Social Impact Day 2025 SIMIからのお知らせ

Social Impact Day 2025 開催報告

開催概要

● 日程:2025年5月14日(水)、5月15日(木)、5月16日(金)
● 場所:オンライン(Day1-3 セッション)/笹川平和財団ビル(Day3 対面交流会)
● 主催:一般財団法人社会的インパクト・マネジメント・イニシアチブ(SIMI)
● 共催:一般財団法人社会変革推進財団(SIIF)
● 協賛:株式会社みずほフィナンシャルグループ、株式会社かんぽ生命保険、アビームコンサルティング株式会社、株式会社クレディセゾン、インパクトサークル株式会社、ソーシャス株式会社、LINEヤフー株式会社
● 後援:金融庁
● 特別協力:中央日本土地建物株式会社、公益財団法人笹川平和財団、一般社団法人IMPACT SHIFT
● セッション共催:インパクトコンソーシアム、GSG Impact JAPAN National Partner、インパクト志向金融宣言(IDFI)、Value Balancing Alliance(VBA)、特定非営利活動法人ソーシャルバリュージャパン、一般社団法人トラスト・ベースド・フィランソロピー・ジャパン

セッションレポート

※各セッションの概要・登壇者は、こちらをご覧ください


▼ Day1(2025年5月14日)
【基調講演】「ベータ・アクティビズム」への招待〜資本主義の土台を動かす

SID2025基調セッションでは、ジョン・ルコムニク氏とジム・ホーリー氏によるベータアクティビズムの紹介とアクションへの呼びかけがありました。

主要な論点として、現代ポートフォリオ理論(MPT)の3つの基本的前提(合理性、ランダムウォーク理論、効率的市場仮説)が説明され、金融の世界において常識として扱われているMPTの限界と現実世界との乖離が指摘されました。特に重要な点として、システミックリスクを抱える今日の世界において、従来の投資理論を超えた新しいアプローチの必要性が強調されました。

<キーポイント>
– 現代ポートフォリオ理論(MPT)の3つの基本前提
合理性(ホモエコノミクス)、ランダムウォーク理論、効率的市場仮説という3つの重要な前提について詳細な説明がなされ、これらの概念の限界と現実世界との乖離が議論されました。

– ベータアクティビズムとシステミックリスク
投資リターンの75-94%がシステミック要因によって決定されることが説明され、従来のポートフォリオ管理を超えた新しいアプローチとしてのベータアクティビズムの重要性が強調されました。

– 日本市場への期待と展望
日本の強みとしてコンセンサス形成能力と長期的視点が挙げられ、GPIFなどの機関投資家の役割の重要性が指摘されました。システミックな問題に対する日本独自のアプローチの可能性が議論されました。


【セッション①】地域主導のインパクト・エコノミーへの挑戦~Place based impact investingの可能性と課題~

本セッションでは、地域に根ざした社会的インパクトを創出する「地域協働型インパクト投資:Place-Based Impact Investing(PBII)」の意義と実践に関して、投資家・事業者双方の視点から議論が行われました。登壇者は、社会変革推進財団の加藤有也氏、うむさんラボ代表の比屋根隆氏、NEWLOCAL代表の石田遼氏。なぜ地域に着目するのか、何が難しく、どこに可能性があるのかを実践ベースで掘り下げました。

加藤氏は、従来のインパクト投資では十分に捉えきれなかった「複合的な地域課題」へのアプローチとしてPBIIの重要性を指摘。比屋根氏は、沖縄で立ち上げたインパクトファンドや助成・融資・出資など多様な財源を組み合わせたインパクトファイナンス・リレーの実践など、地域ぐるみの変革モデルを紹介。石田氏は、全国複数地域での共同会社設立・運営を通じて、地域固有の課題に合わせた事業設計とファイナンスの構築、住民との協働の工夫を語りました。

登壇者3名それぞれが「なぜ地域に着目するのか」について実践から語り合い、議論が深まりました。石田氏は、地域には未開拓の市場や多様な魅力があり、地域リーダーとの共同起業によってそれを開く可能性があると述べ、比屋根氏は、地域には関係性資本(人と人とのつながりや信頼)が今も強く残っており、これこそが社会変革の基盤だと強調しました。加藤氏は、地域は小さな社会圏として手触り感のあるシステム変革の実装単位であり、地域の未来を自ら構想する動きこそが希望につながると感じた実体験を紹介しました。

