Social Impact Day2024 SIMIからのお知らせ

Social Impact Day 2024 開催報告

セッションレポート

※各セッションの登壇者・セッション概要は、こちらをご覧ください


Day1(2024年5月15日)
#1-1 オープニング:『オープニング・トーク』

 Social Impact Dayの開会を告げるオープニング・トークには、高崎経済大学学長、SIMI評議員の水口剛先生とSIIF専務理事、SIMI評議員の青柳光昌氏のご登壇いただきました。

 水口先生は、前日に開催されたインパクトコンソーシアムの第1回総会において、同コンソーシアムの会長に選出されたところでした。青柳氏はインパクトフォーラムのイベントの企画にも関わっておられます。まずは、お2人に、Social Impact Day 2024の連携イベントでもあるインパクトフォーラムの感想をうかがいました。

 続いて、インパクト・エコノミーにまつわる国内外の潮流、海外から日本への期待、インパクト志向の投資家や事業者側、自治体といったステークホルダーの広がりについてお話いただきました。また、Social Impact Day 2024全体のテーマや、注目をしているセッションについてご紹介いただき、これから始まる3日間を、とても楽しみなものとしてオープンしました。


#1-2 基調講演①:『インパクト会計をめぐるグローバルな潮流と今後』

 インパクト会計は、企業が人々や自然環境に与えるインパクトを測定及び貨幣価値評価するための枠組みです。本セッションでは、バリュー・バランシング・アライアンス(VBA)CEOであるChristian Heller氏にインパクト会計のビジョンや概要、取り組む意義について講演をいただきました。Heller氏は、前日のインパクトフォーラムにも登壇されています。その感想として、日本には政府、インパクト投資家、スタートアップ、大企業等を巻き込む大きな流れが来ていること、日本はグローバルのシステムチェンジの実現において主要な役割を果たしうるという期待のコメントがありました。

 続いて、三菱ケミカルグループ(株)執行役員、チーフサステナビリティオフィサーの三田紀之氏、IMDビジネススクールEMBAプログラム長、ソーシャル・イノベーションの教授であるVanina Farber氏に加わっていただき、パネルディスカッションを行ないました。パネルディスカッションでは、インパクト会計がソーシャル・イノベーションにどのように寄与しうるか、企業のマネジメントにおける活用の在り方、先進的な取り組みを行う企業にとってのメリット、インパクト会計に関する人材育成、企業が実践するにあたっての課題といった多様な項目についてご意見を頂きました。

 インパクト会計は、非財務情報を定量化するよりもさらに難しいものとしてとらえられがちです。しかし、意欲的に研究・試行を続けるフロントランナーのお話から、その意義を改めて感じることができました。


#1-3 スペシャルセッション①:『コレクティブインパクトで目指す新たな資本主義「共助資本主義」の実現』

 本セッションでは、「共助資本主義」の実現に向けて、経済同友会、インパクトスタートアップ協会、新公益連盟の3団体の代表者が、企業経営者、スタートアップ企業、NPOそれぞれの視点を基に議論しました。各団体の立場から、共助資本主義が掲げられた背景や意義、具体的な取り組み、今後の展望などが語られました。背景や課題については、これだけ社会課題が多岐にわたり、複雑・多様化している中においても、企業経営者の中には、それら課題への解像度がまちまちである、との問題意識があり、今回の3団体での取り組みがスタートした、とのことでした。実際に、企業経営者がNPOやインパクトスタートアップの事業現場を訪れ一緒に業務を行うことで、まずは頭だけの理解から体感をする試みをしているとのことです。このような現場体験を通じて、営利・非営利セクターの協力が生まれ、社会課題解決に向けて新しい価値を創出していくことが期待されます。こうしたことが、これまでの資本主義がアップデートされることであり、企業経営そのものが社会課題の解決に向けて事業展開されることが求めらる、との認識が示されました。一方で、アップデートされた資本主義だけでは社会課題のすべてに対応できるものでもなく、だからこそ非営利セクターであるNPOの役割もより一層重要となっている、との指摘もありました。


