Social Impact Day 2020
セッション7:【事例共有】事業者のための社会的インパクト実践事例
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スピーカー:
・山内 泰(一般社団法人大牟田未来共創センター(ポニポニ) 理事)
・天花寺 宏美(一般社団法人コペルニク・ジャパン 代表理事)
モデレーター:
・高木麻美(一般財団法人社会的インパクト・マネジメント・イニシアチブ 理事、Stem for Leaves代表)
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高木
まず社会的インパクト・マネジメントとは何かというSIMIとしての定義をお話したいと思います。社会的インパクト・マネジメントとは「事業運営により得られた事業の社会的な効果や価値に関する情報に基づき事業改善や意思決定を行い、社会的インパクトの向上を思考するマネジメントのこと」と定義しております。 事業の振り返りを行い、その情報に基づいて改善を重ね、社会的インパクトを高めていくものということです。本日は特に「事業の社会的な効果や価値に関する情報」を社会的インパクト評価によって得て、それを活用している事例についてお話をいただきます。
事例紹介①:一般社団法人大牟田未来共創センター(ポニポニ)
大牟田未来共創センター、通称「ポニポニ」がどのような組織なのかをご紹介したいと思います。当センターは大牟田に暮らす誰もがその人らしく生きることに貢献すべく、多様な人、組織と協力しながらまちづくりを進めている一般社団法人です。2019年4月に官民連携により立ち上がりました。大牟田は福祉の領域、特に認知症のケアにおいて「認知症とともに暮らすまちづくり」というのを20年前から掲げて取り組んできた長い実績があります。そういった実績の延長線上に、今までの取り組みを批判的に受け継ぎながらパーソンセンタードという、その中で培われてきた独特な人間観に根ざしつつ活動を行っています。
今回の主題である社会的インパクトに関する取り組みとしては、3年ほど前に実施した厚生労働省のソーシャルインパクトボンド事業が始まりです。介護福祉の領域で「生活支援コーディネーター」という介護福祉の公的サービスの手前の支援をしている人たちがいます。この事業は、「その人たちの取り組みはどのようなインパクトがあるか」を評価してみようという試みでした。
事業としては、「ご近所ケア会議」と「仕事づくり」という2つを行いました。簡単にいうと、介護福祉サービスを受ける前の段階で地域の中で支えあいや繋がりを作ったり、デイサービスの中でリハビリをするのではなく、地域の中で仕事を担うことでリハビリ的効果が生まれることを狙った事業です。これにより、介護保険費用の削減が出来るのではないかという事を考えていました。
初年度にロジックモデルを作って、評価に取組んでみたのですが、結論としては「アウトカムそのものを見直そう」という動きになりました。それは、作成したロジックモデルに対して現場の人からの「違和感がある」というフィードバックがあったからです。私達は当初は、介護保険費用の削減のためにどのような支援を行うかという事を考えていましたが、そうではなく、どうしたら地域の高齢者の方々が「何かしたくなる」のか、モチベーションにどのようにアプローチするのかということを重視すべきなのではないかという事に気が付いたのです。支援の場所を作り、高齢者の人に「どう行かせるか」という視点ではなく、本人の意欲やモチベーションにアプローチするという大きな転換が評価モデルの検討を通して見出されたことでした。
この事業はロジックモデルの見直しを行って終了したのですが、私達が中心となって域外の企業と連携し独自のモチベーションアプローチを進めようとしたり、もしくは行政と健康福祉総合計画という計画策定を一緒に進めています。1つの部署に限った評価ではなく、統合的な視点で評価を取り入れていく必要があるということが分かってきたので、そうした捉え直しも実施しながら計画をしているという段階です。
事例紹介②:一般社団法人コペルニク・ジャパン
コペルニクは2010年から活動をしており、本部がインドネシアにあります。私たち一般社団法人コペルニク・ジャパンは日本法人として、日本で民間企業、公的機関、大学等との連携を中心に行っております。私達は、東南アジアを中心に26か国で活動をしてきました。途上国におけるイノベーティブな技術、製品、サービスを普及させることによって社会課題の解決を目指しており、そのために3つの柱で活動を行っています。それは、コミュニティ支援、実証実験、アドバイザリーサービスです。
本日は上記3つのうち「実証実験」を中心にご説明します。これは、途上国における共通の社会課題を解決するための新しい取り組み、製品、技術、サービスなどを自分たちで開発したり、もしくは開発している人たちとパートナーシップを組みながら、その有効性を実証実験とデータ分析を用いて検証するものです。分野は、エネルギー、水、環境、農業、漁業、教育、保険、女性への経済的自立支援といった多岐に渡ります。
私たちは評価をする組織ではなく、プロジェクトの実施団体です。ソリューションもしくは介入のインパクトを検証して、効果が明らかになってから普及するというのが私達のアプローチであり、こうした目的のために実証実験を行っています。現地ではコミュニティ支援などを通じて実際の現場から課題を発見し、多数の解決アイディアの中から実現可能性、効果の高そうなものをいくつか選び、小規模でまずは実施してみるということをしています。その結果、効果がありそうだと思った方法については、「パイロット」というもう少し規模を拡大して展開をし、最終的に更に大規模で実施するというステップを踏んでいます。