その一方で、PBIIの実践における難しさも議論されました。インパクトの定義や測定が地域ごとに異なり標準化が難しいこと、投資家と地域とのあいだで成果の時間軸や判断基準にずれがあること、意思決定権をどこまで地域に委ねるか、そして協働をどう設計するかといった構造的なジレンマについても、それぞれが具体的な経験を踏まえて課題を共有しました。

地域主導によるインパクト・エコノミーの実現に向けて、投資家も単なる投資先としてではなく、地域とどう向き合い、自らの行動を変えていけるかが問われるセッションとなりました。


【セッション②】『インパクト投資は世界をよくしているか』論争を超えて ~それぞれの山の登り方を理解する~

本セッションは、モデレーターを小笠原氏(インパクト志向金融宣言 事務局長代理)が務め、山中氏(一般財団法人KIBOW インパクト・インベストメント・チーム 代表パートナー /グロービス経営大学院教員)、岡本氏(農林中央金庫 経営企画部 サステナブル経営班 部長代理)、谷津氏(株式会社三井住友銀行社会的価値創造推進部 事業企画グループ)が登壇し、インパクト投資に関するパネルディスカッションを行いました。

まず山中氏から、KIBOW社会投資ファンドについて、累計27件の投資実績があり、社会課題解決型の投資を行っているとの説明がありました。特に子供の自殺防止、LGBT向け不動産、地域活性化など、具体的な投資事例を共有しました。岡本氏からは、農林中央金庫について、2030年までに新規サステナブルファイナンス10兆円の目標を掲げており、現在7.7兆円まで達成しているとの説明がありました。特に農林水産業との関連で、環境・社会課題への取り組みを強調しました。また、谷津氏からは、三井住友フィナンシャルグループについて、インパクト投資の評価方法や、ケニアでの現地調査など、実践的な取り組みについて共有がありました。特に、経済的価値だけでなく社会的価値の創造の重要性を強調しました。

主な課題として、インパクトの測定・評価の難しさ、組織内での理解促進、長期的な成果の可視化などが挙げられ、岡本氏は組織内での主流化の難しさと実績蓄積の必要性を指摘しました。また、谷津氏は評価の目的化や第三者検証の重要性について言及し、山中氏は本質的なインパクト創出の難しさと、投資先へのアンケート調査結果(インパクトの変化が「少し増えた」や「変化なし」)について共有しました。

今後の展望として、セクター間連携の重要性やシステムチェンジの必要性について議論され、山中氏はソーシャルセクターや行政との連携の重要性を強調し、谷津氏はシステムチェンジの必要性と社会構造そのものの変革の重要性を指摘しました。


【協賛セッション①】自然資本・生物多様性をインパクトで読み解く

本セッションでは、東急不動産ホールディングス(古賀氏)、王子ホールディングス(斎藤氏)、みずほフィナンシャルグループ(平野氏)が登壇し、大谷氏(みずほフィナンシャルグループ)の進行により、自然資本と生物多様性の分野でのインパクトの取り組みの進展について取り上げました。

<キーポイント>
冒頭に、みずほフィナンシャルグループの大谷氏が、自然資本・生物多様性をインパクトで読み解くというテーマについて紹介し、サステナビリティの課題として、脱炭素に加えて自然資本・生物多様性への取り組みの重要性を説明しました。

– 東急不動産の古賀氏は、広域渋谷圏での都市開発における生物多様性への取り組みと、長野県蓼科での自然共生型リゾート開発について報告しました。特に表参道の屋上庭園では170種以上の生物種が確認されています。

– 王子ホールディングスの斎藤氏からは、国内外で約63.5万ヘクタールの森林を保有し、その30%を環境保全林として維持していること、17社(総面積1800万ヘクタール)と連携し、国際的な持続可能な森林管理の取り組みを推進しているとの報告がありました。

– みずほフィナンシャルグループの平野氏からは、自然資本インパクトファイナンスを新設し、企業の自然資本への取り組みを評価・支援する金融商品を開発しており、UNDPと連携して事業推進をしている報告がありました。