#1-4 基調講演②『チャイルドレンズ投資とは〜将来世代を最優先に考える投資フレームワークの紹介』

 基調講演の2つ目として、UNICEF Innovative Finance Hub の ロスタミ氏より、チャイルドレンズ投資の紹介がありました。現在、世界では10億人の子どもが生きるのに必要な食料、衛生、住居, 保健サービスと教育へのアクセスがありません。豊かな国である日本においても、先進諸国31カ国の中で、子どもの相対的貧困率は31カ国中22位の14.9%など、子どものウェルビーイングを支援する方策が決して十分とは言えません。

 チャイルド・レンズ投資フレームワーク(CLIF)は、100以上のパートナー機関とともに国連児童基金(UNICEF)が開発した、子ども分野の投資に限らず、子どもの目(視点)から持続可能な社会のための投資を考えるものです。例えば、電力網から外れた地域に安い電気を提供することで子どもが夜に勉強することができるようになる、安い生理用品を提供することで女子が通学しやすくなる、公共交通手段をバリアフリーにすることで障害のある子どもたちも学校に通うことができるようになる、等、その活用範囲は広範な分野に及びます。

 今回、日本で初めてCLIFについて紹介する機会となったことを捉え、ロスタミ氏は、日本の官民関係者の関心が集まることの期待を述べ、UNICEF、インパクト投資家、金融機関、その他のステークホルダーの間で、CLIFについての試験運用、データ収集含めた、広範な協力が必要であることが強調されました。


#1-5 基調講演③:『インパクト投資におけるインパクト・マネジメントの現状と課題〜BlueMark の最新ベンチマークレポートをもとに』

 基調講演の3つ目として、BlueMark CEO のレーヨンフブット氏より、サステナブル・インパクト投資市場の信頼性と透明性を強化するためのインパクト・マネジメント検証の重要性についての解説がありました。BlueMark社は、「インパクト・マネジメントのための運営原則」含め、インパクト投資に関する第三者検証サービスを中心事業に据え、インパクト測定・マネジメント(IMM)の業界標準を世界に広げる取り組みを進めています。氏は、ステークホルダー・エンゲージメント、インパクトの持続可能性、意図せざるインパクトの検証など、インパクト・マネジメントにおける海外の新しい潮流を紹介しました。また、本基調講演において、5回目の発表となるBlueMarkの年次報告書、「メイキング・ザ・マーク」のグローバルリリースがありました。この報告書の中で、インパクト投資家の61%がセオリー・オブ・チェンジを作成していること、33%がインパクトの創出に関してスタッフの報酬を調整するインセンティブ制を導入していること、75%が投資決定時点で投資家の貢献に関する評価を行っていること、などが報告されていることの紹介があり、日本のインパクト投資関係者にとって示唆に富む内容になっていることが示されました。


#1-6 スペシャルセッション②:『本質的な社会課題解決を促す「システムチェンジ投資」とは』

 インパクト投資がグローバルで「量的な拡大」を続けるなか、「インパクト投資は本当に社会・環境課題を解決できるのか?」「そのためにインパクト投資の実践者はどのような自己変革を成し遂げていけばよいのか?」といったインパクト投資の「質的な深化」に対する課題意識から、インパクト志向の資金提供やインパクト測定・マネジメントの推進に留まらない多様なアプローチを通じて構造的課題の根治やありたい世界の実現を目指す「システムチェンジ投資」の試行錯誤が始まっています。本セッションでは、先進的な取組を推進しているTransCap Initiativeが得た洞察や示唆を同団体のDominic氏から共有頂きながら、システムチェンジ及びシステムチェンジ投資に関する現時点での概念や定義の整理を提案し、日本国内で試行していくために必要な取組や課題に関する議論を行いました。


#1-7 協賛セッション①:『インパクトエコノミーにおける金融の役割』

 本セッションでは金融機関がインパクト経済の実現に向けて果たすべき役割について議論されました。金融機関はインパクト創出のためにステークホルダー、特に顧客と協力し、インパクトを評価する金融市場を活用し、組織全体でインパクト志向を浸透させることが重要だと指摘がありました。また、インパクトの創出には意図を持つことが不可欠であり、金融機関自身がどのような社会を描くのかというビジョンを明確に持つ必要があると述べられました。さらに、金融の役割は、社会課題の現場の声に耳を傾け、適切な資金の流れを作ることだとの指摘がなされました。


