり、支援するために、バックアップするためには、先に助成金を出さないと間に合わないし、地域が間に合わないみたいな経験を、県外の災害で知って、県内の災害でそこでまた気づいて、次のコロナでも何か対応する、みたいなことを結構もう、失敗・改善、失敗・改善のサイクルをずっとやっている感じです。

高木)ありがとうございます。そうしましたら塚原さん、教えていただけますか?

塚原)そうですね。私どもは4名という小さな団体でして、それぞれが専門性のある仕事をしておりますので代替えが出来ません。本来マネジメントをやって、いろんな方たちを動かしたり、連携させたりということをやらないといけないのですが、どうしても先に自分が現場に入ってしまうと、身動きが取れなくなります。濡れた畳を運んでいる中で別の相談電話を受けたりするのは、すごく難しくて、そういう状況に陥ったので、自分でやりたい気持ちもあるのですけれども、そこを抑えながら、もっと専門性のある方たちと連携というか、チームを作ってそこでマネジメントなど、この経験を生かしてやっていくというのが大事だなと思いました。そこが大きな失敗だったのかなと思っています。
 それと、私どもの経験やスキルを継いでいってくれるような若い方たちと、後継者というのはあれですけれども、一緒にやっていくのが必要かなと思って動いております。

山田)補足ですけれど、塚原さんは建築士協会とか、ボランティアセンターとかいろんなところの繋ぎをやって、現場もやりながらもマネジメントされていたので、すごいなと思って見ておりました。

高木)山田さんも塚原さんもおっしゃられましたけれど、現場に出ていくことと、チームのマネジメントを両立させるのは相当大変ですね。スタッフの方の想いや、こう動いてほしいという期待もありますでしょうし。

山田)スタッフの人たち、現場で動いてくださる団体の人たちに感謝、感謝です。だから我々はちゃんとした設計を、より良いカタチで助成金として実現させなきゃいけないし、それが活用されて、困っている人が助かるというサイクルを作り出すことに、チャレンジし続けなきゃいけないと思っています。

高木)ありがとうございました。では西田さん、改めましてちょっと聞きにくいのですけれど、失敗はありますか?

西田)失敗という形で捉えているものは少ないですが、ただ反省せざるを得ないものもいくつかあります。例えば、助成や寄付を出すタイミングはあると思うのです。
 早い方が良いということで、寄付や助成をバーンと出した後に、復旧が長引くと、現地で別の支援が必要な状況になっていることもあります。資金を使い切っていると、そこに対する支援ができなくなってしまう。ある程度フェーズを分けながら、資金も使っていかないと、その時には予想できなかったことが2ヶ月後に起きる可能性もあったりします。
 そのため長期的な視点で見て、しっかりと支援をしていかないと、結果的に、最初は助かったけれど、もっと困ったことが起きたときに、我々が支援できずそこに向けてまた寄付を募ろうとしてもモメンタムが下がっていて、なかなか集まらない。やはりモメンタム、要するに勢いがあるときにしっかりと寄付を集めて、その使い道としては、長期になると復興支援というフェーズになるので、中期的な視点で見ながら、しっかりお金を使っていくということが必要だなというのが最近の気づきではあります。

高木)なるほど。やってみて分かったこととして、緊急時の中でももう少しフェーズを分けた方がいいのでは、ということですよね?

西田)そうですね。緊急時というのを、どのくらいの期間で捉えるかということだと思います。例えば昨年の千葉への台風が2つ、それほど間を空けずに来て。1回目で支援して何とかなったとしても、2回目でまた同じことが起きてしまったりする。台風であれば第1弾、第2弾、第3弾ぐらいで何が起きるのかというのをしっかりと想定しながら、寄付なり支援を使い分けていく必要があるかなとは思いました。