討論では、環境・社会課題の統合的解決の重要性、企業間連携の必要性、そして金融機関の役割について意見が交わされました。特に、単独での取り組みの限界と、様々なステークホルダーとの協働の重要性が強調されました。


【セッション③】信頼を礎に学習と変革を促進する~トラスト・ベースド・フィランソロピーの可能性

本セッションでは、助成者と非営利団体が信頼を基盤としたパートナーシップを築くことによって、柔軟かつ効果的な資金提供を実現しようとする「トラスト・ベースド・フィランソロピー(TBP:Trust-Based Philanthropy)」について、日本における具体的な実践を通じて、その可能性が議論されました。トラスト・ベースド・フィランソロピー・ジャパン(TBP-J)代表理事の番野智行氏がモデレーターを務め、フィッシュファミリー財団/JWLI代表の澤目梢氏と、みてね基金理事の岨中健太氏が登壇しました。

まず番野氏から、TBPの意義や、用途制限のない複数年助成、手続きの簡素化、フィードバックの重視、非金銭的支援の提供など、6つの実践原則が紹介されました。これらは、資金提供と組織支援の両面から、より深い協働を可能にする枠組みとされています。

澤目氏は、資金の使途に制限を設けず団体の自主性を尊重する助成のあり方や、ネットワークの紹介などの非金銭的支援、困難時に相談できる「セーフティネット」としての関係の重要性を語りました。現場を“目と耳”で確認する丁寧な対話の姿勢も紹介されました。

岨中氏は、目の前の成果ではなく、助成終了後の団体の将来像を重視する姿勢を説明し、これまでに約10億円を36団体に提供してきたステップアップ助成(事業や組織の強化)およびイノベーション助成(社会変革の創出)の取り組みを紹介しました。資金提供者と非営利団体がフラットな関係で共に課題解決に取り組む姿勢が貫かれており、TBPの実践が支援先の変容を促していると述べました。

また、TBPは、単に事務手続きの負担を軽減するだけでなく、支援先が本来取り組むべき社会課題に集中できる環境を整え、創造性や柔軟性を最大限に発揮できるよう支える戦略的なアプローチであるという考え方が共有されました。短期的な成果にとどまらず、地域に新たなロールモデルを生み出すような中長期的インパクトの可能性も紹介されました。

助成のあり方を「共創的なパートナーシップ」として捉え直すTBPは、より深い社会的インパクトを生み出す可能性を秘めており、日本における今後の広がりが期待されます。


【協賛セッション②】インパクト“K”プロジェクト座談会 2025 ~共創と協働によるインパクト・エコノミーの拡大へ向けて~

本セッションでは、座談会形式でインパクト”K”プロジェクトについて語り合いました。インパクト”K”プロジェクトを取り上げるのは昨年度に続いて2回目です。

まず、松本氏より、かんぽ生命のインパクト投資の社内認証制度について説明がありました。約2000万件の保険契約、約60兆円の総資産を持つ企業として、サステナブル投資に取り組む方針と、5つの認証要件について詳細な説明がなされました。

次いで、佐野氏より、Beyond Next Venturesの累計約480億円のファンド運用実績、日本とインドで80社以上への投資実績が紹介されました。また、ディープテックスタートアップへの投資を通じた社会課題解決への取り組みについて説明がありました。

宇田氏からは、環境エネルギー投資の累計650億円のファンド運用実績、180社への投資実績が紹介されました。環境・エネルギー分野における投資戦略とインパクト評価の取り組みについて説明がありました。

三者によるディスカッションでは、参加者からの質問に回答しながら、インパクト投資の実効性確保、社内での体制構築と浸透、IMM等についてざっくばらんに話しました。特に、インパクト創出の意図、インパクトと財務リターンの両立、成功事例の創出の重要性についての議論がなされました。


Day2(2025年5月15日)
【スペシャルセッション①】新たなサステナビリティ開示基準TISFDとは?〜基礎を学び、基準制定に向けた参画を考える

本セッションでは、TISFD(不平等社会関連財務開示タスクフォース)の設立と目的について詳しく解説がありました。TISFDは2024年に設立された、企業や金融機関が社会的不平等に関連するリスクと機会を報告するためのフレームワークを開発するイニシアチブです。タスクフォースは3年計画で進められ、2027年後半までにフレームワークを完成させる予定です。運営委員会、事務局、テクニカルチーム等で構成され、世界各地の様々なステークホルダーが参加を促していきます。セッションでは、ともに運営委員会メンバーのデライダ・ローゼンバーグ氏と木村武氏が解説役を務めました。