#1-8 協賛セッション②:『「インパクトの創出」と「収益の創出」の好循環を実現するインドのインパクト企業に迫る!』

 本セッションではSITARAのシュルティ ゴンザルベス氏からSITARAの金融サービスがもたらすインパクトに関する発表をいただきました。世界最大と言われる女性自営労働者組合であるインドのSEWAから派生したインパクト企業SITARAは、元来金融サービスの顧客として見向きもされない低所得者層で、担保になる資産も信用情報もない女性たちに、人生最大の資産となりうる「住宅を所有する」という夢を、住宅ローンサービスを提供することで形にし、彼女たちの人生に甚大なインパクトをもたらしています。

 詳しくは、以下の笹川平和財団のイベント報告ページをご覧ください:
https://www.spf.org/gender/news/20240610.html


Day2(2024年5月16日)
#2-1 スペシャルセッション③:『パーパス経営と社会的インパクト: 持続可能なビジネスの新たな可能性』

 本セッションではSITARAのシュルティ ゴンザルベス氏からSITARAの金融サービスがもたらすインパクトに関する発表をいただきました。世界最大と言われる女性自営労働者組合であるインドのSEWAから派生したインパクト企業SITARAは、元来金融サービスの顧客として見向きもされない低所得者層で、担保になる資産も信用情報もない女性たちに、人生最大の資産となりうる「住宅を所有する」という夢を、住宅ローンサービスを提供することで形にし、彼女たちの人生に甚大なインパクトをもたらしています。


#2-2 スペシャルセッション④:『Beyond Impact Investment:インパクトエコノミー実現の2ndステージへ ~GSG Japan NAB設立10周年に、次の10年戦略を構想する』

 インパクト投資の歴史的経緯から、2013年のG8サミットでのキャメロン首相の提唱を受けて設立されたグローバル・ステアリング・グループ(GSG)の活動の紹介の後、今後のインパクトエコノミーの創出に向けた可能性について議論いただきました。日本においては、2015年から2017年にかけてインパクト評価の仕組みづくりなどのインフラ整備が行われ、2018年から2020年にかけては、政策的にも実務的にもインパクト投資の議論が深まり、2021年以降は金融庁によるインパクト志向金融の推進や、新しい資本主義実現会議の設置など、インパクト投資を後押しする動きが加速しています。本セッションでは、今後10年間でインパクト投資からインパクトエコノミーへの移行が生じ得ることへの期待感を踏まえ、企業がインパクト志向の経営を行いイノベーションを生み出すことで、社会課題の解決を目指すことが重要視されていく動きが生じるのではないかといった議論がなされました。そのような進展に向けて、インパクト評価の手法や報告のあり方、事業会社の取り組み事例、人材育成の重要性などについても意見交換がされ、今後は小さな実践から始め、お互いに学び合いながらインパクトエコノミーの実現を目指すことが提案されました。


#2-3 通常セッション①:『上場するインパクト企業:インパクト拡大と事業成長を実現するための経営と資本市場との向き合い方』

 インパクト企業が上場後もインパクトを創出しながら持続的な企業価値の向上を実現するために、経営マネジメント、情報開示、投資家との対話のあり方について、GSG国内諮問委員会インパクトIPOワーキンググループから2024年5月に発行されたばかりの「インパクト企業の資本市場における情報開示と対話のためのガイダンス」を参考に、議論されました。

 パネリストの方々からは、インパクト企業の立場や投資家の立場から、実際の取り組みや課題や気づきについてご共有いただきました。議論の中では、インパクトのKPIを設定し、経営陣でモニタリングすることの重要性や、事業のKPIとインパクトのKPIを一致させることで、事業の成長とインパクト創出を両立できる可能性が語られました。

 また、上場企業では、インパクトの取り組みを経営戦略の中核に据え、社内外に対してコミットメントを示すことが重要という点から、インパクト情報の開示については、ホームページでの情報発信に加え、投資家向け資料の作成が求められるといったお話もありました。開示内容や対話の在り方については、ガイダンスを参考にしつつ、投資家との対話を通じて検討が必要であり、投資家側としてはインパクト企業の長期的な事業成長性を評価する必要があることから、企業との対話を通じて、インパクト創出の取り組みを理解し企業価値向上につながるかを判断することが重要であると考えられます。

