Social Impact Day 2020

2021年05月18日

セッション2:『地域における社会的インパクト・マネジメント活用の可能性』(詳細記事)

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スピーカー:
・山口美知子氏(公益財団法人東近江三方よし基金 常務理事)
・高山大祐氏(認定NPO法人北海道NPOファンド事務局スタッフ・理事)
・佐藤 綾乃氏(NPO運営サポート・あの屋)

モデレーター:
・河合将生氏(NPO組織基盤強化コンサルタント office musubime代表)

コメンテーター:
・源由理子(明治大学公共政策大学院ガバナンス研究科教授)
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セッション2 地域における社会的インパクト・マネジメント活用の可能性

モデレーター 河合

本セッションには、日本の地域において社会的インパクト・マネジメントや社会的インパクト評価に向き合っている実践者の方をお招きしています。コメンテーターである源さんとともに、地域においてSIMはどのように活用できるのか、また普及と発展の課題は何かという点について明らかにしていきたいと思います。 それではまず、コメンテーターの源さんから社会的インパクト・マネジメントとは何かについてお話いただきたいと思います。

 

コメンテーター 源

社会的インパクト・マネジメントという言葉は「社会的インパクト」と「マネジメント」という二つの要素により構成されています。社会的インパクトとは「事業をとおして生み出される社会的・環境的な「短期的・長期的」な変化、便益、成果(アウトカム)」のことであり、課題の解決もしくは課題がある程度良い状況になることを指しています。 中でも私が注目するのは「社会的」という言葉です。社会は複数の人々、しかも一人の人が複数の立場や役割を持ち、かつその人々の相互依存関係により成り立っています。その社会にとっての「価値や関心」などは非常に多様かつ多岐に渡っているため、「何がインパクトなのか」、「どのような価値創出を考えていくべきなのか」という点を考えていくことは非常に重要です。 また社会は常に変化しています。一時点における「評価」を行うことではなく、良い社会状況が持続するよう、その要因となる社会構造そのものに変化が起きることも大切だと思います。ただし、良い社会状況が持続するためには色々な立場の人が一緒に事業を行い、継続的にその事業を改善していく必要があります。そうした継続的な協働プラットフォーム機能が重要であり、それをマネジメントすることが「社会的インパクト・マネジメントである」と言えるのではないでしょうか。

(源氏発表スライドより)

また、「何故、その事業をやる必要があるのか」や「どのような社会課題の解決を目指すのか」という点について、計画段階から考えていくことも重要です。例えば事業内容は社会ニーズに対応しているのか、そもそも事業実施により本当に社会的な変化は起きるのだろうかといった点についてです。 本日はこうした点についても着目しながら、実践者の皆さんのお話からどのようなプラットフォーム作りが行われ、どのように協働してきたのかという点について議論できればと思っています。

事例1:認定NPO法人北海道NPOファンド

本日は中間支援団体として、つまりNPO法人を支援するNPOとして社会的インパクト・マネジメントの可能性についてお話ししたいと思います。私たちは2002年にNPO法人化し、2016年に認定NPO法人となって市民ファンドとして非営利団体の資金調達を支援している団体です。元々は、「遺贈を原資としてNPO活動に助成してほしい」という要望から遺贈寄付を受け活動をスタートし、北海道NPOサポートセンターなど4つの中間支援団体からなるグループの1つとして、地道に非営利活動に対する資金的支援を行ってきました。

社会的インパクト・マネジメントへの取組みという観点では、休眠預金等活用法の動きは私達にとってきっかけの一つとなったと言えます。北海道のNPOにとって、この新しい法律の施行は注目度が高く、私達は連携団体を中心としてシンポジウムを開催したり、社会的インパクト評価の研修に参加するなどして、スタッフの能力向上を中心に積極的に学び始めました。並行して、実践機会を作るためにモデル事業として社会的インパクト評価促進事業という助成事業の実施や、また休眠預金制度の活用検討のために北海道全体の中間支援組織を集めて話し合いの機会を設けるなどの活動を行ってきました。

具体的な取組み事例2つをご紹介します。一つは先ほど申し上げた「社会的インパクト評価促進事業」です。この事業ではモデル団体を選定し、社会的インパクト評価に団体が取組む際の伴走支援を実施しました。もう一つは休眠預金等活用法における資金分配団体としての支援です。社会的インパクト評価促進事業は社会的インパクト評価実施の支援、休眠預金事業は事業支援の一環として評価支援を行ったという違いがあります。  2つの取組みを行ってみた結果、モデル事業のほうは評価結果の活用目的に応じた評価設計を採択団体と話し合って決めることができる設計としたため、各団体と評価設計、評価方法などについてじっくり話し合う機会ができたことが有益だったと感じています。休眠預金のほうは評価伴走支援に対する資金的な援助があり、またしっかりと枠組みが設計された評価を経験する機会になりました。  これらの経験から私が感じている課題の一つは、社会的インパクト・マネジメントや評価の価値を理解している支援者が少ないという点だと思います。一方で、休眠預金事業のスタートなどにより、社会的インパクト・マネジメントが地域において広がる素地は出来ているのではないかと思います。