こうしたソリューションを生み出す時に一番大事なのが課題への理解です。そこで、より現場レベルで課題への理解を深めるために、社会課題に直面する人々の現場を360度カメラで撮影した動画コンテンツを制作しました。これらはコペルニクが構築するVR for SDGsプラットフォームに掲載されています。民間企業、教育現場、公的機関とさまざまなプレイヤーと連携をしながら、多くの方の課題理解が促進され、ソリューションを多数生み出す仕組みにしたいと思っています。
プロジェクト実施において私たちが一番大切にしている点ですが、私たちは自団体だけでプロジェクトをやるのではなく、様々なプレイヤーが参画し、お互いの強みを生かしながら活動をしています。民間企業、財団、公的機関、さまざまな方々と連携しながら活動しており、もし何か一緒にやってみたいという方がいらっしゃいましたらぜひご連絡をいただければと思います。
【質疑応答】
Q:社会的インパクト・マネジメントはどのような体制で実施していますか。また、組織にはどのように浸透しているでしょうか。
【天花寺さま】
私達の団体には「評価者」という専任者はおらず、プロジェクトの担当者が実施しています。プロジェクトを設計するときに、「何を検証するのか」ということまで全て設計にいれているので、評価は自分たちのプロジェクトの一部になっています。介入の結果を検証したいという気持ちがあるので、つい調べたい事が多くなりがちなのですが、そこはリソース配分として検証部分はかなり軽めに、かつ「本当に今のフェーズで検証しなければならないこと」に絞って実施しています。
【山内さま】
まず体制ですが、例に挙げた厚労省の事業は、コンソーシアムを組んで取り組んでいますので、コンソーシアムの構成メンバーである地域包括支援センターを受託している医療法人、評価専門家、そして実際の運用は当団体という体制で行っています。また、浸透という意味では、評価の考え方や方法などを庁内で勉強会を開催していただき、有志の職員が参加したり、共有する場というのは積極的に設けていました。
Q:ロジックモデルや実証実験の可視化したり、結果を公開することで、ステークホルダーに変化や反応はありましたか。
【天花寺さま】
ステークホルダーをドナーやクライアントと定義した場合についてお話すると、コペルニクはステークホルダーに対して効果をお示ししながらご支援をいただくということは創業当初からやってきました。現在はそれをより強化していこうとしている所です。特に当初は民間企業からのサポートを頂くことも多く、支援によってどのような効果が生み出せたのかという点を企業目線で説明できたことにより、ビジネスセクターとの連携が生まれていったのではと感じています。
【山内さま】
直接の回答になっていないかもしれませんが、先ほどお話した厚労省の事業のその後をお話したいと思います。評価の再検討のプロセスで見えてきたことに一つに、「介護保険制度」という1つの部門の中だけでアウトカムを設定したり、目標を達成しようとすると、結果としてロジックモデルにおいて構造上の問題が生まれるということがありました。例えば地域福祉計画において、高齢者の問題だけではなく、自殺対策や障がい者福祉など複数の事案に対して対応するためには総合的な視点での枠組みづくりが必要なんです。そこで、厚労省事業終了の翌年度から、高齢者、自殺対策、障がい者福祉など全9つの計画を統合し、一本化した健康福祉総合計画というものを作成し始めました。現在は、私たちと保険福祉局の方で丁寧に話し合いながら1年間かけてこの策定に取り組むという体制になってきています。
Q:「悪い結果」が出てしまった時、どのように対応されていますか?
【天花寺さま】
私たちの考え方として、実証実験の中で明らかになった「うまくいかなかった」事そのものは失敗ではなく、あくまでも「仮説とは違う結果がでた」という捉え方をしています。
コペルニクの存在意義というのは、革新的なソリューションと途上国の社会課題解決を結びつけるというところにあると思っていますので、実際にフィールドでやってみた時に「想定と違った」ということはあり得ることですし、そうしたことをステークホルダーに開示することで「他のアプローチを試してみる」事への理解に繋がります。社内的にも社外的にも「悪い結果=失敗」という受け止め方をしないというのが大切だと思います。
参加者へのメッセージ
【山内さま】
評価は、「良い事だけれども、その良さを表すことが難しかった事」を可視化出来るという面もありますが、私たちの事例のように、そもそも「何を評価しようとしていたのか」や「評価しようとしている事業の前提となっている制度や考え方」など、評価の枠組みを考えていく中で「そもそもの前提」を捉えなおす、という側面もあると思います。そこを疎かにすると現場で大切にしていることは評価できないのではと感じていますし、その点を考えてみることで自分たちが考えるべき論点が明確になると感じています。例えば国や行政との事業においては、大きな枠組みはある程度決まっていますが、その詳細を現場に即して設計する、自分たちなりに捉えなおすという機会が必要です。そこに評価という考え方が入ると自分たちの事業そのものを見つめ直すきっかけにもなるので、これから取り組まれる方はそうした視点もぜひ知っていただければと思っています。
【天花寺さま】
営利、非営利問わず、社会課題解決に取り組んでいらっしゃる方にとって、何故この事業に取り組んでいるのか、何を目指しているのか、そのために何をすべきなのかを立ち返る機会を持つということは非常に重要ではないでしょうか。そのために、事業の効果を測る、検証するということは無くてはならない要素だと思います。ただし、リソースも限られていますので、事業実施と効果検証を行う際には実施団体の出来る規模感を見定めて、みんなで話し合いながら実施するのが大切なポイントだと感じています。
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