 インパクト企業が増えるためには、健全な起業家精神を発揮できる環境づくりと資本市場の活用が重要であり、市場に関係する様々なステークホルダーの取組が今後期待されます。


#2-4 通常セッション②:『高齢化するアジアにおけるインパクト創出に向けたフィランソロピーと投資の触媒的な役割』

 本セッションは、インパクト投資やベンチャーフィランソロピーに関わる600を超える資金提供者で構成されるアジア最大のネットワークであるAVPNとの共催で行われました。超高齢化社会の日本をはじめ、アジア各国で高齢化が進んでおり、アジアにおける65歳以上人口は2060年までに12億人を超えると言われています。こうした高齢化社会に対して、日本からベータ・ベンチャーキャピタル株式会社の渡辺麗斗氏、台湾から中華民国年金基金協会のFrancine Wu氏、中国からHeroad Investments/Heroad FoundationのHaoling Zhang氏、そしてシンガポールからTemasek財団のWoon Saet Nyoon氏がスピーカーとして登壇し、それぞれの国や地域における高齢化社会の課題とそれらの解決に向けた事例が紹介されました。介護ロボットやAIなどの技術の活用、民間企業による高齢者向けサービスの提供、行政と民間の連携などに加えて、フィランソロピーやインパクト投資の役割についディスカッションがなされました。フィランソロピー・インパクト投資、行政、民間企業など、多様なセクターが連携し取り組みを進めていくことが重要であることが示唆されました。


#2-5 通常セッション③:『ソーシャルインパクトの「呼び水」〜日本における触媒的資本の活用〜』

 このセッションでは、ソーシャルインパクトの拡大とその土台となる財務基盤づくりのツールとして欧米を中心に概念整理と実践が進む「触媒的資本」について、日本での応用・発展の可能性を探るディスカッションが行われました。ゲストには、日本でソーシャルインパクトの拡大を目的に活動する資金提供を行われているプレイヤーとして、JANPIAの小崎亜依子氏とみてね基金の岨中健太氏にご登壇いただきました。JANPIAで休眠預金を活用したインパクト投資事業を立ち上げた小崎氏、みてね基金で非営利団体への2つの助成プログラムを通して基盤強化(ステップアップ助成)とソーシャルインパクト拡大(イノベーション助成)を支える岨中氏それぞれの資金提供の取り組みについて話題提供いただいた後、モデレーターの進行のもとディスカッションを実施。投資・助成それぞれの立ち位置からソーシャルインパクトの呼び水となる資金提供を行うお二人との対話から、「インパクト創出やシステムチェンジに関わりたい多様な投資家(VC、アセットマネージャー、財団、個人富裕層等)のゆるやかなネットワークをつくり、情報や知見を交換・進化させていくこと」が、日本における触媒的資本の多様性と総量の増加のために必要では、とのポイントが示唆されました。


#2-6 協賛セッション③:『ショートピッチセッション:インパクト創出への取り組み』

 本セッションでは、インパクト創出に向けた取組事例をインパクトサークル株式会社、中央日本土地建物株式会社、ニッセイアセットマネジメント株式会社、農林中央金庫様の4団体に紹介いただきました。インパクトサークル株式会社様からは、インパクト可視化やインパクトファイナンスに関する事例、今後ツール開発にも取り組んでいくこと等が紹介されました。中央日本土地建物株式会社様からは、社会的インパクトのある活動創出を目指した官民共創によるエコシステム構築の場である虎ノ門イノベーションセンター設立に向けた取り組みが紹介されました。ニッセイアセットマネジメント株式会社様からは、自社だけではなく業界全体の変革を目的とし、GSG高排出企業と技術革新に繋がるソリューション企業へ投資するクライメート・トランジション戦略ファンドの取り組みを紹介されました。農林中央金庫様からは、パーパスと中期ビジョンの実現に繋がるインパクト創出を目指す取り組みとして、インパクト投資や全社的な社会的インパクト・マネジメント導入に向けた試行等の取り組みを紹介いただきました。全体を通して、インパクト・エコノミー実現に向けた主要な要素である、インパクトデータ、企業のインパクト主流化、インパクト投資の多様化、認知・繋がりなどの事例がわかるセッションとなりました。