<キーポイント>
– TSFDの設立背景と目的
ローゼンバーグ氏が、TISFDの設立に関わった立場から、タスクフォースの設立背景と目的について説明しました。世界各地で社会経済的な排除のリスクが高まっており、企業や投資家にとって重要な課題となっていることを指摘し、グローバル化の減退や社会的不安の増大により、TCFDやTNFDがカバーした「環境」に加えて、「人」に関する影響依存関係とリスク機会を企業や金融機関が理解し報告する重要性を強調しました。

– 日本企業にとっての意味
木村氏が、日本企業から古くから培ってきた「三方よし」の概念がTISFDの理念につながること、日本企業の強みを強調し、投資家との対話を再構築することを含め、世界に先駆けてTISFDを活用して社会的課題に取り組むことが、日本の戦略的アドバンテージになるという説明がありました。

– 参加方法と今後の展開
メーリングリストへの登録やリンクトインのフォロー、TISFDアライアンスへの加盟など、具体的な参加方法が提示され、テクニカルコミュニティや地域ベースのカウンセルの設置予定についても言及ました。より堅牢な未来の構築に向けて、幅広い参加を呼びかけがありました。


【特別協力セッション①】ファイヤーサイド・チャット:波及するインパクト~カタリティック・フィランソロピーの潜在力~

本セッションは、SID2025特別協力の笹川平和財団の企画により実現しました。本セッションでは、昨年本財団が発表した報告書「波及するインパクト:アジアで解き放つカタリティック・フィランソロピーの潜在力」を通じて特定された、カタリティック・フィランソロピーを構成する要素とその実践について紹介がありました。(カタリティック・フィランソロピーとは、複雑な社会課題に対し、短期的な対処ではなく、持続可能で構造的な変化に焦点を当て、社会・経済開発に貢献する フィランソロピーの有望な手法として注目を集めつつあります)

モデレーターの松野氏からは、財団が社会課題解決のために触媒的な役割を担う重要性についての説明があり、PwC財団 代表理事の日向氏からはNPOに限らず全ての組織体への助成を行っていることやプログラムオフィサーによる伴走支援、使途自由な資金提供などの特徴的な取り組みの紹介がありました。そして本報告書の筆頭著者でもあるEarth Company/最高探究責任者・共同創設者の濱川氏からは、カタリティック・フィランソロピーの特徴について3×3のフレームワークで説明があり、本フレームの活用可能性について関心が集まりました。

今後のフィランソロピーの課題として、フィランソロピーにおけるイノベーションの構造的課題(時間軸、競争原理の欠如、情報開示)について話題にあがり、コレクティブインパクトの重要性や財団間の協力の必要性が議論されました。


【特別協力セッション②】(仮称)虎ノ門イノベーションセンターが目指す和をなす社会とは~パイロットプロジェクトの紹介~

本セッションでは、2027年度に竣工予定の虎ノ門一丁目東地区第一種市街地再開発事業と、その中核となる(仮称)虎ノ門イノベーションセンターについての紹介がありました。センターは2階から4階までの約4,000平米のスペースを活用し、対話と発信の場として機能する予定です。

川島氏からは、(仮称)虎ノ門イノベーションセンターの、「和をなす社会」の構想とが示され、共想・共創・共奏のを実現することで、分断を融和させる社会の実現を目指すというビジョンが示されました。

既に実践されている具体的な取り組みとして、障害者就労活性化に向けたパイロットプロジェクトが紹介され、特に精神障害者の就労支援に焦点を当てた「みんなのディーセントワーク」等の紹介がありました。