中間支援組織にとって支援先であるNPOの存在は非常に重要です。NPOが活動を行うことによって社会課題が可視化され、解決に向けた取り組みが社会に共有可能な状態になります。それは解決にむけた取り組みやその成果、課題等が可視化、知識化されるということであり、それが「社会課題を操作可能な状態になる」ということに繋がるのです。解決策やリソースを持った多様な外部者を巻き込むことができたり、多様なNPOが集合的に取り組み解決に向かったりということが考えられます。このような状況を作り出すことができると、私達のような中間支援組織のコーディネート力がより活かされる可能性が高まり、それにより社会課題解決に向けた動きが加速していくのではないでしょうか。 そのため、私はNPOの方々がこの社会的インパクト・マネジメントについて理解し、社会的インパクト・マネジメントや評価という観点で動くようになるというのが重要だと思っています。  今後は、評価支援を体験できる機会づくりや、評価者や伴走支援者が孤立しない環境づくり、また実際に助成プログラムに評価を導入して実践する機会を団体に提供していきたいと思います。

 

事例2:公益財団法人 東近江三方よし基金

東近江三方よし基金は、自然資本、社会資本、人的資本、社会関係資本の4つの資本を「地域資源」と呼び、これらを活用して地域資源の再評価や魅力向上、保全活動に関する取り組みを実施したり、ソーシャルキャピタルと呼ばれる人と人との関係性を取り戻す取組みを応援していこうと立ち上がりました。団体名に基金と付いているように、外から資金を調達する機能、地域から出ていく資金を少しでも減少させる機能、また地域の中で資金を循環させる機能を果たしていこうとしています。これまで行政からの助成金や投資、金融機関からの融資という方法を組み合わせ、地域の皆さんの公益活動を応援してきました。

今回は二つの取り組みを紹介いたします。一つは、「東近江の森と人をつなぐあかね基金」という助成金です。山村の文化継承、森林活用、木材利用などをテーマに活動する方々に対する助成金で、三方よし基金が大事にしている「持続可能な社会、東近江を実現する」という目的に沿う事業かを確認するために、また地域の皆さんへの説明が出来るように採択団体には成果目標を設定してもらっています。事業開始時に助成金の8割を支払い、完了時に成果目標を達成していれば残りの2割を支払うという仕組みです。その成果目標を設定する際にも、大きく環境、経済、社会と言う3つの観点に着目した指標を設定してきました。具体的には、環境は里山保全やCO2の排出削減、生物多様性、経済は地域経済への貢献、社会は人と人とのつながりを指しています。助成期間中だけではなく、事業終了後も少し先の目標を見据えながら伴走支援を行うという取り組みをしてきています。

二つ目は、東近江版ソーシャルインパクトボンドという仕組みです。社会課題の解決を社会的投資と組み合わせて実現させるという仕組みで、私たちは2016年から取り組みを開始し、今年度までに19事業に取り組んできました。合計すると1,300万円ほどの出資を募集してきており、出資者数は累計349件となっています。 今日はその中の取り組みの一つである「地域で育む子どもの居場所づくり」という社会福祉協議会が実施した事業についてご紹介します。この事業では、子どもの居場所づくりを通じて、貧困や障害等の様々な理由で孤立している子どもやその保護者と地域をつなぐことを目指しており、今回は特に地域の子ども食堂の意義の周知や認知度向上を目指そうと団体の方とお話して支援を開始しました。成果目標は大きく3つの「質的な変化」を設定しました。一つは対象者のつながりの変化、二つ目は実施団体の変化、三つ目は地域の変化です。実際に成果を測る際には対象者に合わせて様々な工夫を凝らしながら実施する必要がありましたが、それらも全て団体の方が自ら考案し、実施しました。例えば「対象者のつながりの変化」は対象である子ども自身に尋ねるのが良いだろうということで、子供達が回答しやすいように大きなボードを用意して、アンケート項目に対して当てはまるものにシールを貼るという形式で行いました。子どものなかには、子ども食堂に来るようになって「友達が増えた」や「先生や家族以外に話せる大人が増えた」と回答した子も多く、実施者である団体の方が「やっていてよかった、こうした効果があったのか」と感想を持たれていたのが印象的でした。  また、子ども食堂の開始前後で地域の人の繋がり、ネットワークがどのように広がったかを見える化したり、行政の方が子ども食堂について理解が深まったおかげで次年度は行政管轄のコミュニティセンターの使用が可能になったという変化にも繋がりました。

実施してみての私の感想ですが、出資をしてくださった皆さんの声で「お金を出すことで一緒に事業をやっているという自分の喜びに繋がった」というものがありました。このことから「お金というのは思いを繋ぐことができる道具なんだな」ということを実感しています。こうしたように私たちは地域の皆さんの活動が社会に与える変化を見える化し、自分事になっていく方を増加させることで社会が少しでも良い方向に進むことを応援していきたいと思っています。

 