#2-7 協賛セッション④:『インパクト“K”プロジェクト座談会 ~業界をリードするインパクト投資家が、実効性のあるインパクトファンドの実現を語る~』

 インパクト”K”プロジェクトは、かんぽ生命が独自に定めるインパクト投資の認証フレームワークです。本セッションでは、同プロジェクトの認証を受けたインパクト投資家である慶應イノベーション・イニシアティブの宜保友理子氏、GLIN Impact Capitalの秦雅弘氏、SIIFインパクトキャピタルの梅田和宏氏とかんぽ生命保険の松本英高氏が座談会形式で語り合いました。

 まず、各登壇者が自己紹介と自社のインパクト投資について紹介し、松本氏からはインパクト”K”プロジェクトの概要の説明がありました。次に、インパクト”K”プロジェクトに参加してよかったこと・大変だったことについて、座談会の名の通りざっくばらんにさらにお話いただいたうえで、インパクト投資の実効性を高める方法について議論しました。

 最後には、参加者へのメッセージも込めて、インパクト投資業界の発展に向けて必要なことについてご意見をいただきました。具体的には、国際社会への現場の気づきの発信、意味のあるインパクト指標の設定、インパクト投資の認知度向上とハードルの提言、様々なステークホルダーとの幅広い連携等が挙げられました。各社のインパクト投資は様々でありながら、インパクト”K”プロジェクトに集う投資家として共有する志を感じられたセッションでした。


#2-8 通常セッション④:『データから見る日本におけるインパクトエコノミーの現状』

 SIIFでは毎年、インパクト投資に関するフラッグシップ的な調査を実施しています(1.日本のインパクト投資額を把握するための主に金融機関向けのホールセール調査、および 2. 消費者動向、意識を探るためのリテール調査)。

 本セッションではサステナビリティ金融の専門家である太田珠美氏(大和総研主任研究員)と、フィナンシャルプランナーの工藤清美氏(エフピーブラッサム代表)のお2人をお招きし、上記2つの調査で蓄積されたデータとインサイトを基に、インパクト投資を今後拡大していくための方策を議論頂きました。お2人からは個人の投資人口拡大と、インパクト投資の認知度向上が課題として挙げられ、2024年から日本で導入された新NISAによってリテール市場で今後大きな変化が起こる可能性が指摘されました。更に若年層に対する金融経済リテラシー教育の重要性が指摘され、銀行界、証券界と連携してインパクト投資のコンテンツを盛り込むというアイデアも提示されました。また、ホールセール市場におけるインパクト投資拡大のためには、経営層の関心喚起や効果測定手法の確立が重要であることが提起されました。


#2-9 通常セッション⑤:『国連「持続可能な開発パフォーマンス指標(SDPI)」のご紹介〜サステナビリティ指標を持続性達成に必要な水準との相対的評価において考える』

 国連社会開発研究所(UNRISD)のイー氏より、持続可能な開発パフォーマンス指標(SDPI) についての解説がありました。SDPIは、現行のESG関連のパフォーマンス指標の限界を指摘し、より有効に「持続可能性」を測る指標の策定を目的とするもので、現在、広く使用されてESG関連の指標が、対象とする取り組みがどれだけ持続可能性の達成に寄与しているかということを示していないというのが問題意識から開発されたものです。

 SDPIは「持続性達成に必要な水準との相対的評価においてのみ、本質的なインパクトが測れる」という考えに基づき、環境・社会・ガバナンスそれぞれの分野で設定された「達成水準」(例えば、組織内のジェンダー構成、最低賃金ではなく最低生活賃金の確保、国際合意に基づく期限付きのネットゼロ排出量など)と、企業の活動分野や所在地にもとづく「公平な割り当て」(例えば、アクセス可能な水資源量や、その水資源を使用している人たちの数に基づいた使用量)を定めるものです。