【セッション④】官民連携によるインパクト・エコノミーの共創の可能性

本セッションは、モデレーターを青柳氏(一般財団法人社会変革推進財団 専務理事、一般財団法人社会的インパクト・マネジメント・イニシアチブ評議員)が務め、水口剛氏(公立大学法人 高崎経済大学学長、一般財団法人社会的インパクト・マネジメント・イニシアチブ評議員、インパクトコンソーシアム会長)、池田賢志氏(金融庁 総合政策課長 チーフ・サステナブルファイナンス・オフィサー)、渋澤健氏(シブサワ・アンド・カンパニー株式会社代表取締役、コモンズ投信株式会社取締役会長、株式会社&Capital代表取締役CEO、GSG Impact JAPAN National Partner委員長、インパクトコンソーシアム副会長、一般財団法人社会的インパクト・マネジメント・イニシアチブ評議員)が登壇し、官民連携によるインパクトエコノミーの可能性についてパネルディスカッションを行いました。

まずモデレーターの青柳氏から、GSGインパクトジャパンとインパクトコンソーシアムの概要説明がありました。GSGインパクトジャパンは2014年に設立され、現在は世界50カ国以上のネットワークの一部となっています。インパクトコンソーシアムは2023年11月に設立され、金融庁が事務局を務めています。

<主な議論>

  1. GSGインパクトジャパンとインパクトコンソーシアムの役割と活動について
  2. 官民連携におけるプラットフォームの重要性
  3. インパクト測定と価値創造の必要性
  4. システムレベルでの変革の重要性

特筆すべき点として、渋澤氏は価値創造の重要性を強調し、水口氏はシステムレベルでの変革の必要性を指摘し、池田氏はデータ指標の重要性を強調しました。

<キーポイント>
– 官民連携の課題と展望
水口氏は価値システムの変革の重要性を指摘し、池田氏はデータ指標とシグナルの重要性を強調しました。また、渋澤氏は経営トップのコミットメントの必要性とインパクト測定の課題について言及しました。

– 今後のアクションと告知事項
GSGインパクトコンファレンスが5月20日に京都で開催予定であること、インパクトコンソーシアムは6月末に分科会の成果報告会を予定していることが発表され、両イベントへの参加が呼びかけられました。


【セッション⑤】システムチェンジを「捉える」には

本セッションは、モデレーターを川端氏(一般財団法人社会変革推進財団 インパクト・エコノミー・ラボ インパクト・カタリスト)が務め、ユン・ナムヒ氏(Impact Square ディレクター)とチウ・ユシャン氏(TSIC コンサルティング・ディレクター)が登壇し、システムチェンジとインパクト評価に関するパネルディスカッションを行いました。

議論の中心は、システムチェンジの評価方法、インパクト測定、そしてコミュニティ中心のアプローチについてでした。ユン氏は韓国での経験を共有し、2020年から5年間にわたるインパクトロジー研究機関の設立と、500以上のスタートアップを対象とした測定・評価の実践について説明しました。チウ氏は、評価プロセスにおけるコミュニティの参加の重要性と従来の評価方法の限界について指摘し、より包括的で学習中心型の評価アプローチを提案しました。
両氏とも、システムチェンジを実現するためには、単なるデータ収集を超えて、コミュニティとの協働と継続的な学習が不可欠であることを強調しました。

<キーポイント>
– システムチェンジの概要と導入
セッションは、システムチェンジの基本概念の説明から始まりました。社会問題の根本的な解決には、政策変更やステークホルダーの関与による社会構造の変革が必要であることが説明されました。特に、ホームレス問題などの具体例を用いて、システミックなアプローチの重要性が強調されました。

– 韓国におけるインパクト測定の実践
ユン氏は、韓国でのインパクト測定・評価の取り組みについて説明しました。2020年からの5年計画で設立されたインパクトロジー研究機関の活動、500以上のスタートアップを対象とした評価実践、サムスンやヒュンダイなどの大手企業との協働について詳細な報告がありました。

– 評価アプローチの革新と課題
チウ氏は、従来の評価方法の限界と、新しいアプローチの必要性について論じました。特に、コミュニティを中心に置いた評価方法の重要性、データ収集における質的・量的アプローチの統合、そして学習中心型の評価の意義について説明がありました。

– システムチェンジのための実践的提言
最後のセクションでは、両氏が実践的な提言を行いました。評価者と投資家の役割の再定義、コミュニティとの協働の重要性、そしてデータ収集と活用の新しいアプローチについて具体的な提案がなされました。特に、100以上の指標を持つ従来の評価方法の限界と、より焦点を絞った効果的なアプローチの必要性が強調されました。