高木)ありがとうございます。お伺いしたいことは尽きないですけれども、時間が迫ってまいりましたので、終了に向けてラップアップをさせていただきたいと思います。
 今日お伺いしていて特に印象に残ったことを個人的に申し上げると、山田さんと西田さんの取り組みの中では、緊急時のフォーマットというのはできているなというのが印象ではあったのですが、今も改善の途上にあるということでした。過去のご経験を反映されて積み重ねているけれども、それが今後もまた変わり続けていくであろう、その途中段階を見せていただいたと感じました 
 二つ目として、私たちSIMIとして、平常時と緊急時の違いはどのようなものだろうということからこの取り組みを始めたのですが、実はそれは非連続ではなくて、平常時から団体さんとのコミュニケーション、地域・現場とのコミュニケーションを深く取っておられるからこそ持っている情報が、緊急時にも生きておられるし、緊急時で積み上げたものがあるからこそ、それが平時の活動にも活きていると。塚原さんから、緊急時の経験があったからこそ、平時のソーシャルビジネスにより注力されるようになったというお話がありましたので、そこが強く印象に残ったところです。
 最後にですが、今日ご参加してくださった方々は、緊急時の支援やその時のマネジメント、振り返りといったところにご関心があると思いますので、ご登壇された皆さまから一言ずつ最後にメッセージをいただきまして、会を終了させたいと思います。では山田さん、お願いいたします。

山田)ありがとうございました。本当に勉強になりました。西田さんのお話、塚原さんのお話も改めてありがたいなと思いました。
 「社会的インパクト評価」ではなく「社会的インパクト・マネジメント」と言われてちょっとホッとしているところがあります。やはり我々は現場のところで生きないと、特に地域でやっぱり生きてなんぼですので、成果や評価など、プロなので言語化しなければ、可視化しなければ、とはもちろん思っています。ただやはり地域の中にいると、目の前の人の困りがどう解決されていくか、足りないところはどこか、というところでチャレンジしていて、失敗であっても改善するというところが大事だと思っています。今は我々の財団も災害を受けたところも、寄付を常時集める形にしたら、やはりモメンタムが下がって集まっていないのですよね。今までは東日本大震災の復興支援とか、豪雨災害とか、地震とか、いろいろやってきており、この辺りの平時からの基金としての準備と、コミュニケーションによって信頼関係は地域では築けているのですけれど、コロナになると担い手の方が今逆にいなくなって、助成金のエントリー自体が減っています。
 そういう状況の中でどうしていくか、また次の課題が出てきているので、そういうところを皆さんやそらそらさんとまた一緒に、お知恵、お力を借りながら、地域で持続可能な形で、西田さん、SIMIさんのお力を借りながらやっていければと思っております。引き続きよろしくお願いします。ありがとうございました。

高木)ありがとうございました。そうしましたら塚原さん、お願いいたします。

塚原)本日はありがとうございました。豪雨災害のお話を中心にさせていただいたのですが、今直面しているコロナ禍で、仕事を失っている方が次に何を失うかというと、今後、住まいを失うケースが増えるのではないかと思っています。事実、私どもの元に、こういうことで仕事がなくなって、いろんな困難な状況が重なって住むところがない。「もう今日からでも住むところが欲しい。でもお金がない。」こういうご相談がすごく増えてきています。実情、住まいを確保するために必要なものは資金です。
 住まいを確保する為の初期費用は必ず必要ですので、そこが非常に課題だなと思っています。そういった住まいを確保し易くする為の、基金を作ることも、コロナ支援枠の中で必要になってくるのかなと思っています。今後、応援をしていただけるような仕組みができたらなと思っています。どうも本日はありがとうございました。

高木)どうもありがとうございました。最後に西田さん、お願いいたします。

西田)貴重な機会を与えていただきまして本当にありがとうございました。私自身も、山田さん、塚原さん、そしてSIMIの活動を知ることができて非常に勉強になりましたし、ヒントもいただけたと思っております。
 ロジックモデルのお話など、私たちが本来ビジネスをやるときに当たり前のように使うことが、こういった社会貢献活動だとつい置き去りにされてしまって、気持ち重視みたいな部分があって、かといってロジックだけでも良くないと思うのですよね。この気持ちの部分と、その気持ちを最大効果させるためのロジックをどうやって作り、その結果をPDCAにどう繋げていくかというところで、改めてその重要さを確認できた場だと思っていますし、今後私たちもそういったことをしっかりと生かしていきたいなと思いました。ありがとうございました。

高木)どうもありがとうございました。では改めまして、本日ご参加いただきました皆さま、ご登壇いただきました皆さま、どうもありがとうございました。これにて閉会とさせていただきます。

([主催チームまとめ]へつづく)


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