2章 社会的インパクト・マネジメントとは

 1章では「社会的インパクト」と、その向上を目指す「社会的インパクト志向」について解説しました。本章では、それを向上させるための「社会的インパクト・マネジメント」の概要について述べます。

社会的インパクト・マネジメント

<定義>

 社会的インパクト・マネジメントとは、事業や取り組みがもたらす変化や価値に関する情報を、各種の意思決定や改善に継続的に活用することにより、社会的インパクトの向上を目指す体系的な活動のことです。

 「社会的インパクトの向上」には、事業や取り組みによって質的・量的に表現される正の社会的インパクトを向上させることと、負の社会的インパクトを低減させることの両方が必要です。また「各種の意思決定」は、事業や取り組みの実施、実施体制の構築と運営、資金提供等を通したそれらへの支援などの際の意思決定を指します。

<目的>

 社会的インパクト・マネジメントの実践は、以下を目的にしています。

  1. 事業や取り組みがもたらす変化や価値に関する学びを得ることで、よりよい意思決定や改善を生み出していくこと(意思決定と改善
  2. さまざまなステークホルダーが目的に応じて事業や取り組みの進捗状況や社会的インパクトに関する情報を入手し、意思決定や改善のプロセスに参加すること(参加・協働の促進
  3. 社会課題解決や社会価値創造を進展させ、またそのための知見の蓄積に貢献すること(課題解決・価値創造への貢献

以上の目的は、社会的インパクト志向宣言の内容を実現させるものとして設定されています。つまり、社会的インパクト・マネジメントの実践には、「インパクト志向」を持っていることが不可欠です。社会的インパクト・マネジメントは、インパクト志向を持つ、すなわち社会課題解決や社会価値創造を志向するすべての団体が実践することが望ましいと考えます。

 これは必ずしも、すべての団体が社会的インパクト・マネジメントを実践すべきということを意味するものではありません。例えば、自分たちの楽しみのために定期的に集まり、活動をしているサークルなどはどうでしょうか。必ずしも社会課題解決や社会価値創造を意識して事業や取り組みを行っているわけではありません。同時に、そのようなサークルが社会課題解決や社会価値創造を志向するようになり、そのための事業や取り組みを行い始めた場合には、社会的インパクト・マネジメントの実践に取り組むことができるでしょう。

 では、社会的インパクト・マネジメントを適用すべき事業や取り組みとはどのようなものでしょうか。後述するように社会的インパクト・マネジメントの実践にはそれなりの時間と労力がかかります。事業や取り組みが目指す社会的インパクト(解決すべき社会課題や創造したい社会的価値)を定義し、これを達成する戦略等をつくりあげ、さらにその効果性を分析する一定のタスクをこなしていかなければなりません。加えて、これら一連の取り組みには様々なステークホルダーが関与することが望ましいとしています。

 以上のことから、社会的インパクト・マネジメントの実践は、ロジックモデル*等を活用して事業戦略を組み立て、これを継続的に発展させることで社会的インパクトの向上を図る事業や取り組みに適していると言えます。即座に対応が求められる緊急的な支援や、戦略としてのロジックの形成等を必要としない比較的単純な事業や取り組みの場合は、社会的インパクト・マネジメントの実践は特に有用とは言えません。

 なお、近年、特にインパクト投資の分野において、社会的インパクトや社会的インパクト・マネジメント実践の考え方について、大きな進展がみられます。その文脈では、     IMP(Impact Management Project)によるインパクトの5つの基本要素や、グローバル・インパクト投資ネットワーク(GIIN)が開発したIRIS+(アイリス・プラス)などが参考になります。インパクト投資では、これらを「インパクト測定・マネジメント(IMM)」の一連の手法として扱うようになってきています。

*ロジックモデルについてはSIMIウェブサイト「ロジックモデル解説」のページをご覧ください。

関連ガイダンス文書
社会的インパクト・マネジメントの7ステップにおけるIMPインパクトの5つの基本要素の活用
社会的インパクト・マネジメントとIRIS+との対応

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インパクト投資におけるIMM(Impact Measurement & Management)

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