【セッション⑥】欧州Impact Valuation Hubの実践に学ぶインパクトマネジメントのインパクト投資への実装

本セッションでは、欧州におけるインパクト投資エコシステムの発展の実践事例として、インパクト投資におけるIMMを実装するプラットフォームであるImpact Valuation Hubの活動と、そのインパクト投資への実装の事例として、Social Value InternationalのCEO、Ben Carpenter氏とインパクト投資家であるAstonar PartnersのLeslie Kapin氏にお話を頂きました。

Ben Carpenter氏は、インパクト評価の世界的なトレンドと、Social Value Internationalの28カ国にまたがるネットワークについて説明し、重要な原則を提示しました。レスリー氏は、Astonar Partnersでのインパクト投資とIMMの実践例を共有し、特にアグリフード分野での投資におけるインパクト評価とマネジメントについて解説しました。

これらのプレゼンテーションにより、Impact Valuation Hubが、投資家やアドバイザーコミュニティを含む幅広いステークホルダーを巻き込みながら、実践的なプラットフォームが、インパクト投資市場の形成にどのように貢献できるかということが示されました。


【スペシャルセッション②/協賛セッション③】企業の真価と「インパクト会計」

本セッションの前半では、まず、ヘラー氏から、欧州のサステナビリティ関連規制に関するインサイトとして、オムニバス法案の解説がありました。同法案のポイントとして、1)規制導入の遅延、2)対象企業数の削減、3)開示データポイントの削減が挙げられました。また、この動きは規制緩和ではなく、より実効性の高いシステム構築を目指す取り組みであるとの説明がなされました。
続いて、柳氏から、柳モデルの解説と、同モデルとインパクト会計の補完関係についての説明がありました。柳氏は、エーザイにおける従業員インパクトなどの具体的な数値を事例として示し、インパクト会計や柳モデルの意義について伝えるとともに、両手法の活用による価値の可視化について論じました。
さらに、Euler氏からは、ダブルマテリアリティ分析やベンチマーキングをするにあたって、インパクト会計の考え方がどのように活用可能かという点についての説明がありました。

各自のプレゼンテーションの後、ヘラー氏、柳氏によるパネルディスカッションを行ない、日本企業がインパクト会計に取り組む意義等についての議論がなされました。

後半では、今野氏から、非財務資本をいかに企業価値に向上につなげるかという議論と、それにつながるインパクト会計の日本企業における活用事例の紹介がありました。日本では既に複数企業の活用事例が生まれ、開示をしている企業もあります。また、今野氏からはアビームコンサルティングによる「日本企業の企業価値を向上させるESG指標」に関する興味深い結果も報告されました。


▼ Day3(2025年5月16日)
【セッション⑦】IMMの基礎と実践〜インパクトスタートアップとローカルゼブラの事例から学ぶ社会的インパクト・マネジメント

SIMIの一丁目一番地であるIMMについて、社会的インパクト・マネジメント・ガイドラインの内容を紹介しながら、実例を踏まえて学ぶセッションでした。近年のインパクト・エコノミーの地殻変動の例としてインパクトスタートアップとローカルゼブラの台頭があり、それぞれを代表する企業として、株式会社Ubie インパクト・オフィサーの守屋氏と石見銀山群言堂グループ 代表取締役の松場氏に登壇いただきました。

Ubie は、患者と適切な医療情報のマッチングを目指し、AI等のテクノロジーを活用したプラットフォームを運営しています。石見銀山群言堂グループ は、人口400人の島根県大田市大森町での地域づくりの取り組みについて共有し、群言堂として全国に33店舗を展開しながら、地域の魅力発信と移住・定住の促進に取り組んでいる事例を紹介いただきました。

両社の事例を社会的インパクト・マネジメント・ガイドラインを踏まえて整理すると、IMMの力点の置き方や着眼点の違いなどが明らかになりました。例えば、インパクトスタートアップとローカルゼブラにおける社会的ニーズの捉え方の違い、アウトカム設定の方法の違い、セオリー(インパクト戦略)構築の際の考え方の違い、組織カルチャーの醸成の仕方やガバナンスの力点の違い等、大変興味深いものでした。今後SIMIでは、社会的インパクト・マネジメント・ガイドライン活用促進を見据えて、このような分析も行っていきたいと考えています。