事例3:NPO運営サポート・あの屋

私は、NPOが本来のミッションへ集中できる環境づくりのお手伝いということをミッションに、北海道旭川市にて中間支援、NPO支援をフリーランスで行っています。今回、私からは支援者としてのマインドセットの部分をお話ししたいと思います。 「地域課題解決における課題は何か」を考えると、その一つに地域の人の忙しさというのが挙げられると思います。本業以外にも地域の役割などの二足三足のわらじを履きながら目の前の課題に向き合っている方がとても多いのです。NPOの専従者も多くはありませんし、また中間支援に携わる人も中々増えません。また金銭的な課題もあります。活動の多くは個人負担やボランティアで行われており、中間支援側は儲からず、報酬は少額もしくは現物支給という現場も多い状況です。そうした中で、時間も無くなり、目の前にある現場に対処療法的に取り組むということが第一になってしまっているのではないか、ということを懸念しています。「『未来』を描き、共有すること」、そういった時間を持つ機会が不足してしまっているのです。特に昨年はコロナ禍においては本当に市内各地多くの活動が休止となってしまい、支援者としては本当にもどかしい1年を過ごしています。

私自身についてですが、社会的インパクト・マネジメントと出会う前後でマインドセットの変化がありました。社会的インパクト・マネジメントを知る前は、「いま必要としている支援はなにか」、「解決するにはどうしたらいいか」、「どんなツールを提示したら、この団体はもっとより良い活動ができるようになるのか」等、支援先の団体の人が「どう考えているか」を探るということがメインとなっていたように思います。 ただ、社会的インパクト・マネジメントの研修に参加して、「実現したい未来はなにか」、「その思いの源はなにか」、これらを「問い続ける」というのが外部の支援者の役割ではないか、というマインドの変化が起きました。社会的インパクト・マネジメントには実施における各ステージがありますが、その中において納得感や結果、ストーリーを共有してそれを積み重ねていくために外部の支援者が問い続けることを忘れない。これまでとこれからの成長に思いを馳せて新しい気づきを促す、これが支援者として大事なことかなと思います。

私は、文化、伝統、歴史、未来などを含めた「地域」というものを大事にしなければならないと思っています。たくさんの情報と活動があり、多くの人がリーダーシップを取って社会を動かせる時代になってきました。多様な人が活動に参加し、社会が動く中で、本当に大切なものは何だろうかという事を忘れずに自分たちが住むまちの未来を考えること、それを促す役割として地域の支援者の存在というのはとても大事になってくると思います。 最後になりますが、あの屋は「支援者としての大事なお約束」というのを団体に提示しています。「なぜ、なんのために、誰のために」ということを必ず問うこと、「価値」は異なるということを大事にすること、お互いの専門性を尊重し合い、真摯に向き合う関係性づくりを大切にするということ、これらをこれからも大切に支援を実施していきたいと思います。

 

【コメンテーター:源氏より各発表に対するコメント】

 

本当は皆さんの発表をもっとたくさん聞いていたいところですが、一事例につき一つずつ、ポイントをお話したいと思います。特に冒頭で共有した社会的インパクト・マネジメントという仕組みの中での変化や、重要だと私自身が感じたところを中心にお話したいと思います。 最初の高山さんのご発表の中で非常に印象に残ったのは可視化あるいは知識化という言葉です。評価という道具を使って、地域の様々な立場の人たちの課題や想い、考え方などを共通言語化、可視化していくことは非常に重要だと感じました。改めて社会的インパクト・マネジメントの役割として、一つは、事業を論理的に整理することに加え、地域の文化や培ってきたものを踏まえた自分たちが納得のいく地域のロジックを可視化できるということがあると感じました。また二つ目は、参加者の経験や知見などの暗黙知を共有しながら相互に学びあう場づくりを行うことが可能になるということ、この二つが社会的インパクト・マネジメントの重要な役割だと思います。 2つ目の山口さんのご発表についてですが、冒頭に「三方よし基金は自然資本、社会資本、人的資本、社会関係資本の4つの資本を地域資源と考え、それを循環させていく機能を果たそうとしている」と仰っていました。これは「なぜ私たちはこの事業をするんだろうか」という自分たちの存在意義、Whyの問いかけに対する回答が明確だということだと思います。だからこそ、自分たちの存在意義に合わせて、どのようなものを測定するべきかということが明確になっているのではないでしょうか。自分たちの存在意義が明確になっていれば、例えばソーシャルキャピタルを測ろうとした場合に「どのように測ればよいのだろうか」と迷ったとしても、存在意義に立ち返ることで「これが重要だ」ということが判断できるようになります。そうしたことを踏まえても自分たちの存在意義が明確になっているということは非常に重要だなと感じました。 最後の事例のあの屋さんですが、ご発表の中でマインドセットの変化があったと仰っていました。お話の中で「問い続けるようになった」という言葉がありましたが、問い続けるということはまさに評価の基本だと思います。「これで良いのだろうか」、「何故、やっているんだろうか」と常に問い続けるということが非常に重要です。社会課題は、「ここまで達成したら終わり」ではなく、介入した結果、また色々な課題がでてきます。常に問い続けるという姿勢は、評価の技法の向上とともに評価に取り組む考え方として重要だろうと感じました。

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