 SDPIのオンラインプラットフォームは、2022年にベータ版が、2023年に v1.0版がリリースされています。二層構造で、第一層の20指標は、UNCTADが定める、経済・環境・社会・ガバナンスの分野ですでにESG開示・報告に使われている指標、第二層に区分された41の指標のうち、17が「持続性達成の水準」との比較においてパフォーマンスを評価する、新たに開発された指標です。

 今後、日本でもSDPIへの注目、活用が高まることが期待されています。


#2-10 通常セッション⑥:『次世代が語る「インパクト・ファイナンス」の今後。~ここが変だよ。インパクト投資。今後の目指すべき方向性とは?』

 インパクト志向金融宣言が走りだしてもうすぐ3年が経ちます。署名機関によるインパクト・ファイナンスの残高も署名機関数も順調に伸びてはいますが、日本、そして世界におけるインパクト・ファイナンスはあるべき方向に向かっているのでしょうか? 原則や型、方法論が洗練されることは大事であるが、何か大切なものを見逃してはいないでしょうか? 今欠けている視点は何でしょうか? セッションでは、インパクトファイナンスに対して感じる違和感等のアンケート結果の紹介をおこない、日本でも広がりが見られるインパクト・ファイナンスについて、関係者が持っている素朴な疑問点を共有いただきました。主にあがった論点は、インパクトファイナンスの定義の曖昧さ、経済性と社会性の両立、実績の積み重ねの重要性、チャレンジできる環境づくりなどでした。


Day3(2024年5月17日)
#3-1 通常セッション⑦:『インパクトエコノミー時代を体現する新しい起業家たち』

 本セッションでは、SIIFの連載企画『インパクトエコノミーの扉』と連動する形で、インパクトエコノミー時代ならでは起業家2名をお呼びし、事業内容についてのプレゼンテーションが行われました。具体的には、まずモデレーターであるSIIF古市氏がリードする形で『インパクトエコノミーの扉』の解説や、それぞれの事業がインパクトエコノミーやシステムチェンジにどのように関わるかについて解説がありました。その後起業家のプレゼンテーションへと移り、まずONTHETRIP成瀬氏が、オーディオガイドを作成する事業等について説明し、観光地の価値向上と収益増加を目指す取り組みを紹介しました。続いてN-ARK田崎氏が、気候変動に伴う海面上昇と気候難民問題に対処するため、水上都市の開発を目指す「N-ARK」の事業概要を説明しました。単に事業内容を説明するだけでなく、両社ともにインパクトエコノミーにつながるどのような新しい観点があるのかということをテーマに、各内容を深堀りするセッションとなりました。


#3-2 通常セッション⑧:『財団によるインパクト志向の取り組みの最前線』

 本セッションは、社会的インパクトを重視する2つの財団である川野小児医学奨学財団 事務局長 川野 紘子 氏、一般財団法人 ミダス財団 事業統括 玉川 絵里 氏)にお越しいただき、それぞれの財団法人が実践するインパクト志向な取り組みの具体例、財団によるインパクト志向の取り組みの最前線を紹介いただきました。

 川野小児医学奨学財団は、創設者の思いを受け継ぎ、小児医療や医療従事者への支援を行っています。長年の活動を通じて、単に支援するだけでなく様々なステークホルダーと連携して子どもの健康問題に総合的に取り組む必要性を感じるようになりました。そこでミッション再定義、戦略策定、効果測定のプロセスを経て、「みんなで乗り越える」をテーマに据え、多職種連携による課題解決を目指しているという説明をいただきました。

 ミダス財団では、社会課題の中から「特別養子縁組」を選定し、PO法人と連携して取り組む新興財団です。営利を追求しない分野こそ財団が関与すべきとの考えから、NPOとの協働により、大きな目標達成を目指しています。今後は他の社会課題についてもNPOと連携し、1億人の人生にポジティブな影響を与えることを目指しているというお話をいただきました。