【協賛セッション④】ショートピッチセッション:インパクト創出への取り組み

本セッションでは、協賛企業2社によるインパクト投資に関するショートピッチを行いました。

最初に、インパクトサークル株式会社の高橋氏が、同社のインパクト可視化サービスとDXシステムについて説明しました。同社は、フィリピンと日本でインパクトファイナンスを提供し、特に貧困削減や就業機会創出に焦点を当てています。
続いて、クレディセゾンの若松氏が、同社のグローバルなインパクト投融資事業について発表しました。クレディセゾンは9カ国で事業を展開し、2024年3月時点で約3700億円の融資実行額を達成し、240万件の融資を実行しています。
両社とも、インパクトの可視化と測定を重視し、特に受益者の声を重要視していることが強調されました。

<キーポイント>
– インパクトサークルの事業概要と取り組み
インパクトサークル株式会社は、インパクト可視化に特化したスタートアップ企業として、東京を本社とし、フィリピンに子会社を持っています。主要株主には三井住友海上や三菱銀行などが含まれています。同社は、インパクトファイナンスの提供と、インパクト可視化のコンサルティング・BPO・システム提供を主な事業としています。
インパクトファイナンスの具体的事例として、フィリピンでは、ドライバー向けの車両ローンや被災地の漁業者向けの船舶ファイナンス、日本では物流ドライバー向けの車両リースなど、具体的なインパクトファイナンスの事例が紹介されました。これらの事業を通じて、貧困削減や就業機会の創出などの社会的インパクトを生み出しています。

– クレディセゾンのグローバル展開とインパクト投融資
クレディセゾンは、1951年の創業以来、金融包摂を重視してきました。現在は9カ国でインパクト投融資を展開し、2024年3月時点で約3700億円の融資実行額を達成。特に中小零細企業向けローン(45%)、農業ローン(22%)、個人ローン(18%)に注力しています。
今後の展望として、クレディセゾンは、投融資先企業のESG向上を支援するためのテクニカルアシスタンス(TA)プログラムの実装を進めています。インドネシアでのパイロット事例として、投資会社へのESGマネジメントシステムの導入支援を行っており、今後さらなる展開を計画しています。また、ブルーマーク社からの検証も受け、インパクト投融資家としての信頼性向上に努めています。


【セッション⑧】「共助資本主義」経営による持続的な企業価値の向上

本セッションでは、経済同友会が提唱する「共助資本主義経営」について、同友会共助資本主義社会実現委員会の委員長である井上ゆかり氏(日本ケロッグ代表)と伏見隆弘氏(ICHI COMMONS株式会社代表取締役)に、企業の経済価値と社会価値の両立について議論を頂きました。

井上氏から、ケロッグ社の事例を通じて、創業以来の社会貢献活動とビジネスの統合について説明し、特に子供向けの朝食支援プロジェクトなど具体的な取り組みを紹介しました。
伏見氏は、2023年に経済同友会によって提唱された概念と2024年1月に発表されたガイダンス文書をもとに、経済同友会の共助資本主義実現委員会の活動や、企業とNPOの連携の重要性、人材育成プログラムなどの新しい取り組みを紹介しました。

議論では、企業の社会貢献活動が持続的な企業価値向上につながる戦略的な投資であることが強調されました。

参考資料

Social Impact Day 2025 を終えて(SIMI理事 高木麻美)
開催報告書(PDF版)

これまでのSocial Impact Day

第8回(2024年5月15日、16日、17日)インパクト・エコノミーが実現するシステム・チェンジ
第7回(2023年2月1日、2日、3日)新しい社会経済の形〜インパクト・エコノミーの社会実装
第6回(2022年1月21日、22日、23日)インパクト・エコノミーへの転換点– 社会的インパクト時代の到来 –
第5回(2021年1月23日、25日、26日)3 days – Act on your Social Impact
第4回(2019年7月2日)インパクト測定とインパクト・マネジメントのエコシステム形成に向けて
第3回(2018年6月27日)社会的インパクト「評価」→「マネジメント」へのシフト
第2回(2017年6月29日)社会的インパクト評価推進に向けたロードマップ
第1回(2016年6月14日) いよいよ動き出す社会的インパクト評価の未来

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