 日本には管理型の財団が多いですが、このようなインパクト志向の財団が増えることで、社会課題解決が促進されていくことを願っています。


#3-3 通常セッション⑨:『「IMPACT SHIFT」を経て見えてきたもの 〜Z世代の4人がインパクトのこれからを考える』

 2024年3月3日(日)に約650名の来場者を迎えて実施したイベント「IMPACT SHIFT」。この場では、インパクトスタートアップ、ゼブラ企業、ソーシャルセクターなど、社会課題解決にまつわる様々なセクターが、業界横断で議論しました。このイベントを企画したのは組織を超えた20代を中心とする実行委員会です。

 本セッションでは、IMPACT SHIFT実行委員会に所属するZ世代の4名が、これからのインパクトのあり方やこれから向き合う未来について、IMPACT SHIFTを経て感じたこと・考えたことを共有しました。

 モデレーターの一柳さんからは、「業界はHow(方法論)で切られてしまう」ことに対する指摘があり、さまざまなレンズを通して物事を見ること、業界の垣根を越えた繋がりの重要性をあらためて確認する場となりました。3日間のSocial Impact Dayに参加してみての率直な感想を語り合うアットホームな雰囲気でした。


#3-4 通常セッション⑩:『”B” THIS WAY FORWARD ~日本で動き出すB Corpムーブメントの最新動向』

 日本での注目度も上がっているB Corp認証。単なる「よい企業」の認証でなく、Bムーブメントのコミュニティを作り、ビジネスを力を使ってより包摂的(インクルーシブ)で公平(エクイタブル)で再生力のある(リジェネラティブ)な経済社会に変革していくことを目指しています。2006年に米国フィラデルフィアで始まり、世界95カ国以上の国に広がっています。認証企業は、世界で8500社、日本では2024年3月時点で40社を超え、パタゴニア、オールバーズ、ダノンといったグローバル企業の認証などもあって認知が拡大しています。

 本セッションでは、Bムーブメントを担う非営利団体であるB Lab Globalの日本支部にあたり、今年に入って設立された一般社団法人B Market Builder Japanの共同代表である

 溝渕由樹さん(株式会社ovgo 創業者)と鳥居希さん(株式会社バリューブックス 取締役)が登壇しました。日本におけるB Corp認証企業の40社に加え、審査待ち国内企業が40社以上、国内展開する海外B Corpを合わせるとすでに100社以上が日本で活動していることや、欧米での認知度は30%以上、特に北米のZ世代・ミレニアル世代における認知は50%以上であることなどが紹介されました。日本での盛り上がりを受け、B Corp認証サポートや、Bムーブメントのための各種活動を行っていく抱負が語られました。


#3-5 クロージング:『クロージング・トーク』

 この一週間はSocial Impact Day の開催と共に、金融庁インパクトコーソーシアム設立によるインパクトフォーラムの開催やSusHi Techの開催など、「インパクト・ウィーク」であり、インパクトを巡る様々な動きがあり、モメンタムを感じることができた、日本から世界にインパクトを発信できたのではないかという感想が述べられました。

 Social Impact Day 2024の多数のセッションからもわかるように、システム・チェンジに向けて、それぞれの立場で、多様な取り組みが進んでいるが、インパクトへの目線やベクトルが同じ方向に向いてききているのではないか、という発言がありました。システム・チェンジとはメカニックの様に、なにかにより一気に変化が起きるのでなく、それぞれの立場、目的で取り組んでいくことで、徐々に変化が生まれていくのではないか、新しい生態系が自然発生的に生まれていくような流れや変化を大事にしていくべきではないか、という感想が述べられました。

参考資料

Social Impact Day 2024を終えて(SIMI理事 高木麻美)
開催報告(PDF版)

これまでのSocial Impact Day

第7回(2023年2月1日、2日、3日)新しい社会経済の形〜インパクト・エコノミーの社会実装
第6回(2022年1月21日、22日、23日)インパクト・エコノミーへの転換点– 社会的インパクト時代の到来 –
第5回(2021年1月23日、25日、26日)3 days – Act on your Social Impact
第4回(2019年7月2日)インパクト測定とインパクト・マネジメントのエコシステム形成に向けて
第3回(2018年6月27日)社会的インパクト「評価」→「マネジメント」へのシフト
第2回(2017年6月29日)社会的インパクト評価推進に向けたロードマップ
第1回(2016年6月14日) いよいよ動き出す社会的インパクト評価の未来

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